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キメラ・K-39:マルティニの魂とケーニグセグの心臓を宿した、イタリア最新のハイパーカー

Kimera K-39 "hyper-restomod" teased ahead of debut - The Supercar Blog

キメラ・K-39 諸元データ

・販売時期:2027年〜(デリバリー予定)
・全長×全幅×全高:非公表
・ホイールベース:非公表
・車両重量:約1,100kg
・ボディタイプ:2ドアクーペ
・駆動方式:MR(後輪駆動)
・エンジン型式:ツインターボV8
・排気量:5,000cc
・最高出力:972ps(715kW)/ 7,350rpm
・最大トルク:122.4kgm(1,200Nm)/ 5,500rpm
・トランスミッション:7速マニュアル(Cima製)
・サスペンション:前:インボード・プッシュロッド式 / 後:インボード・プッシュロッド式
・ブレーキ:スチールディスク(カーボンセラミック開発中)
・タイヤサイズ:前:20インチ / 後:21インチ
・最高速度:非公表
・燃料タンク:非公表
・燃費(JC08モード):非公表
・価格:約230万ユーロ(約3億6,000万円)
・特徴:
  ・ケーニグセグとの異例の共同開発による専用ツインターボV8エンジン搭載
  ・1980年代マルティニ・レーシング「シルエット」を現代に蘇らせたデザイン
  ・約1,100kgの軽量ボディに972psを発生させ、7速マニュアルで操る究極のドライバーズカー

 

イタリアという国は、どうしてこんなに面白いクルマを生み出すのでしょうか。
フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティ……そうそうたる名前が並びますが、今回ご紹介するのは、そんなビッグネームとは少し違う角度から自動車界に挑んでいる、ちょっと変わった(いい意味で!)イタリアの小さなメーカーです。

その名も、キメラ・オートモービリ。
聞いたことがない、という方も多いかもしれません。
でも、クルマ好きの間では「ランチアの魂を現代に蘇らせた会社」として、じわじわと熱い注目を集めているブランドです。

キメラは2021年に、1980年代のラリー界を席巻したランチア・ラリー037をベースにした「EVO37」を発表し、世界中のクルマ好きをあっと驚かせました。
続く「EVO38」でもその評価を不動のものにし、イギリスの名門自動車番組「トップギア」がパフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤーに選ぶほどの快挙を成し遂げています。

しかし今回、キメラはその歩みをさらに大きく踏み出しました。
これまでの「既存の名車をベースに作り直す」というアプローチではなく、ゼロから自分たちの手で設計・開発した完全オリジナルのハイパーカー、「K-39」を2026年のコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステで世界に向けて初公開したのです。

ヴィラ・デステといえば、イタリアのコモ湖畔で毎年開かれる世界最高峰のクラシックカーショーです。
そんな夢のような舞台に、まだ生まれたばかりのハイパーカーが颯爽と登場した──その姿だけで、このクルマの「本気度」が伝わってくるような気がします。

名前の「K」はキメラ自身を意味し、これまでの「EVO(エボリューション)」シリーズとは別の、新しいラインの幕開けを示しています。
そして「39」は、キメラ社内のプロジェクト通し番号。
シンプルながら、その番号には「このクルマはキメラの第39番目の挑戦だ」という静かな誇りが感じられます。

今回はそんなキメラ・K-39について、その誕生の背景からエンジンの秘密、そしてキメラという会社の哲学まで、じっくりとご紹介していきたいと思います。

マルティニの白と赤が、再び走り出す

キメラ・K-39のボディラインを初めて見たとき、多くのクルマ好きは思わず「あの時代だ」と感じたことでしょう。
長く、低く、そして少し攻撃的なシルエット。
大きく張り出したリアフェンダーと、ドラマチックなリアウイング。
フロントには、ランチア伝統のクワッドライト(4灯ヘッドライト)が光っています。

このデザインの源泉は、1970年代末から1980年代初頭にかけてワールド・スポーツカー選手権を席巻したランチア・ベータ・モンテカルロ・ターボ グループ5、通称「シルエット」と呼ばれるレーシングカーです。
「シルエット」というのは、当時のレギュレーション(競技規則)のカテゴリー名で、市販車の「シルエット(輪郭)」を残しながらも、中身はほぼレーシングカーに作り変えてもいいというルールのもとで生まれたマシンを指します。
ちょうど、普通のビジネスバッグの外観を保ちながら、中身だけをプロの工具箱に入れ替えるようなイメージです。

そしてこのシルエット・カーに纏われていたのが、あの「マルティニ・レーシング」のカラーリングでした。
白地に青と赤のストライプ。
イタリアの洋酒ブランド、マルティニ社が冠スポンサーを務めたこのカラーは、1970〜80年代のモータースポーツを象徴する最も美しいデザインのひとつとして、今も世界中のファンに愛されています。
ランチアのラリーカー、ポルシェ、アルファロメオ……数多くの名車がこのカラーを纏い、歴史の1ページを飾りました。

キメラのK-39は、そのマルティニ・シルエットの魂を現代のハイパーカーに移植した、いわば「時を超えたオマージュ」です。
ただ懐かしいだけではありません。
最新のカーボンファイバー技術によって生み出されたボディは、かつてのレーサーが持っていた「風に刻まれた彫刻」のような美しさを持ちながら、現代の空力工学の知見が隅々まで詰め込まれています。
フロントには現代のF1カーにも使われるエスダクト(車体前面から空気を取り込み、効率よく流すための仕組み)が採用され、リアには抽出面とリアウイングが一体化した複雑な造形が施されています。

キメラの創業者ルカ・ベッティは、自らもラリードライバーとして15年以上のキャリアを持ちます。
彼の父もレーサーであり、幼い頃からランチアのレースカーを間近で見て育ちました。
その原体験が、キメラという会社の根底に流れる「ランチアへの愛」の正体です。
EVO37、EVO38と積み上げてきたオマージュの系譜を、K-39はさらに深いところへと連れていきます。
「レストモッド(既存の車を現代風に改良したもの)ではなく、全くの新車として、あの時代の魂を再現したい」──その言葉どおりのクルマが、K-39という形で誕生したのです。

スウェーデンの心臓を積んだ、イタリアの魂

クルマ好きなら「ケーニグセグ」という名前を聞いたことがあるでしょう。
スウェーデンが生んだ超高性能ハイパーカーメーカーで、世界最速の市販車記録を何度も塗り替えてきた、ある意味「地球上で最も非常識なクルマを作る会社」です。
そのケーニグセグが、自社のエンジンを外部のメーカーに提供する──これは自動車業界では極めて異例の出来事でした。

ケーニグセグ社のクリスチャン・フォン・ケーニグセグ本人は、こう語っています。
「K-39は、まさにこういうプロジェクトのために特別なものを作るべき相手だと感じた。
独立していて、感情的で、技術的に野心的で、明確な目的意識を持っている」と。
つまりケーニグセグは、ただ「お金を払ってくれるから」ではなく、キメラという会社の哲学と情熱に共鳴したからこそ、このコラボレーションを実現させたのです。

K-39に搭載されるエンジンは、5リッターのツインターボV8です。
ケーニグセグの「ジェスコ」というモデルに使われるエンジンをベースに、K-39のために専用チューンが施されています。
ジェスコのエンジンはE85エタノール燃料使用時に約1,600馬力を発生する怪物ですが、K-39版はそこから方向性を変え、街のガソリンスタンドで買える普通のハイオクガソリン(95オクタン)で972馬力を発生するよう仕上げられました。
これは「使いやすさ」と「圧倒的な性能」の両立という、キメラの哲学が反映された選択です。

特筆すべきは、ターボチャージャーのサイズ変更です。
ジェスコのような極端な高性能モデルでは大型ターボを使い、高回転域で爆発的なパワーを得ます。
しかしK-39では、ケーニグセグの「アゲーラ」という別モデルから取り寄せた、より小型のターボを採用しました。
小さいターボは、アクセルを踏んでからエンジンが反応するまでの時間(ターボラグと呼びます)が短く、より素直でリニアな加速感が得られます。
料理で例えるなら、巨大な鍋で大量に作るより、小さなフライパンで少量をさっと炒める方が素材の反応が早くておいしいものができる、そんなイメージです。

エンジンの最高回転数は8,250rpmに設定されています。
ターボエンジンでこの数字は異常なまでに高く、まるで自然吸気エンジン(ターボを使わない普通のエンジン)のように高回転まで気持ちよく回ります。
1,200Nmという最大トルク(回転力)は、大型のトラックですら及ばないほどの数値ですが、それを約1,100kgという軽量ボディで受け止めるのですから、その加速感は想像を絶するものがあります。

エンジンはケーニグセグのクラウドベース・ソフトウェアと接続されており、無線によるアップデートにも対応しています。
スマートフォンのOSアップデートのように、エンジンの制御プログラムが常に最新の状態に保たれるという、現代ならではの機能です。
イタリアの職人技とスウェーデンの最先端テクノロジーが融合したこのエンジンは、まさにK-39という車の象徴といえるでしょう。

なぜ、あえてマニュアルなのか

2026年という時代に、972馬力のハイパーカーに7速マニュアル・ギアボックスを搭載する──この選択は、業界の常識からすれば相当に「逆張り」です。
現代のハイパーカーは、ほぼすべてがデュアルクラッチ式の自動変速機(いわゆるオートマチック)を採用しています。
なぜなら、コンピューターが制御するギアチェンジは人間より速く、タイムラグもなく、タイムアタックでは圧倒的に有利だからです。

それでもキメラは、マニュアルを選びました。
「マニュアルだから速い」のではなく、「マニュアルの方がいい」という判断です。
クルマを操る喜びは、タイムだけでは測れない。
左手でステアリングを握りながら右手でシフトを操作し、自分のリズムでクルマと対話する感覚──それこそがキメラの作りたいドライバーズカーの本質なのです。

このマニュアルギアボックスは、イタリアのCima(チーマ)社製7速です。
エンジンの出力に見合うだけの強度を持ちながら、マニュアルならではのダイレクト感を追求した設計になっています。
ちなみにキメラは将来的にシーケンシャル式(より素早くギアを変えられる半自動タイプ)も検討しているとのことですが、まず最初に届けたいのは、このマニュアルの感触だといいます。

そしてキメラは、このK-39でもうひとつの大きな夢を追いかけています。
ピークス・ピーク・インターナショナル・ヒルクライムへの挑戦です。
ピークス・ピークとはアメリカ・コロラド州にある標高4,300メートルの山頂を目指すヒルクライムレースで、「雲の上のレース」とも称されます。
空気が薄い高地ではエンジンのパワーが落ち、空力的なダウンフォース(タイヤを路面に押し付ける力)も減少するため、専用の設計が必要になります。
まるで、普通の登山靴ではなく、高山専用の特別なギアが必要な8,000メートル峰に挑むようなものです。

キメラはK-39のピークス・ピーク専用バリアントも開発しており、こちらはわずか10台のみが製作される予定です。
巨大なリアウイングと追加された空力パーツ、そしてサーキット専用のセットアップが施されたこのモデルは、公道走行も可能ながらレースに特化した究極の仕様です。
通常のK-39を購入した一部のオーナーにのみ購入資格が与えられるというこの特別仕様は、まさにキメラというブランドが「コレクションのための車」ではなく「走るために生まれた車」を作っているという姿勢を体現しています。

生産台数はおよそ50〜100台と見られており、公式発表前にすでに20台以上が予約済みという驚くべき状況です。
価格は約230万ユーロ(日本円でおよそ3億6,000万円)。
それでも、キメラのこれまでの実績──EVO37もEVO38も完売──を知るファンたちは、迷わず手を挙げたのです。

まとめ

キメラ・K-39は、単なる高性能車ではありません。
それは、ひとりのイタリア人が幼い頃に見たレーシングカーへの愛情と、30年以上にわたるモータースポーツの経験が結晶化した、非常に個人的な作品です。
ルカ・ベッティという人物がいなければ、このクルマは存在しなかったでしょう。

多くの自動車メーカーが「より速く、より合理的に」という方向に進む中、キメラは「より感情的に、より人間らしく」という真逆の道を選びました。
ケーニグセグとの異例のコラボレーションも、マニュアルギアボックスへのこだわりも、すべては「運転する喜びを最大化する」というひとつの信念から生まれています。
テクノロジーは手段であって、目的ではない──その考え方は、デジタル化が進む現代の自動車業界において、ある種の清々しさすら感じさせます。

ピークス・ピークへの挑戦という夢も、単なるマーケティングではないでしょう。
キメラのエンジニアもドライバーも、本当に山の頂上を目指したいと思っているはずです。
そういう「本気の夢」を持っているメーカーが作るクルマには、数字では表せない魅力があります。

おそらくほとんどの人は、K-39を買うことも、乗ることも、見ることさえないかもしれません。
でも、こんなクルマが今も作られているということ自体が、自動車というものの可能性をまだまだ広げてくれているのだと、私は思っています。
クルマは移動の道具ではなく、人の夢と感情を乗せて走るもの──そう信じさせてくれる1台が、イタリアの小さな工房から生まれたことを、純粋に嬉しく思います。