
ダイハツ・シャレード デ・トマソ(G11型)諸元データ
・販売時期:1984年〜1987年
・全長×全幅×全高:3610mm × 1600mm × 1390mm
・ホイールベース:2340mm
・車両重量:740kg
・ボディタイプ:3ドアハッチバック
・駆動方式:FF(前輪駆動)
・エンジン型式:CB60型
・排気量:993cc
・最高出力:80ps(59kW)/ 6000rpm
・最大トルク:12.0kgm(118Nm)/ 3600rpm
・トランスミッション:5速MT
・サスペンション:前:マクファーソンストラット / 後:トレーリングリンク
・ブレーキ:前:ディスク / 後:ドラム
・タイヤサイズ:155/70R13
・最高速度:約170km/h
・燃料タンク:40L
・燃費(10モード):約15km/L
・価格:約110万円(当時)
・特徴:
1. デ・トマソとの共同開発による専用外装・内装デザイン
2. 1.0Lターボエンジンによる軽快な走り
3. 赤×黒のツートン内装と専用ステアリングが特徴
1980年代の日本車といえば、各メーカーがこぞって「コンパクトカーでも走りを楽しめる」ことを追求していた時代でした。排気量が小さくても、軽量ボディとターボ技術でスポーティに仕立てる。そんな流れの中で誕生したのが、ダイハツ・シャレード デ・トマソ(G11型)です。名前に刻まれた「デ・トマソ」は、イタリアの名門スポーツカーメーカーであり、パンテーラなどの名車で知られる存在でした。小さな国産車とイタリアの情熱的ブランドが手を組むという、当時としては非常に意外なコラボレーションでした。
1984年、シャレードのスポーツグレードとして登場したこのモデルは、見た目の派手さだけでなく、走りも本格派。1.0リッターという小排気量ながら、ターボチャージャーによって80馬力を発生し、車重740kgという軽さと相まって、まるで小さなラリーカーのような加速を見せました。
赤と黒を基調にした内装、専用ステアリング、そして控えめながら誇らしい「DeTomaso」バッジ。街中でも峠でも、この小さなハッチバックは見る者に強い印象を残しました。ダイハツが一時代を築いたスポーツ精神の象徴、それがG11型シャレード デ・トマソです。
イタリアの情熱を日本車に—デ・トマソとの異色コラボ誕生秘話
1980年代初頭、ダイハツは国内市場で堅実な軽自動車メーカーという印象が強く、スポーティなイメージを築くのが課題でした。そんな中で浮上したのが、イタリアのカロッツェリア文化と結びつけるという異色の発想です。イタリアのスポーツカー文化には、デザインの美しさと走りの情熱を融合させる哲学があり、それを小さなシャレードに注ぎ込むことで「コンパクトでも情熱的な車」という新しい価値観を生み出そうとしたのです。
協業相手となったのが、アレハンドロ・デ・トマソ率いる「デ・トマソ・モデナ社」でした。彼はかつてマセラティの経営にも携わった人物で、イタリア車の中でも特にエレガントで情熱的なブランドを象徴していました。ダイハツはこの名を借りることで、小型車に高級感とヨーロピアンスポーツの香りを与えたかったのです。
当時、ヨーロッパでは小型ホットハッチが人気を集めており、フォルクスワーゲン・ゴルフGTIやプジョー205GTIといったモデルが熱狂的な支持を受けていました。ダイハツもその波に乗ろうと考えたのです。ただ、日本ではスポーティカーは大排気量やFR駆動というイメージが根強く、「小さくても走りが楽しい」という考え方はまだ浸透していませんでした。そこにイタリアのブランドイメージを融合させたのが、シャレード デ・トマソというプロジェクトの核心です。
この協業は単なるブランド貸しではなく、デザイン監修や内外装のコンセプトにもデ・トマソ側が関与しました。外観のバッジやストライプ、内装の赤と黒の配色、専用ステアリングなど、すべてが「イタリアの情熱」を表現するための演出でした。結果として、シャレードはそれまでの実用車のイメージを脱ぎ捨て、“走りを楽しむための小型車”という新境地を切り開いたのです。
1.0Lターボで魅せた俊足ハッチ—小さな猛獣の走り
シャレード デ・トマソ(G11型)の心臓部には、直列3気筒1.0Lターボエンジン(CB60型)が搭載されていました。このユニットは当時のダイハツが誇る技術の結晶で、コンパクトながらも80馬力を発生。数字だけを見ると控えめに思えるかもしれませんが、車重がわずか740kgしかなかったため、パワーウェイトレシオは驚くほど優秀でした。ターボが効いた瞬間の力強い加速と、軽快なボディが生む鋭いハンドリングは、まさに“小さな猛獣”のようでした。
アクセルを踏み込むと、タービンが回り始め、エンジンが息を吹き返すようにトルクを発生します。現代のように電子制御が緻密ではない分、ターボラグ(加給が遅れる時間)がありましたが、それがまたドライバーとの駆け引きを感じさせる魅力でもありました。ターボが効き始める中盤域で一気にトルクが立ち上がる感覚は、まるで小さなジェット機のよう。街乗りでも高速でも、ペダルを踏むたびにワクワクする感覚がありました。
さらに、5速マニュアルトランスミッションとの組み合わせが秀逸でした。軽量な車体と短いギア比のおかげで、低速からの立ち上がりが鋭く、峠道ではまるでカートのような一体感を味わえたのです。当時の国産コンパクトカーで、これほど「運転して楽しい」と感じられる車は多くありませんでした。
そしてもう一つ忘れてはいけないのが、エンジンサウンドです。3気筒ターボならではの荒々しくもリズミカルな排気音は、耳に残る個性でした。1.0Lという小さなエンジンが奏でるサウンドには、数字以上の存在感がありました。控えめなサイズのボディに詰め込まれた情熱。それこそが、シャレード デ・トマソの魅力の核だったのです。
赤と黒の内装、デ・トマソの証—内外装のこだわり
シャレード デ・トマソの魅力は、走りだけでなく、そのデザインの完成度にもありました。外装はシンプルながらもスポーティな意匠でまとめられ、フロントグリルやリアハッチには堂々と「DeTomaso」のエンブレムが輝いていました。特に赤いストライプと黒のバンパーラインは、通常のシャレードとは一線を画す存在感を放っていました。ボディカラーには鮮やかなレッドやシルバーが設定され、どれも80年代の「小さくても主張する」デザイン哲学を体現していました。
しかし、この車を特別な存在にしていたのはインテリアの演出でした。ドアを開けると目に飛び込んでくるのは、情熱的なレッドと精悍なブラックのツートーン。シートやドアトリムには赤いファブリックが大胆に使われ、スポーツマインドを強調していました。さらに、デ・トマソ専用のステアリングやシフトノブ、そしてシート背面に施された「DeTomaso」ロゴが所有欲を満たしてくれます。
この内装デザインは単に派手さを狙ったものではなく、「イタリアの情熱を日常に持ち込む」というテーマのもとに作られていました。国産車には珍しいアルカンターラ調の素材感や、スポーティな赤ステッチの演出など、細部にまでデザイナーのこだわりが見え隠れしていました。
また、エクステリアのバランスも絶妙でした。エアロパーツは控えめで、全体のシルエットを崩さずにスポーティさを強調。小ぶりなリアスポイラーや専用ホイールキャップが上質なアクセントとなり、「速さを見せびらかさない速さ」を感じさせる仕上がりでした。
この時代にここまで内外装の統一感を持ったコンパクトカーは珍しく、デ・トマソの美意識とダイハツの実直な設計思想がうまく融合していました。まさに、“情熱と理性の共演”と呼ぶにふさわしい一台だったのです。
まとめ
ダイハツ・シャレード デ・トマソ(G11型)は、80年代という時代の空気を凝縮したような一台でした。コンパクトで実用的なボディに、イタリアの情熱をひとさじ加える。その発想がユニークであり、だからこそいま見ても古びない魅力があります。1.0Lターボが生み出す加速感、3気筒特有の小気味よいサウンド、そして赤と黒の内装が演出する非日常感。どれもが、当時の国産車には珍しい感性で作られていました。
この車は単なる“デザインの特別仕様”ではなく、走り・造形・雰囲気の三拍子が揃った本格派ホットハッチでした。ダイハツが実用車の枠を超え、情熱を形にした象徴的なモデルといえるでしょう。現代の目で見ても、その潔い小ささと軽快さには、電動化時代にはない楽しさがあります。もし街でこの赤と黒の小さなハッチバックを見かけたなら、それは80年代の「遊び心」がいまも息づいている証かもしれません。