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日産・キューブ(2代目):左右非対称で勝負した“箱”の美学とは?

日産・キューブ 15M(Z11型)諸元データ

・販売時期:2002年10月~2008年11月
・全長×全幅×全高:3730mm × 1670mm × 1640mm
ホイールベース:2430mm
・車両重量:1090kg
・ボディタイプ:5ドアハッチバック
・駆動方式:FF(前輪駆動)
・エンジン型式:CR14DE
・排気量:1386cc
・最高出力:98ps(72kW)/ 5600rpm
・最大トルク:14.0kgm(137Nm)/ 3200rpm
トランスミッション:4速AT(後期はCVTも設定)
・サスペンション:前:ストラット / 後:トーションビーム
・ブレーキ:前:ベンチレーテッドディスク / 後:ドラム
・タイヤサイズ:175/60R15
・最高速度:非公表
・燃料タンク:41L
・燃費(JC08モード):約16.0km/L
・価格:約140万円(15Mグレード・2005年時点)
・特徴:
 - 大胆な左右非対称リアデザイン
 - 広く快適な室内空間
 - キュービックなど派生モデルの展開

 

2000年代前半、日本のコンパクトカー市場は“個性”の時代へと突入していました。そんななかでひときわ異彩を放っていたのが、日産・キューブの2代目、Z11型です。初代がマーチベースの実用車として登場したのに対し、Z11はまるで四角い家具のようなフォルムと、左右非対称という思い切ったリアデザインでデビュー。実用性はもちろんのこと、「この車を選ぶ人はどんな人だろう?」と想像したくなるような、ライフスタイルまでもデザインに落とし込んだクルマでした。

当時のトレンドに流されることなく、プロダクトとしての存在感を強調したZ11型キューブ。そのこだわりはエクステリアだけにとどまらず、内装や走行性能、さらには派生モデルにまで広がっていきます。特に3列シート仕様の“キュービック”は、コンパクトカーの常識を覆すチャレンジでもありました。

そして、もうひとつ見逃せないのが、カルチャーとの結びつきです。個性的なCMや広告展開、コラボレーション企画などを通じて、Z11は単なる「足」ではなく、乗ることそのものが“センス”とされた数少ない国産車のひとつとなりました。今回はそんなZ11型キューブの魅力を、3つの視点からじっくりとひも解いていきたいと思います。

左右非対称のリアと“箱”の美学:デザインで勝負したコンパクトカー

Z11型キューブのデザインを語るうえで、まず外せないのがその左右非対称のリアデザインです。リアガラスは右側だけがぐるりと回り込んだデザインになっており、バックドアは左ヒンジの横開き式。この造形は非常に珍しく、量産車でここまで左右非対称な形をとった例はほとんどありませんでした。

なぜこのようなアプローチを取ったのかというと、そこには明確なコンセプトがあります。Z11型は「箱そのものをデザインする」ことにこだわった車であり、無理に流線型や曲線を作るのではなく、直線と面で“気持ちいい四角”をつくることを狙ったそうです。そしてリアの非対称デザインは、単なる奇抜さではなく、クルマの中に動きと表情を与えるための手段だったのです。

実際、Z11型キューブは街に停まっていても、どこか“オブジェ”的な存在感を放っていました。これは家電や家具のような視点で作られたからこそ。デザイン責任者を務めた中村史郎氏は、プロダクトとしての魅力を追求し、あえて「かわいい」や「クルマらしさ」から一歩離れた提案をしました。結果として、クルマ好き以外の層からも「これなら乗りたい」と思わせる力を持ったのです。

 

“キュービック”でミニバンに挑戦?3列シートの異端な選択

2代目キューブには、もうひとつ見逃せない派生モデルが存在します。それが2003年に追加されたキューブ キュービック(CUBIC)。名前のとおり、箱をもう一段拡張したようなロングボディで、なんとこのサイズに3列シートを詰め込んでしまったのです。

キュービックは、通常のキューブよりも全長を約170mm延長し、ホイールベースも2600mmへと拡大。これにより、2列+3列の6人乗り、あるいは7人乗り仕様を実現しました。もちろん大柄なミニバンのような広々感は望めませんが、「ちょっとだけ家族が増えた」「たまに友達も乗せたい」というニーズにはぴったりでした。

このコンパクトな3列シート車は、当時としてはなかなか斬新な試みでした。ホンダ・モビリオなどと同様に、“使い勝手”と“個性”を両立させたファミリーカーとして一定の評価を受けましたが、やや価格帯が上がることや、3列目の乗り心地が制約されることで、販売面ではややマニアックな存在に。とはいえ、キュービックの存在が「キューブ=多様性の象徴」というイメージをさらに強固なものにしていったのは間違いありません。

日産としてもこのモデルに対する愛着は強かったようで、後のZ12型でも「キューブ3列仕様」を期待する声は少なくなかったのです。

キューブがカルチャーになった瞬間:CM、キャラクター、そして日常へ

Z11型キューブの存在感は、デザインや機能だけでは語り尽くせません。むしろ「生活に溶け込むアート」としてのプロモーションが、他の車にはない魅力を作り出していました。たとえば、TVCMには柔らかな色合いや親しみやすいナレーションを使い、まるで絵本のワンシーンのような演出がなされていました。

特に印象的だったのは、人気キャラクターとのコラボ展開です。2005年には、当時人気だった「リサとガスパール」とのコラボモデル「キューブ リサとガスパール」が発売され、可愛いシート刺繍や限定エンブレムなどが話題に。これは単なるキャラクターコラボではなく、「クルマ=モノ」から「クルマ=暮らしの一部」へと変える提案でもありました。

また、日産の公式サイトでは、当時まだ珍しかったインタラクティブなWebコンテンツを展開。自分だけのキューブをデザインしてバーチャルで眺めることができる仕掛けもあり、「キューブを買うこと自体が楽しい体験」としてパッケージングされていました。

こうした戦略は、車を単なる交通手段ではなく、“日常のセンス”の延長として見せる点で成功していたといえます。そして今振り返っても、Z11型キューブの“カルチャーとしての存在感”は、多くの人の記憶のなかにしっかりと根付いているのです。

 

まとめ

Z11型の日産・キューブは、単なるクルマの枠を超えて、“生活とセンスの接点”を見つけようとした一台でした。左右非対称という思い切った造形、ロングボディで3列シートを実現したキュービック、そして暮らしに寄り添うプロモーション展開。それらすべてが、キューブという車を単なる道具ではなく、「選ぶ理由のある存在」へと押し上げていたのです。

もちろん実用性や燃費などの面でも一定の魅力はありましたが、それよりも大事だったのは、「自分らしさを表現したい」という気持ちにこのクルマが応えてくれたこと。だからこそ今もなお、Z11型キューブには根強いファンが存在しますし、中古車市場でも一定の人気を保っているのです。

デザインに正解はありませんが、“あえてズラす”という勇気が、これほど多くの人の心に残るクルマを生み出したという事実。それだけでも、Z11型キューブは日本車史において特別な一台だと胸を張って言えるのではないでしょうか。