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ダイハツ・ミゼット:三輪で走る昭和のエモさ、再発見!

ダイハツ・ミゼット MP5型 諸元データ

  • 販売時期:​1962年12月~1972年1月

  • 全長×全幅×全高:​2,970mm × 1,295mm × 1,455mm

  • ホイールベース:​1,905mm

  • 車両重量:​415kg

  • ボディタイプ:​三輪トラック

  • 駆動方式:​FR(後輪駆動)

  • エンジン型式:​ZD型(空冷2ストローク単気筒)

  • 排気量:​305cc

  • 最高出力:​12ps(8.8kW)/ 4,500rpm

  • 最大トルク:​2.4kgm(23.5Nm)/ 2,500rpm

  • トランスミッション:​3速マニュアル

  • サスペンション:​前:テレスコピック+フォーク / 後:リーフリジッド

  • ブレーキ:​後輪:内部拡張油圧式

  • タイヤサイズ:​5.00-9(前後)

  • 最高速度:​約65km/h

  • 燃料タンク容量:15L

  • 燃費(カタログ値):​約28km/L

  • 価格:​23万円(当時)

  • 特徴

    • 2人乗り密閉キャビンで快適性向上

    • 分離給油方式採用で利便性向上

    • 小回り性能と維持費の安さで商用車として人気

 

小さな体に大きな志、昭和の働き者 ― ダイハツ・ミゼット(初代)

日本が高度経済成長へと向かう昭和30年代、その足元を支えた名脇役がいました。愛嬌のある丸い目に、ちょこんとしたボディ。三輪で軽快に走るその姿は、まるで「町のマスコット」。それがダイハツ・ミゼットの初代モデルです。

1957年に登場したミゼットは、当初「B型」として誕生し、その後より実用性を高めた「MP型」が大ヒットを記録しました。とくに商店街や市場、郵便局や新聞配達、さらには小さな工場の配送まで、あらゆる業種で見かけたこの車。なにせ車両価格が安くて維持費もお手頃。しかも普通免許も不要で、バイクの延長のように使えたのですから、人気が出ないわけがありません。

そしてこのミゼット、単なる実用車というだけでは終わりません。時代が進み、二代目や復刻モデルのミゼットIIが生まれる頃には、すっかり「レトロで可愛い車」の代表格に。映画やアニメにも登場し、今や文化アイコンのひとつとしての地位を確立しています。

今回の記事では、このダイハツ・ミゼットの魅力にぐぐっと迫ります。開発当時の背景や、昭和を駆け抜けた商用車としての役割、そして今なお愛され続けるカルチャー的な側面まで。三輪の小さなボディに詰まった、大きな物語を一緒にのぞいてみましょう。

 

一人で運転、三輪で配達!ダイハツ・ミゼットのユニークすぎる誕生秘話

戦後の混乱期を抜け出し、日本がようやく生活の安定を取り戻し始めた1950年代。国民はモノを作り、運び、売るという営みを急ピッチで拡大していく中で、1台の小さな三輪車が産声をあげました。それが1957年に登場したダイハツ・ミゼット。はじめは「B型」と呼ばれたモデルでしたが、その後改良された「MP型」で一躍スターに躍り出ることになります。

当時の日本の交通事情はというと、舗装されていない細道や坂道、狭い住宅街があちこちに広がっており、大型トラックや四輪車では取り回しが不便すぎる状況。しかも個人商店や小さな事業者が多く、「そんなに荷物はないけど、荷台付きで雨にも濡れない車がほしい!」という声が高まっていました。

そこでダイハツが目をつけたのが、「バイクの延長線上にある、もっと便利な三輪車」。つまり、スクーターに屋根と荷台をつけて、ハンドル操作で手軽に運転できるようにした“簡易トラック”だったのです。1人乗りで充分、前1輪・後2輪の三輪構造ならコストも抑えられ、小回り性能もバッチリ。これが後のミゼットへとつながる大発明でした。

そして何より画期的だったのは、誰でも簡単に乗れる操作性。ハンドルもバイク感覚で握れ、エンジンも305ccと小型。車ではなく「ミゼットはバイクです」と言わんばかりの立ち位置で、車検も要らず、軽便な働き者として町中を駆け回ることになります。庶民の味方として誕生したこの一台、時代のニーズにぴったりハマったというわけですね。

 

映画にも登場!愛され続けるミゼットのカルチャー的魅力

ダイハツ・ミゼットが昭和の町を駆け抜けたのは、ただの実用車としてだけではありません。その個性的なフォルム、コミカルとも言える動き、そして時代の雰囲気をまとったデザインは、のちに昭和レトロの象徴として描かれる存在となりました。まるで“キャラクター”のような存在感が、多くの人の心に残っているのです。

その代表例が、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズです。昭和30年代の東京を舞台にしたこの作品では、ミゼットがさっそうと登場し、町の風景に見事に溶け込んでいます。レトロな風景の中で小さくも元気に走るその姿は、当時を知る人には懐かしく、知らない世代には新鮮でユーモラスに映ったことでしょう。

さらに、近年のクラシックカーイベントや旧車愛好家の間でも、ミゼットは根強い人気を誇っています。レストアされたミゼットがイベント会場でちょこんと並ぶ姿は、まるでぬいぐるみのような可愛さ。SNSYouTubeでも「こんな小さな車が、昔は本当に走ってたの?」と驚きの声が上がるほどです。

ミゼットは単なる過去の乗り物ではありません。その姿は、時代の記憶とノスタルジーを運ぶタイムカプセルのような存在。昭和という時代を、温かく、そしてちょっとコミカルに彩ってくれた、“語れる車”なのです。

 

“商売繁盛の相棒”として走ったミゼットの実用性と進化

ダイハツ・ミゼットの人気を支えた最大の理由。それは、なんといっても商売人の頼れる相棒として、抜群の実用性を誇っていたことにあります。戦後復興のさなか、物流が活性化する一方で、大型車や四輪車はまだまだ庶民の手の届かない存在。そんな時代に、気軽に買えて、簡単に乗れて、荷物もそこそこ積めるミゼットは、小規模な商売にぴったりの“ちょうどいい”一台だったのです。

例えば、八百屋さんや魚屋さんが市場から仕入れた商品を運んだり、酒屋さんが町内に一升瓶を配達したり。ミゼットなら細い路地にもスイスイ入り込み、小回りの利く三輪構造でストップ&ゴーもラクチンでした。さらに燃費も良く、故障も少なくてメンテナンスも簡単。必要最小限の装備で、とにかく「仕事がはかどる車」だったのです。

実際、1960年代にはミゼットが日本全国に10万台以上も普及。郵便局や電力会社などの公共機関でも導入され、“国民の足”ならぬ“国民の働き手”としての役割を果たしていました。また、このMP型ミゼットをベースに、屋根付きの「バン仕様」や、荷台に幌をかけた「配送仕様」なども登場し、用途に応じたバリエーションが増えていったのも人気の理由でした。

やがて1972年に初代ミゼットの生産は終了しますが、その精神は消えることなく、1996年には「ミゼットII」として復活。今度は四輪になったとはいえ、ユーモラスな顔つきや小さなボディはしっかりと先代の遺伝子を受け継いでいました。初代の登場から数十年を経ても、なお“現場の声に応える車”としてリスペクトされているのは、やはりあの時代に地道に働いた実績があるからこそでしょう。

 

まとめ

初代ダイハツ・ミゼットは、ただの商用車ではありませんでした。1人乗りで三輪、驚くほど小さなボディに、当時の人々の夢や生活、そして希望を詰め込んで走った存在です。舗装もまばらな昭和の日本で、日々の暮らしを支えるために、どこへでも、どこまでも走っていきました。

その姿は映画やアニメ、昭和を描いた多くの作品に登場し、ノスタルジーとともに今もなお人々の記憶に残り続けています。コミカルで、愛らしくて、でもしっかり働く。そんな“人間らしさ”のようなものが、この小さな車には宿っていたのかもしれません。

そしてミゼットの物語は、決して過去のものではありません。現代の軽トラやEV小型商用車など、「必要な機能を最小限に」という考え方のルーツは、まさにこの車にあったのです。小さくても価値ある存在。ミゼットはそれを昭和の日本に証明してみせました。