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ベッドフォード・CA・ドーモビル:英国発!クラシックキャンパーの原点を辿る旅


ベッドフォード・CA・ドーモビル 諸元データ

・販売時期:1952年~1969年(CAバン)、ドーモビル仕様は1954年頃から
・全長×全幅×全高:4390mm × 1750mm × 2000mm(ポップアップルーフ未展開時)
ホイールベース:2540mm
・車両重量:約1400kg
・ボディタイプ:キャブオーバーバン(キャンパーバン仕様)
・駆動方式:FR(後輪駆動)
・エンジン型式:Vauxhall OHV 4気筒
・排気量:1508cc
・最高出力:52ps(38kW)/ 4600rpm
・最大トルク:10.6kgm(104Nm)/ 2400rpm
トランスミッション:3速マニュアル(コラムシフト
・サスペンション:前:独立懸架 / 後:リーフスプリング
・ブレーキ:ドラム(前後)
・タイヤサイズ:6.00×16
・最高速度:約100km/h
・燃料タンク:35L
・燃費(推定):約9〜11km/L
・価格:当時の新車価格 約850ポンド(ドーモビル仕様)
・特徴:
 - 英国初期のキャンピングカー仕様
 - 手動式ポップアップルーフ搭載
 - 室内ベッド・キッチン装備あり

 

「旅先でも我が家のようにくつろげる空間があったら──」そんな願いが形になったのが、1950年代のイギリスで登場した「ベッドフォード・CA・ドーモビル」です。当時、まだ「キャンピングカー」なんて言葉も一般的でなかった時代に、ベースとなる商用車を改装して家族旅行用の“動く家”にしてしまうという、まさに先駆者的な存在。しかも驚くべきはその仕組み。コンパクトなボディにルーフが開いて寝室が出現、ベッドもキッチンも完備という、現代のバンライフ文化を先取りしたような発想がそこにはありました。

このブログでは、そんなベッドフォード・ドーモビルがどうして生まれたのか、どんな仕掛けで快適な旅を支えていたのか、そしてなぜ今も世界中で愛され続けているのかを、3つの視点から掘り下げていきます。クラシックキャンパーにロマンを感じる方、英国車に目がない方、そしてただただ「面白い車」が好きな方も、きっと楽しんでもらえる内容になっているはずです。

 

クラシックキャンパーの原点:ベッドフォードCAとドーモビルの誕生秘話

1950年代初頭、イギリスでは戦後の経済回復とともに「家族でのホリデー旅行」がちょっとしたブームになりつつありました。しかし当時の旅行といえば列車やB&Bベッド・アンド・ブレックファスト)を使うのが一般的。そんな中、「もっと自由に、自分たちのペースで旅を楽しみたい」というニーズに目をつけたのが、バウチャル・モーターズ傘下のベッドフォード社です。

ベッドフォードCAは1952年に登場した商用バンで、丸みを帯びたユニークなボディとキャブオーバー式の運転席が特徴でした。この使い勝手のよいバンをベースに、「車の中で寝泊まりできたら最高じゃない?」という発想を持ち込んだのが、ドーモビル社。1954年にはこのコラボが実現し、初の「ドーモビル仕様」が誕生します。

車内には折りたたみベッド、簡易キッチン、収納棚などが備わり、なんと屋根は手動で持ち上げられるポップアップルーフ。これにより天井の低さというバンの弱点を克服し、立って着替えたり調理したりできるようになったのです。この仕組みが当時としては画期的で、キャンパーバンの先駆けとしてヨーロッパ中で話題になりました。商用車から“旅する家”へと生まれ変わったドーモビルは、自由な旅の象徴として瞬く間に人気を集める存在となっていきました。

 

ポップアップルーフの魔法:ドーモビルの仕掛けと暮らしやすさ

ドーモビル最大の特徴といえば、やっぱり“ポップアップルーフ”。現在ではキャンピングカーでおなじみの装備ですが、1950年代の当時はまさに革命的なアイディアでした。通常走行時は屋根が閉じられていて車高が低く収まり、キャンプ地などに到着したら、手でパタンと屋根を持ち上げると三角屋根がニョキッと現れるという仕組み。開いたルーフにはキャンバス地のサイドウォールが展開し、内部には立って歩けるだけの高さが生まれます。

このポップアップ構造により、ドーモビルの車内は見た目以上に“居住性が高い”と評判に。常設ベッドは無いものの、シートを展開すればダブルベッドサイズの就寝スペースが確保でき、折りたたみ式のテーブルやシンク、小型のガスコンロなども装備可能。ベッドフォードCAの広い荷室を活かしたレイアウトは、当時の一般的な宿泊設備より快適だったという声もあるほどです。

また、機械的な複雑さが少なく、すべてが手動で操作できるというのもポイントでした。現代のキャンパーと比べれば設備はシンプルですが、それだけに壊れにくく、メンテナンスもしやすい。こうした合理性が、今日のレストア市場でも高い評価を受ける理由のひとつになっています。ドーモビルは“車中泊”という概念がまだ一般的でなかった時代に、その可能性をいち早く提示してくれた先駆者だったのです。

 

カルチャーアイコンになった理由:映画・音楽・現代のレストア文化まで

ドーモビルは単なる“古いキャンピングカー”にとどまらず、今やひとつのカルチャーアイコンとして語られる存在です。その人気の背景には、ヴィンテージな見た目の可愛らしさと、時代を超えて支持される“自由な旅”というコンセプトがあります。そしてその魅力は、映画や音楽などのポップカルチャーの中でもしっかり刻まれてきました。

例えば、イギリスのドラマやコメディ映画では、ちょっとドジな家族のホリデー旅行のシーンにたびたび登場。中でも70年代の映画『ブラス!』では、田舎町のブラスバンド団員がドーモビルで移動するシーンが印象的に描かれています。こうした登場は、「古き良きイギリスの休日」の象徴としての役割を担っていたとも言えるでしょう。また、ビートルズ世代のアーティストやヒッピー文化とも親和性が高く、実際にミュージシャンが所有していたという逸話も。

そして現代では、レトロブームや“バンライフ”のトレンドとともに、クラシックキャンパーとしてのドーモビルに再び注目が集まっています。イギリスやヨーロッパではレストア済みの個体が愛好家によってコレクションされ、イベントやキャンパーラリーに参加している姿もよく見かけます。ウッドパネルやクラシック調の内装に手を加え、自分だけの“動くレトロホテル”に仕上げるのも一つの楽しみ。まさに「時間も空間も超えて遊べる乗り物」──それが今も昔も変わらない、ドーモビルの魅力なのです。

 

時代を超えて旅を続ける、ドーモビルという存在

ベッドフォード・CA・ドーモビルは、ただの古いバンではありません。それは1950年代のイギリスで誕生し、人々に“移動する自由”と“くつろげる旅”という新しい価値をもたらした、まさに移動文化のパイオニアでした。商用車だったベッドフォードCAをベースに、手作業で屋根を持ち上げるというユニークな仕組みを持ち込み、当時の家族旅行をより豊かに、より自由に変えていったのです。

時代が進み、オートキャンプやバンライフという言葉が広まりましたが、ドーモビルが示した“旅の形”は色褪せるどころか、むしろ今の時代にこそ求められているのかもしれません。キャンパーとしての機能性、レトロなデザイン、そして何より「自分の好きな場所で好きなように過ごす」というライフスタイルの提案は、現代のアウトドアブームにもぴったり。

映画や音楽にも登場し、今なお愛され続けるその姿は、単なる自動車の枠を超えて、文化そのものとして息づいています。あなたがもし、ちょっとクラシックで、でも心がワクワクするような旅に出たいと感じたなら。ドーモビルのような一台が、最高のパートナーになってくれるかもしれませんよ。