ZEEKR 009(ロングレンジ AWD / 2022年モデル)諸元データ
- 販売時期: 2022年〜現在
- 全長×全幅×全高: 5,209mm × 1,999mm × 1,840mm
- ホイールベース: 3,205mm
- 車両重量: 2,888kg
- ボディタイプ: ミニバン(MPV)/6〜7人乗り
- 駆動方式: AWD(前後モーター)
- エンジン型式: 電気モーター(フロント+リア)
- 排気量: ― (電気自動車)
- 最高出力: 544ps(400kW)
- 最大トルク: 686Nm
- トランスミッション: 固定ギア(シングルスピード)
- サスペンション: 前:マルチリンク / 後:マルチリンク(エアサスペンション)
- ブレーキ: 前後ベンチレーテッドディスク
- タイヤサイズ: 255/50R19
- 最高速度: 200km/h
- バッテリー容量: 140kWh
- 航続距離(NEDCモード): 約822km
- 価格: 約499,000人民元〜(中国市場、日本円換算で約1,000万円前後)
- 特徴:
- 航空機ファーストクラスを意識した超大型リラクゼーションシートを後席に装備
- 吉利グループ独自のSEAプラットフォーム採用による高剛性・大容量バッテリー搭載設計
- ボルボ由来の安全技術とLiDARを含む高度な運転支援システムを標準装備
「高級ミニバン」と聞いて、あなたはどんなクルマを思い浮かべますか?
おそらく多くの日本人は、トヨタ・アルファードの顔を思い浮かべるのではないでしょうか。
あの堂々としたフロントマスク、乗り込んだ瞬間に広がる上質な空間。
芸能人の送迎車としても定番で、「いつかはアルファード」と憧れる方も少なくないはずです。
ところが今、そのアルファードに真正面から挑もうとしているクルマが中国から登場しました。
その名もZEEKR 009(ジーカー・ゼロゼロナイン)。
中国の巨大自動車グループ、吉利汽車が立ち上げたプレミアムEVブランド「ZEEKR」の旗艦モデルです。
全長5.2メートルを超える堂々たるボディに、航空機のファーストクラスを意識したという後席シート。
そして満充電から800kmを超えるという驚異の航続距離。
スペックだけ見れば、もはやSF映画の世界の話のようです。
「でも中国車でしょ?」と思った方、少し待ってください。
ZEEKRは、スウェーデンの名門ブランド「ボルボ」を傘下に持つ吉利グループが、本気でグローバルプレミアム市場を狙うために立ち上げたブランドです。
ボルボ由来の安全技術はもちろん、かつてあのロータスをも傘下に収めたグループの技術力が惜しみなく注ぎ込まれています。
「中国製=安価でそれなり」というイメージは、少なくともZEEKR 009には当てはまらないかもしれません。
実際、中国国内ではZEEKR 009は富裕層に熱狂的に迎えられました。
価格は日本円換算でおよそ1,000万円前後。
それでも予約が殺到したといいます。後席に座るオーナーのために設計された、まるでラウンジのような車内空間が話題を呼び、「動く高級ホテルの一室」とまで表現されるほどの完成度です。
このブログでは、そんなZEEKR 009の魅力を3つの切り口から掘り下げていきます。
なぜこのクルマがここまで注目されるのか、どんな思想のもとで生まれたのか、そして世界市場にどんな波紋を投げかけているのか。
「中国発の高級EV」という、これまでなかったカテゴリーの誕生を、一緒に目撃してみましょう。
アルファードを超えるか?"動くラウンジ"という衝撃のコンセプト
クルマの後席に乗ることを、「移動」ではなく「体験」と呼ぶ日が来るとしたら、それはZEEKR 009のような存在が切り開く未来なのかもしれません。
ZEEKR 009が掲げたコンセプトは、一言でいえば「後席ファースト」です。
運転手付きで乗車するショーファードリブン、つまり後ろに座るVIPのために、このクルマのすべてが設計されているといっても過言ではありません。
その象徴が、後席に備わる「ゼロ・グラビティシート」と呼ばれる超大型リクライニングシートです。
背もたれを最大まで倒すと、足を前方のオットマンに乗せてほぼフルフラットに近い体勢が取れます。
長距離フライトのビジネスクラス、あるいはファーストクラスをそのまま車内に持ち込んだようなイメージといえば、その豪快さが少し伝わるでしょうか。
シートだけではありません。
後席の頭上には大型のパノラミックルーフが広がり、前席との間には電動のプライバシーパーティションが設置されています。
ボタン一つでガラスが曇り、後席だけの完全にプライベートな空間が生まれる仕組みです。
まるで移動するVIPルームのようで、エグゼクティブが商談の合間に移動しながら資料を確認したり、ちょっと仮眠を取ったりするシーンが容易に想像できます。
これはもう「ミニバン」という言葉では収まらない世界観です。
さらに注目したいのは、室内の静粛性です。
電気自動車であるためエンジン音はゼロ。
加えて、分厚いガラスと徹底した遮音材によって、外界の騒音を極限まで排除しています。
日本でも高速道路を走ると、ロードノイズやタイヤの音が意外と気になるものですが、ZEEKR 009ではそれさえも感じにくい設計になっているといいます。
走行中、後席では静かな音楽を楽しみながら、まるでラウンジで寛いでいるような時間を過ごせるわけです。
こうした徹底した「後席体験」へのこだわりが、中国の富裕層の心を強く掴みました。
中国では運転手付きの高級車需要が日本よりも根強く、「自分が乗るのではなく、乗せてもらう」文化が一定の層に浸透しています。
その層にとって、ZEEKR 009は単なる移動手段を超えた、ステータスの象徴として映ったのです。
価格は約1,000万円前後でありながら予約が殺到したという事実が、その熱狂の大きさを物語っています。
アルファードへの憧れと似た感覚が、中国では今ZEEKR 009に向けられているのかもしれません。
吉利グループの野望が詰まった、知られざる開発ストーリー
ZEEKR 009というクルマを語るとき、「吉利汽車」という会社の存在を避けて通ることはできません。
吉利汽車は、中国の民間自動車メーカーとして1986年に創業。
当初は冷蔵庫の部品メーカーとして出発したという少々意外な経歴を持ちますが、その後急速に自動車産業へと軸足を移し、今や世界的な自動車グループへと成長しました。
その拡大ぶりはなかなか痛快で、2010年にはスウェーデンの名門「ボルボ・カーズ」を、フォードから約18億ドルで買収。
さらにはイギリスの伝説的スポーツカーブランド「ロータス」、マレーシアの「プロトン」なども傘下に収めるという、驚くほどのスピードで版図を広げてきました。
ZEEKRブランドが誕生したのは2021年のこと。
吉利グループが「本気でグローバルプレミアム市場を狙う」という意思表明のもとに立ち上げた、いわばグループの技術の結晶を注ぎ込むための専門ブランドです。
そしてZEEKR 009の根幹を支えるのが、SEA(Sustainable Experience Architecture)プラットフォームと呼ばれる、吉利グループが独自開発した電気自動車専用の基盤技術です。
このSEAプラットフォーム、名前だけ聞くと難しそうですが、要は「電気自動車を作るための専用の骨格と電気系統のセット」だと思ってください。
家を建てるときの基礎工事と間取りの設計図が最初からEV向けに用意されているようなもので、後から無理やりエンジン車の設計を流用した構造とは根本的に違います。このプラットフォームのおかげで、140kWhという大容量のバッテリーを床下にフラットに搭載しながら、室内の広大な空間を確保することができているのです。
さらにこのクルマには、ボルボ由来の安全技術が惜しみなく盛り込まれています。
LiDAR(ライダー)と呼ばれる、レーザーで周囲の空間を3D的に認識するセンサーを標準装備。
簡単にいえば、クルマが目の前の空間を立体的に「見る」ことができる装置です。
これにより、夜間や悪天候でも高精度な障害物検知や自動ブレーキが機能します。
ボルボが長年培ってきた「安全へのこだわり」が、中国生まれのZEEKRに脈々と受け継がれているわけです。
こうした背景を知ると、ZEEKR 009が単なる「中国の高級ミニバン」ではなく、世界規模の技術と資本が結集した本格派プレミアムカーであることが見えてきます。
吉利グループの野望は、ZEEKR 009というかたちで、着実に現実のものとなりつつあります。
中国発・世界へ。ZEEKR 009が切り開くEV高級MPVという新市場
かつて「中国製」という言葉には、どこか「安くて、それなり」というイメージがつきまとっていました。
家電でも衣類でも、「中国製だから仕方ない」とどこかで割り切って購入した経験がある方も多いのではないでしょうか。
ところが、2020年代に入ったあたりから、その常識が大きく揺らぎ始めています。
特に電気自動車の分野では、中国ブランドが品質・技術・デザインのいずれにおいても、もはや欧米や日本のブランドに引けを取らないレベルに到達しつつあります。
ZEEKR 009は、まさにその「常識の書き換え」を象徴する一台です。
中国国内での成功を足がかりに、ZEEKRは欧州市場への本格進出を果たしました。
スウェーデン、オランダ、デンマークなどの北欧・西欧諸国では、ZEEKR 001(スポーツワゴン)とともにZEEKR 009も展開されており、現地の消費者や自動車メディアから高い評価を受けています。
ヨーロッパは環境意識が高く、EVへの切り替えが急速に進んでいる市場ですが、そこで中国ブランドが「安かろう」ではなく「良くて高い」という土俵で勝負している事実は、業界に大きな衝撃を与えています。
日本市場への上陸についても、関心が高まっています。
日本ではまだ正規販売は開始されていませんが、ZEEKRブランドそのものへの注目度は着実に上がっており、自動車メディアや輸入車ファンの間での話題には事欠きません。
日本のミニバン市場はアルファードやヴェルファイアが長年にわたって君臨してきましたが、もしZEEKR 009が正式に上陸すれば、その市場図を塗り替える可能性を秘めています。1,000万円前後という価格帯は、アルファードの最上級グレードと同じ土俵に乗るもので、比較検討の対象になり得ます。
また、見逃せないのがEV高級MPVという新しいカテゴリーの確立です。
これまで高級ミニバンといえばガソリン車かハイブリッド車が主流で、完全電動の選択肢はほぼ存在しませんでした。
ZEEKR 009はそのカテゴリーに最初に本格的に参入した存在のひとつであり、「静かで、速く、豪華で、環境にも配慮している」というEVならではの特性を高級MPVに融合させることに成功しています。
今後、トヨタやメルセデス・ベンツなどの大手メーカーがこのカテゴリーに追随してくるとすれば、そのきっかけを作ったのはZEEKR 009だったと語られる日が来るかもしれません。
中国から生まれ、世界を驚かせた一台。ZEEKR 009が切り開いたこの新しい市場が、これからどんな進化を遂げるのか。目が離せない時代が、もうすでに始まっています。
まとめ
ZEEKR 009というクルマを通じて見えてきたのは、単に「すごい中国車が登場した」という話ではありませんでした。
それは、自動車産業の勢力図が静かに、しかし確実に塗り替えられつつあるという、大きな時代の流れの話です。
後席をラウンジのように演出するコンセプト、吉利グループが長年にわたって積み上げてきたグローバルな技術の集大成、そして欧州市場での高い評価と日本市場への潜在的なインパクト。
これらすべてが一台のクルマに凝縮されているという事実は、あらためて驚きを感じさせます。
「高級車は欧州か日本か」という、長年当たり前のように信じられてきた感覚が、少しずつ揺らいでいます。
もちろん、ブランドの歴史や乗り味の熟成という点では、長年の蓄積を持つ老舗メーカーにはまだかなわない部分もあるでしょう。
しかし、テクノロジー・空間・体験という新しい軸で高級車を評価するとき、ZEEKR 009はすでにトップクラスの競争力を持つ存在です。
日本でも、電気自動車の普及や充電インフラの整備が年々進んでいます。
街でEVを見かけることが珍しくなくなってきた今、次のステージとして「高級EVで移動する体験」への関心が高まっていくのは自然な流れではないでしょうか。
そのとき、選択肢のひとつとしてZEEKRの名前が当たり前のように挙がる日が来るかもしれません。
ZEEKR 009は、移動の豊かさとはなにかを問い直すクルマです。
目的地に着くまでの時間を、ただ消費するのではなく、上質な体験として楽しむ。そんな発想の転換を、このクルマはさりげなく、しかし力強く提案しています。
あなたも一度、その「動くラウンジ」に身を委ねてみたいと思いませんか?