モーガン・ミッドサマークーペ 諸元データ
・販売時期:2026年~(生産中)
・全長×全幅×全高:非公表
・ホイールベース:非公表(ベースのCXVプラットフォームに準拠)
・車両重量:約1,200kg
・ボディタイプ:2ドアクーペ(コーチビルド)
・駆動方式:FR(後輪駆動)
・エンジン型式:BMW製B58型 直列6気筒ターボ
・排気量:3.0L
・最高出力:402ps(296kW)/回転数非公表
・最大トルク:約51.0kgm(500Nm)/回転数非公表
・トランスミッション:8速AT
・サスペンション:前:非公表 / 後:非公表
・ブレーキ:非公表
・タイヤサイズ:19インチ(ミシュラン製)
・最高速度:非公表(姉妹車スーパースポーツ400は約290km/h)
・燃料タンク:非公表
・燃費(JC08モード):非公表
・価格:25万ポンド以上(約5,000万円以上、カスタム内容により変動)
・特徴:・世界に9台のみのコーチビルド限定モデル
・モーガンとピニンファリーナの共同開発によるデザイン
・ガラスルーフを車体構造に接着し剛性向上に貢献
たった一人の要望から生まれた、9台だけの物語
車づくりというのは、本来とても大掛かりな仕事です。
何百人、何千人ものエンジニアが関わり、何年もかけて開発し、何万台という単位で販売してようやく利益が出るのが普通の自動車メーカーの姿です。
でもモーガンは、そんな常識とはまったく違う場所で車を作っているメーカーです。
ミッドサマークーペの始まりは、2024年に発表されたオープンモデル「ミッドサマー」にまで遡ります。
この車を気に入ったオーナーの一人が、モーガンにこう相談しました。
「このデザインを、屋根付きのクーペにできないだろうか」と。
普通の自動車メーカーであれば、一人の顧客の要望だけで新しいモデルを開発することはまずありません。
どうしても採算が合わないからです。
しかしモーガンにとって、この規模感こそが得意分野でした。
もともと少量生産を前提としたコーチビルド(車体を手作業で仕立てる製法)を得意としてきたメーカーでした。
だからこそ、一人の熱意に応えるという選択ができたわけです。
そしてモーガンは、この提案を単なるオープンカーへの屋根の追加とは考えませんでした。
なんと、デザインチームとエンジニアリングチームが本気で向き合い、一台のグランドツアラーとして作り直すことにしたのです。
最初の顧客の依頼をきっかけに、さらに8件もの追加オーダーが舞い込みました。
結果として、世界中でたった9台しか作られない、非常に希少な一台が誕生することになったのです。
これは、いわば「口コミから生まれた車」と言えるかもしれません。
大々的な市場調査や販売戦略の末に生まれたのではなく、一人のお客さんの「こんな車が欲しい」という素朴な願いが、次々と共感を呼んで形になっていく。
大量生産の時代にあって、こうした一対一の関係から生まれる車があるというのは、なんだかとても人間味があって面白い話だと思います。
車を売るという行為が、単なる商取引ではなく、一人の夢を一緒に叶えていくプロセスになっている。
ミッドサマークーペは、そんなモーガンらしい哲学が詰まった一台なのです。
モーガンとピニンファリーナ、伝統と革新の融合デザイン
ミッドサマークーペのデザインを語るうえで欠かせないのが、イタリアの名門デザインハウス、ピニンファリーナの存在です。
ピニンファリーナといえば、フェラーリの数々の名車を手がけてきたことで知られる、自動車デザイン界のトップブランド。
英国のクラシックスポーツカーメーカーであるモーガンと、イタリアの洗練されたデザインハウスという組み合わせは、一見すると意外に思えるかもしれません。
でも両社の関係は、実はちょっとしたきっかけから始まりました。
2022年、両社のデザインチームが、とあるパブで偶然顔を合わせたことが交流のきっかけになったと言われています。
車のデザインというと、綿密な戦略会議から始まるようなイメージがあるかもしれませんが、実際にはこんな何気ない出会いから、後に世界を驚かせるコラボレーションが始まることもあるのです。
そうして生まれたミッドサマークーペの外観は、単純にオープンモデルへ屋根を載せただけのものではありません。
固定式の屋根を持つ車として、プロポーションそのものから見直されています。
特に印象的なのが、大きく傾斜したガラスルーフです。
このガラスルーフは車体に接着される構造になっていて、屋根がボディの強度を高める役割も担っています。
分かりやすく言うと、卵の殻が丸みを帯びていることで割れにくくなっているのと同じような発想です。
ガラス自体が構造の一部になることで、車全体の剛性を高めているというわけです。
またボディの下部には、ステンレス製の磨き上げられたパネルが配置されていて、オープンモデルであった先代ミッドサマーとの視覚的なつながりも意識されています。
内装に目を向けると、ミッドサマーの特徴でもあったチーク材が、クーペにも受け継がれています。
木の温かみのある質感と、アルミニウムやレザーといった素材が組み合わさることで、まるで高級な家具に囲まれているかのような上質な空間が作り出されています。
ギアセレクターにもチーク材の象嵌が施されているなど、細部に至るまで職人のこだわりが行き届いています。
英国の伝統的なコーチビルド技術と、イタリアの洗練された美意識。
この二つが交わることで、他のどのメーカーにも真似できない、唯一無二のデザインが完成したのです。
BMW製直6ターボが生み出す、見た目に反する俊足
クラシックな佇まいのミッドサマークーペを見て、多くの人はきっと「ゆったりと走る優雅な車」を想像するのではないでしょうか。
長く伸びたボンネットや、流れるようなフェンダーラインは、たしかにどこか懐かしい雰囲気を漂わせています。
ところが、そのボンネットの下に隠されているのは、想像とはまったく違う実力派のエンジンです。
搭載されているのは、BMW製の3.0リッター直列6気筒ターボエンジン、通称B58型です。
このエンジンは、BMWの主力モデルにも数多く採用されている実績のあるユニットで、パワーと信頼性を兼ね備えています。
ミッドサマークーペに積まれるバージョンは402馬力を発揮するとされていて、これは姉妹モデルである「スーパースポーツ400」と同じ数値です。
スーパースポーツ400は、モーガンの歴史の中でもっともパワフルなモデルとして知られています。
つまりミッドサマークーペは、クラシックな見た目とは裏腹に、モーガン史上最強クラスの心臓部を持っているということになるのです。
見た目からは想像できない俊敏さが、このボンネットの下に隠されています。
そしてこの力強さを支えているのが、車両重量の軽さです。
固定式の屋根を追加したことで、通常であれば車重は大きく増えてしまうものです。
しかしミッドサマークーペの重量は、屋根のないスーパースポーツと比べてもわずか2.5パーセントほどの増加に抑えられています。
アルミニウム製のボディパネルや、軽量な木製フレームといった、モーガンが長年培ってきた軽量化のノウハウが存分に活かされている証拠です。
パワフルなエンジンと、軽量なボディの組み合わせ。
この二つが揃うことで、ミッドサマークーペは見た目のクラシックな印象を裏切る、俊敏な走りを実現しているのです。
信号待ちで隣に並んだ現代のスポーツカーが、まさかこの古風な佇まいの車に置いていかれるとは思わないはずです。
そんなちょっとした痛快さも、ミッドサマークーペが持つ隠れた魅力の一つと言えるでしょう。
まとめ
ここまで、モーガン・ミッドサマークーペについて、その誕生のきっかけからデザイン、そして走りの実力まで見てきました。
改めて振り返ってみると、この一台は単なる「限定車」という言葉だけでは語り尽くせない魅力を持っていることが分かります。
一人の顧客の素朴な要望から始まり、それに共感した仲間たちが集まり、最終的に9台という希少な物語が完成した経緯は、大量生産が当たり前になった現代の自動車業界において、とても新鮮に映ります。
車を買うということが、単なる商品の購入ではなく、メーカーと一緒に一つの夢を作り上げていくプロセスになっている。
そんな贅沢な体験が、このミッドサマークーペには詰まっています。
またデザイン面では、英国の伝統的なコーチビルド技術と、イタリアの洗練されたセンスが見事に融合しています。
ガラスルーフが車体の強度を支えるという発想一つを取っても、単なる見た目の美しさだけでなく、機能性まで考え抜かれていることが伝わってきます。
そして忘れてはならないのが、クラシックな外観からは想像もつかない、BMW製エンジンによる俊敏な走りです。
優雅な佇まいと、俊足の走行性能という一見矛盾する二つの要素を、モーガンは軽量なボディという知恵で見事に両立させてみせました。
正直なところ、9台しか作られないこの車を実際に手にできる方は、ごくわずかでしょう。
それでも、こうした一台が今の時代に生まれたということ自体が、私たちに車づくりの本来の楽しさを思い出させてくれます。
効率や採算だけでは測れない、作り手と乗り手の情熱が詰まった一台。
それが、モーガン・ミッドサマークーペなのです。
もし将来どこかのクラシックカーイベントで、この車を見かける機会があれば、ぜひじっくりとその佇まいを眺めてみてください。
きっと、写真や記事だけでは伝わらない魅力に気づかされるはずです。
