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ジェネシス・G90:韓国が誇る“走る宮殿”、世界の頂点を目指したフラッグシップセダン

ジェネシス・G90 3.5T e-SC 諸元データ

・販売時期:2022年〜(現行)
・全長×全幅×全高:5,275mm × 1,930mm × 1,490mm
ホイールベース:3,370mm
・車両重量:2,365kg
・ボディタイプ:4ドアセダン
・駆動方式:AWD(電子制御4WD)
・エンジン型式:V6 3.5L ツインターボ+電動スーパーチャージャー
・排気量:3,470cc
・最高出力:415ps(305kW)/ 5,800rpm
・最大トルク:55.3kgm(542Nm)/ 1,300〜4,500rpm
トランスミッション:8速AT
・サスペンション:前:マルチリンク / 後:マルチリンク(エアサスペンション付き)
・ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
・タイヤサイズ:前 245/45R20 / 後 275/40R20
・最高速度:約250km/h
・燃料タンク:80L
・燃費(韓国公表値・複合モード):約9.3km/L
・価格:約1億8,700万ウォン(約2,000万円前後/韓国仕様)
・特徴:
 ・分割型LED「Two-Line」ヘッドライトとCrest Grilleによる象徴的デザイン
 ・電動スーパーチャージャー付き3.5Lツインターボの滑らかな加速
 ・香り、照明、音響を統合制御する「Mood Curator」で極上の車内体験

 

韓国が本気で世界の高級車市場に挑む――そんな言葉がぴったりなのが、このジェネシス・G90(RS4型)です。現代自動車のプレミアムブランド「ジェネシス」が手がけるフラッグシップモデルとして、2022年に登場したこの車は、単なるセダンではありません。国の威信を背負い、ブランドの哲学を体現した“走る芸術品”なのです。

デザインテーマは「Athletic Elegance(アスレチック・エレガンス)」。この言葉には、“動的でありながら、決して派手すぎない”という、韓国的な美意識が込められています。フロントには王冠のような「Crest Grille(クレストグリル)」、そして象徴的な二本線の「Two-Lineライト」。この組み合わせは、遠くからでも一瞬でG90だとわかる存在感を放っています。

さらに注目すべきは、その立ち位置です。ジェネシスは単にラグジュアリーを目指すのではなく、“韓国らしい高級車”をどう表現するかというテーマに挑戦しています。メルセデス・ベンツSクラスやBMW 7シリーズをライバルに据えながらも、内装の細部には韓国の伝統工芸「ハンジ(韓紙)」や「金属象嵌(いんらん)」などのエッセンスを取り入れ、独自の文化的高級感を追求しているのです。

その成果として、G90は韓国大統領専用車にも採用され、国家の象徴的存在となりました。世界の要人が乗る車と同列に語られるほどの完成度を持ちながら、韓国の感性を大切にしている点こそが、この車の最大の魅力です。
つまりG90は、単にラグジュアリーを追うだけでなく、「国の誇りを形にした車」なのです。

 

韓国車の常識を覆したデザイン革命

ジェネシス・G90(RS4型)の登場は、韓国車デザインの“革命”でした。これまでの韓国車といえば、どちらかといえば欧州ブランドをお手本にした“安全なデザイン”が主流でした。しかしこのRS4型でジェネシスが掲げたのは、「誰の真似もしない美しさ」。それを具現化したのが「Athletic Elegance(アスレチック・エレガンス)」という哲学です。

G90のフロントを見れば、その思想は一瞬で伝わります。象徴的な「Crest Grille(クレストグリル)」は、まるで王冠のように堂々と構え、そこから伸びる”Two-Lineライト”がボディサイドまで水平に走る。この二本線はブランド全体を貫くデザインアイコンで、まるで車体を光のペンで描いたような印象を与えます。夜の街でライトが点灯すれば、G90がそこにいるとすぐにわかるほどです。

また、ボディラインの滑らかさも特筆すべき点です。彫刻を削り出したような立体造形は過度なラインを避け、シンプルさの中に緊張感を持たせています。ジェネシスのデザインチームを率いるのは、元ベントレーのデザイナー、ルク・ドンカーヴォルケ氏。彼は「デザインとは筋肉と静けさの共存」と語り、G90のボディにはその哲学が見事に表れています。

そして細部の仕上げも、もはや“職人芸”の域です。メッキではなく、光の反射を丁寧に制御したアルミパネル。リアライトに至るまで一本の線で繋がるシルエット。これらは単に視覚的な美しさを追ったものではなく、「光そのものをデザインする」という発想から生まれています。

興味深いのは、このデザインが韓国国内だけでなく、欧米のメディアでも高く評価されたことです。特にアメリカの評論家からは、「レクサスの追従ではなく、ベントレーと同じステージに立った」と称賛されました。つまりG90は、韓国車という枠を飛び越え、世界の高級車ブランドの一員”として認識された瞬間だったのです。

デザインとは単に見た目の美しさではなく、ブランドの価値観そのものを表現する手段です。G90はそのことを、これ以上なく雄弁に語っている車だと言えるでしょう。

 

大統領専用車に選ばれた理由

ジェネシス・G90(RS4型)は、ただの高級セダンではありません。韓国大統領専用車として正式に採用された、いわば「国家の顔」でもあります。国家元首が乗る車というのは、その国が持つ技術力と美意識を象徴するものです。ドイツのメルセデスマイバッハS600、アメリカのキャデラック「ビースト」、日本のセンチュリー同様に、G90は韓国の誇りを背負って生まれた車なのです。

大統領専用車仕様のG90は、防弾ガラスや強化ボディを備えた特別設計です。一般的なG90が約2.3トンであるのに対し、専用車はさらに重厚な防護装備を加えています。爆発や銃撃にも耐えるボディ構造を採用し、タイヤは被弾しても一定距離を走行できる“ランフラット仕様”。これらはすべて、韓国国内での技術開発によって完成したもので、輸入車への依存を減らすという国策的な意味も持っています。

しかし、G90が大統領車に選ばれた理由は、単なる防護性能だけではありません。最大のポイントは「静粛性と品格」です。電動スーパーチャージャー付きV6ツインターボエンジンは、力強さと静けさを両立し、外の喧騒を遮断するように滑らかに走ります。走行中もキャビン内はほとんど無音に近く、発進時にはまるで電気自動車のような静けさ。外交行事などで重要な人物を乗せる際、この“静かさ”こそが最大の安心感につながるのです。

さらに、インテリアも国家の威厳にふさわしい仕立てです。後席のリクライニングシートは、航空機のファーストクラスを思わせる快適さを持ち、センターアームレストには大型のディスプレイとシャンパンクーラーを内蔵。木目パネルは韓国伝統の細工技法「金属象嵌(いんらん)」をモチーフとしており、工芸品のような温かみがあります。これは「西洋の模倣ではなく、韓国の文化を継承する高級車である」というジェネシスの信念の表れでもあります。

2022年の就任式では、ユン・ソギョル大統領が実際にこのG90に乗り込む姿が報じられました。世界のメディアがそのシーンを取り上げ、「韓国がついに自国製の大統領専用車を持った」と称賛したのです。かつて外国車が当然だった“権威の象徴”の座に、ついに韓国車が登りつめた瞬間でした。

このG90が持つ存在感は、単なる高級車の域を超えています。それは「技術力と文化の融合体」であり、韓国が世界に向けて誇りを示すための象徴なのです。

 

五感をもてなす、究極のラグジュアリー体験

ジェネシス・G90(RS4型)が世界の高級車と一線を画す理由は、「走り」だけではなく「感じ方」そのものをデザインしている点にあります。単に移動を快適にするだけでなく、乗る人の五感を満たす「体験」を提供する――それがこの車の真価です。

まず目を奪うのは、インテリアの美しさです。ウッド、レザー、メタルを自然に調和させた空間は、まるで高級ホテルのスイートルームのよう。各素材は韓国の伝統工芸の要素を現代風に解釈しており、手に触れる部分の感触までも丁寧に設計されています。ドアを閉めた瞬間に感じる“密閉された静寂”は、まるで世界から切り離されたような感覚を与えてくれます。

この静寂を支えるのが、アクティブノイズコントロール技術です。マイクで室内の騒音をリアルタイムに検知し、反位相の音を発生させて打ち消す仕組み。高速走行中でも会話の声が澄み渡り、音楽が生演奏のように響きます。さらに、B&Oバング&オルフセン)製のプレミアムオーディオが搭載され、車内の形状に合わせて音を最適化。コンサートホールのような臨場感を実現しています。

また、G90が特にユニークなのは、香りと照明を組み合わせた「Mood Curator」機能です。これは、走行モードに応じて車内の照明色、香り、シートマッサージ、音楽まで連動して変化するというもの。「Relax」モードを選ぶと淡い琥珀色の光と落ち着いた香りが広がり、「Vitality」モードでは軽快な香りと共に明るい照明が点灯します。機械的ではなく、あくまで人の感性を中心に設計されているのが印象的です。

さらに、後席のリラクゼーションシートは圧巻です。リクライニング角度は最大で約43度、脚を伸ばせばフルフラットに近い姿勢が取れます。マッサージ機能や温度調整はもちろん、後席専用のディスプレイから香りや照明まで一括操作が可能。移動中に会議をしたり、映画を観たりと、時間の質そのものを変えてしまう車です。

G90は単に「豪華」な車ではなく、心の状態までも整える移動空間として作られています。ジェネシスが掲げる「人を中心にしたラグジュアリー」という哲学は、この車のすべてのスイッチ、音、香り、そして静寂の中に息づいているのです。

 

まとめ

ジェネシス・G90(RS4型)は、韓国が世界に誇る“新しい高級車の形”を提示した一台です。デザインでは「Athletic Elegance」という哲学のもと、筋肉のような力強さと静けさを融合させ、存在そのものに品格を宿しました。さらに、国家元首を乗せる大統領専用車としての信頼性と安全性を備え、国の象徴としての地位を確立。もはや輸入車の模倣ではなく、「韓国らしさ」を武器にしたグローバルラグジュアリーへと進化したのです。

そして何より、G90は“移動の時間を豊かにする”ことに成功しました。香り、音、照明、手触り、静寂――それらをすべて統合した体験は、まさに五感の芸術です。現代社会で忙しく生きる人々にとって、車内で心を整えるという新しい価値観を提示しています。

ジェネシスがここまで完成度の高い車を生み出した背景には、単なる技術の積み重ねではなく、「人を中心にした美学」があります。G90はその頂点であり、未来の電動化モデルへと続く道標でもあります。韓国の自動車文化が成熟し、世界のラグジュアリー地図に新たな旗を立てた。その象徴こそが、G90という存在なのです。