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リライアント・スーパーバン:3輪で笑いと実用を背負った“英国庶民の相棒”

リライアント・スーパーバン III 諸元データ

・販売時期:1972年~1985年
・全長×全幅×全高:3378mm × 1372mm × 1397mm
ホイールベース:2083mm
・車両重量:約450kg
・ボディタイプ:バン(3ドア)
・駆動方式:FR(後輪駆動)
・エンジン型式:OHV直列4気筒(リライアント製)
・排気量:748cc
・最高出力:32ps(24kW)/5500rpm
・最大トルク:5.4kgm(53Nm)/3500rpm
トランスミッション:4速マニュアル
・サスペンション:前:ウィッシュボーン / 後:リジッドアクスル+リーフスプリング
・ブレーキ:前後ドラム式
・タイヤサイズ:5.20×10
・最高速度:約120km/h
・燃料タンク:約25L
・燃費(推定):約18km/L
・価格:当時価格で約700ポンド前後
・特徴:
 - 3輪構造によりバイク扱いで税金が安かった
 - グラスファイバーボディで超軽量
 - 実用的な荷室を備えた小型商用車

 

イギリスの街角をコミカルに駆け抜ける、愛すべき3輪バンといえば「リライアント・スーパーバン」。そのちょっぴり頼りなさそうな見た目に反して、実は多くの庶民にとって“使える一台”として親しまれてきた歴史があります。特に1970年代から80年代にかけて、配送業者や小規模商店の頼れる相棒として活躍し、さらには国民的コメディ番組の影響で一躍“テレビスター”の座まで獲得してしまいました。

「クルマって、こうあるべき」という固定観念を、良い意味でひっくり返してくれる存在だったのがこのスーパーバン。3輪という奇抜な構造、軽さと低燃費の実用性、そしてテレビの中でドタバタ劇を演じるその姿は、どこかイギリスらしいユーモアと実利主義を体現しているようです。

今回は、そんなリライアント・スーパーバンの魅力に迫る3つの視点をご用意しました。まずはなぜこの車が3輪だったのか、その背景を掘り下げ、次にドラマ「オンリー・フールズ・アンド・ホーセズ」での登場シーンの裏側を追い、最後にそのエコカー的な側面までじっくり見ていきましょう。

 

なぜ3輪?ユニークすぎる設計哲学

リライアント・スーパーバンが他のどんな車とも違う最大の理由、それは3輪という特異な構造です。前1輪、後ろ2輪というこの配置は、現代の目で見るとやや奇妙で、まるでバイクに屋根をつけただけのような印象を受けるかもしれません。しかしこの選択は、奇をてらったギミックではなく、極めて合理的な目的から生まれたものでした。そのキーワードは「税金」と「免許制度」にあります。

1950年代から60年代のイギリスでは、3輪車がバイクの延長として分類されており、自動車よりも軽減された税制の対象でした。つまり、車両税や保険料が安く抑えられたのです。しかも当時は、オートバイの免許しか持っていなくてもこの3輪車に乗ることができるという特例まで存在していました。庶民の生活を支える小型商用車として、圧倒的な維持費の安さは大きな武器となったのです。

また、リライアントはこの3輪レイアウトに特化することで、車体構造を極限まで簡略化し、軽量化にも成功しました。グラスファイバー製のボディは腐食に強く、パワーの小さなエンジンでも十分な走行性能を発揮。結果としてスーパーバンは、必要最小限のコストで日常の“用事”をしっかりこなせる、まさに実用重視の「合理派バン」として愛されることになります。見た目はちょっと変でも、その背景にはイギリスらしい機知と工夫が詰まっていたのです。

 

コメディの象徴?ドラマ『オンリー・フールズ・アンド・ホーセズ』での大活躍

リライアント・スーパーバンがイギリス国民の記憶に鮮烈に残っている理由のひとつが、BBCの名作コメディ『オンリー・フールズ・アンド・ホーセズ(Only Fools and Horses)』での登場です。劇中で主人公デレク・“デルボーイ”・トロッターと弟のロドニーが乗っていた黄色い3輪バンこそが、このスーパーバン。その強烈すぎる存在感は、単なる小道具の域を超え、物語の「もう一人の登場人物」とさえ言えるほどでした。

なにせ、このバンはとにかく目立ちます。あのチープでレトロな黄色の塗装、商売道具である「Trotters Independent Traders」と手書き風に描かれた看板、そしてお世辞にも安定感があるとは言えない3輪の挙動。コメディの中で何度も横転したり、エンジンがかからなかったりと、トラブル続きの描写も、観客にとっては「お約束」のような笑いのポイントでした。

この番組の人気により、リライアント・スーパーバンは単なる実用車から一気に“文化的アイコン”へと格上げされます。ロンドンの自動車イベントや博物館でも、今やこのドラマ仕様のスーパーバンは常連展示車。グッズやミニカー化もされ、世代を超えて愛されています。皮肉にも、性能や機能よりも「笑える存在感」がこの車の最大の魅力になったわけですが、それこそがイギリス的ユーモアの真骨頂と言えるのではないでしょうか。

 

軽量ボディと低燃費、実は時代を先取りしていたエコカー精神

見た目のインパクトやコメディでの活躍ばかりが話題になりがちなリライアント・スーパーバンですが、実はその設計思想は、現代の“エコカー”にも通じるものがありました。まず注目すべきは、超軽量なボディ。グラスファイバーを用いた外装は、鉄やアルミに比べて格段に軽く、スーパーバンの車重はわずか450kg前後。軽自動車よりもさらに軽く、まさに羽のような存在だったのです。

この軽さにより、エンジンには748ccの小排気量ユニットを搭載するだけで十分な走行性能を確保できました。最高出力はわずか32psほどでしたが、街乗りでの加速は意外にも軽快で、しかも燃費性能はおおむね18km/L前後。当時の水準としてはかなり優秀で、ガソリン高騰が問題となった1970年代において、燃費の良さは大きなアドバンテージになっていました。

また、メンテナンス性の高さと部品の安さも、この車の長寿命ぶりを支えた要因です。必要最低限の機構しか持たないからこそ、壊れにくく、修理もしやすい。さらには駐車スペースも取らず、小回りがきくため都市部での使い勝手も上々でした。つまりスーパーバンは、ただの珍車ではなく「資源・コスト・実用性」を高バランスで融合させた、省エネ設計の先駆けだったとも言えるのです。そう考えると、リライアントがこの車に“スーパーバン”と名付けたのも、少しだけ納得がいきませんか?

 

まとめ

リライアント・スーパーバンは、見た目のユニークさやコメディでの活躍が印象的な一台ですが、その本質はもっと深いところにあります。3輪という選択は、単なる奇抜なアイデアではなく、英国の制度や社会事情を反映した実用的な答えでした。税制の抜け道を巧みに利用しながら、グラスファイバー製ボディで軽量化を追求し、小さなエンジンでもしっかり走れるように工夫されたその姿勢は、まさに“知恵で勝負する車づくり”そのもの。

そして『オンリー・フールズ・アンド・ホーセズ』での爆笑シーンが証明するように、スーパーバンはただの道具ではなく、人々の感情や思い出に寄り添える存在としても機能しました。おそらくイギリス中で「この車を見て笑わなかった人」はほとんどいないのではないでしょうか。

現代のハイテクEVや豪華なSUVとは対極の存在ですが、スーパーバンにはスーパーカーにはない“庶民のヒーロー”としての魅力があります。笑えて、役立って、そしてちょっと誇らしい。そんな小さな3輪車が、今もなお語り継がれる理由が、この記事で少しでも伝わればうれしいです。