
ホールデン・プレミア(HK 307 V8)諸元データ
・販売時期:1968年1月~1969年6月
・全長×全幅×全高:4724mm × 1836mm × 1435mm
・ホイールベース:2819mm
・車両重量:約1340kg
・ボディタイプ:4ドアセダン(ワゴンもあり)
・駆動方式:FR(後輪駆動)
・エンジン型式:Chevrolet 307 V8
・排気量:5031cc
・最高出力:240ps(177kW)/ 4800rpm
・最大トルク:41.5kgm(407Nm)/ 3000rpm
・トランスミッション:2速パワーグライドAT / 3速MT
・サスペンション:前:独立コイル / 後:リーフリジッド
・ブレーキ:前:ディスク / 後:ドラム
・タイヤサイズ:6.95×14
・最高速度:推定180km/h
・燃料タンク:68L
・燃費(参考値):約7~9km/L
・価格:約3,200豪ドル(当時)
・特徴:
- 豪州製セダンでV8を搭載した上級グレード
- アメリカ車風のワイド&ローなデザイン
- インテリアにはウッド調パネルや高級ファブリックを採用
1960年代後半のオーストラリアは、経済成長の波に乗り、人々のライフスタイルにも「豊かさ」を求める空気が広がっていました。そんな時代に登場したのが、ホールデン・プレミアの3代目。いわば「オーストラリア人が夢見るラグジュアリーセダン」を体現した存在です。ベースとなったのはホールデンHKシリーズ。その中でもプレミアは、スタイリングや装備で一線を画しており、まるでアメリカのキャデラックやシボレーを思わせるような風格をまとっていました。大きなボディにクロームメッキが輝き、室内にはウッドパネルとファブリックの豪華な内装。まさに“ちょっと背伸びした家族”の憧れだったのです。
さらに注目すべきは、307キュービックインチ(約5L)のV8エンジンを搭載していたこと。ラグジュアリーでありながら走りも本格派という、まさに二兎を追った一台でした。今回はそんな3代目ホールデン・プレミアの魅力を、「デザイン」「走り」「文化的背景」の3つの視点から紐解いてみたいと思います。国産高級車の先駆けとして、どんな存在感を放っていたのか、じっくりご紹介します。
アメリカナイズされたデザインと装備の進化
1968年に登場した3代目ホールデン・プレミアは、それまでの「ちょっと豪華なホールデン」というイメージを大きく塗り替える存在でした。ベース車両であるHKシリーズ自体がすでにワイド&ローなスタイルへと進化していましたが、プレミアはその中でもとくに「アメリカ車っぽさ」を強調した仕様となっていました。たとえばフロントグリルには重厚感あるクロームメッキがふんだんに使われ、ボディサイドにはサイドモールディングがきらり。ウインドウ周りにも装飾が施され、ぱっと見ただけで「これは普通のホールデンとは違うぞ」と感じさせる迫力がありました。
室内に目を向けても、ラグジュアリー路線はしっかり徹底されています。インパネはウッド調パネルで仕上げられ、シートには高級感のあるファブリックやビニールを使用。リクライニング可能なバケットシート、ラジオ、ヒーター、そしてエアコン(当時としては高級装備!)も装着可能と、装備の充実ぶりは国産車の中でも群を抜いていました。特に「プレミア」の名のとおり、オーナーに「上質な体験」を提供することを意識したつくりになっていたのです。
そして忘れてはいけないのが、セダンだけでなく「プレミア ステーションワゴン」がラインナップされていたこと。荷室の広さと高級感を両立させたワゴンというのは、当時としてはかなり珍しい存在でした。家族旅行からビジネスユースまで幅広く活躍できる万能カーでもあり、その万能さに“ちょっといい暮らし”を求める多くのオージーたちが魅了されていったのです。
V8エンジンと走りの実力:ホールデンの性能志向
3代目プレミアの大きな魅力のひとつが、V8エンジンの搭載でした。実はHKシリーズまでは、V8エンジンといえばアメリカからの輸入品が使われていたのですが、翌年のHTシリーズからは、ついに**ホールデン製のオリジナルV8(253ciと308ci)**が登場します。これにより、ホールデンは「自社製V8を積んだ国産高級セダン」という新しいステージに足を踏み入れたことになります。プレミアにとってもこれは大きなターニングポイントでした。
とはいえ、初期のHK型プレミアに搭載されていたのは、シボレー由来の307キュービックインチ(約5.0L)V8エンジン。これがまた、見た目のラグジュアリーさとは裏腹に、なかなかパンチの効いた走りを見せてくれるんです。最高出力は240馬力に達し、高速巡航時の静粛性や余裕のある加速感は、まさに「豪州版インパラ」と言っても過言ではないほど。街乗りから長距離ツーリングまで、どんな場面でも力強く応えてくれるエンジンでした。
駆動方式はFR(後輪駆動)で、選べるトランスミッションは3速MTと2速のパワーグライドAT。当時としてはどちらも一般的な仕様ですが、プレミアにおいてはATの滑らかな変速と相まって、まさに「余裕のある走り」を提供してくれました。足回りはソフト寄りで、突き上げを抑えた快適な乗り心地もポイント。実はこの世代、ラグジュアリーセダンでありながら、直線では結構速いという“隠れGT”的な一面も持っていたのです。
その走りの実力は、単なる装飾過多な高級車では終わらせないホールデンの意地ともいえる部分でした。快適性とパワー、両方を求めるオーストラリア人のニーズに、しっかりと応えていたというわけです。
オーストラリアのステータスシンボル:プレミアの文化的役割
1960〜70年代のオーストラリアで「ホールデン・プレミアに乗る」ということは、単なる移動手段ではなく、**ひとつの“成功の証”**として捉えられていました。豪州では当時、まだ車の多くがシンプルで実用本位だった時代。そんな中でプレミアは、堂々たるボディときらびやかな装飾、そして静かで力強い走りを武器に、「裕福な家庭の象徴」として人々の目に映っていたのです。
例えば、地元企業の経営者や、郊外に住む中流以上の家庭の父親が乗る車といえば、このプレミアが定番でした。スーツ姿で車に乗り込む姿が様になり、週末には家族を連れてドライブに出かける。そんな光景が、オーストラリア中に広がっていたのです。特にワゴンタイプのプレミアは、家族持ちにとって理想の一台であり、「働き者で、かつセンスのいいお父さん」というイメージそのものでもありました。
この文化的な地位は、他のホールデン車とは明らかに異なります。ベルモントやキングスウッドが庶民的なイメージを持っていたのに対し、プレミアは一段上の階層を狙ったモデル。そのため、テレビCMや雑誌広告でも「優雅な暮らし」や「成功のライフスタイル」が前面に押し出され、まるで車が“人生のランクアップ”を象徴するかのような演出がなされていました。
こうした背景もあって、ホールデン・プレミアは単なる「装備が豪華なホールデン」ではなく、その人のライフスタイルや価値観までも映し出す1台として記憶されています。今見ても、そのクロームの輝きや威風堂々とした佇まいには、当時のオージーたちが抱いた誇りと憧れがにじんでいるように感じられます。
まとめ
3代目ホールデン・プレミアは、ただの上級グレードという枠を超えて、オーストラリアの自動車史において特別な存在感を放っていました。ワイドで低く、アメリカ車を思わせる大胆なデザイン。そして、快適性とパワーを両立したV8エンジンの走り。どれもが、当時のオージーたちにとって「いつかは手にしたい」理想のクルマだったのです。
また、クルマそのものの魅力だけでなく、持つ人の暮らしや価値観を映し出すような“文化的アイコン”としての役割も大きかった点は見逃せません。日常をちょっと豊かに、特別なものに変えてくれる──そんな魔法のような力を、プレミアは持っていました。
現在、当時のHK〜HG型プレミアは、クラシックカー愛好家の間でも人気が高く、丁寧にレストアされた個体は高値で取引されています。まさに“時代を超えた魅力”を持つ1台として、今もオーストラリアの人々の記憶に刻まれているのです。