ホンダ・シビック ユーロR(ABA-EP3型)諸元データ
・販売時期:2001年12月〜2005年9月
・全長×全幅×全高:4490mm × 1695mm × 1440mm
・ホイールベース:2680mm
・車両重量:1270kg
・ボディタイプ:4ドアハッチバック
・駆動方式:FF(前輪駆動)
・エンジン型式:K20A
・排気量:1998cc
・最高出力:220ps(162kW)/8000rpm
・最大トルク:21.0kgm(206Nm)/ 6000rpm
・トランスミッション:6速MT
・サスペンション:前:ストラット / 後:ダブルウィッシュボーン
・ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
・タイヤサイズ:205/55R16
・最高速度:―(公称未発表)
・燃料タンク:50L
・燃費(10・15モード):13.4km/L
・価格:2,268,000円(発売当初)
・特徴:
- タイプR譲りのK20Aエンジン搭載
- 快適装備も充実した4ドアスポーツセダン
- 専用レカロシートやモモステアリングなど装備も豪華
2000年代初頭のホンダと言えば、熱血漢のような「タイプR」シリーズが頭に浮かぶ方も多いでしょう。でも、そんな中でちょっと“ヨーロピアンな空気”をまとったスポーツセダンが密かに話題となっていたのをご存じでしょうか? それが「ホンダ・シビック ユーロR」です。名前だけ聞くと「ヨーロッパ専用モデルかな?」と思いがちですが、実はこのユーロR、れっきとした日本市場専用車。それでいて、中身はまるでヨーロッパの峠道を駆け抜けることを想定したような骨太な走りを見せてくれるのです。
ベースは7代目シビックの4ドアセダン。欧州で開発されたプラットフォームを使いつつ、日本のニーズに合わせてセッティングされ、しかもエンジンはK20A型のVTEC、220ps仕様。これに6速MT、専用レカロ、モモステアリングを組み合わせるという、「通好み」なパッケージで送り出された一台でした。
本記事では、そんなシビック ユーロRの誕生秘話から、タイプRとの違い、そして今あらためて注目される存在感まで、3つのトピックに分けてご紹介していきます。どうぞお楽しみに。
欧州風セダンに宿るVTECの魂 ― ユーロR誕生の背景
「ユーロR」という響きから、つい欧州仕様のホットセダンを想像してしまう方も多いかもしれません。でも実のところ、シビック ユーロRはれっきとした日本専売モデルでした。その誕生の背景には、当時のホンダが掲げていた“走りへのこだわり”と、欧州由来の開発プラットフォームが密接に関わっていたのです。
まず、7代目シビックは日本よりも先にヨーロッパで開発・生産されていたEU型プラットフォームをベースに持ちます。ホイールベースが長く、足回りにしっかり感がある設計は、まさに欧州のワインディングを意識したチューニング。その骨格を活かして、日本市場向けにさらなる走りの個性を加えたのが「ユーロR」でした。
ではなぜ「ユーロR」という名前がついたのか? これはおそらく、同時期に販売されていたアコードの「ユーロR」との連携も意識してのこと。いわば“ヨーロピアン・テイストなR”というシリーズ感を醸し出すための命名だったと考えられます。欧州風のボディに、ホンダの誇る高回転型VTECエンジンを搭載し、内装にもレカロやモモといったパーツを奢る――通好みのスポーツセダンを目指した意欲作だったのです。
タイプRとユーロR、走りの哲学はどう違う?
ホンダの“走りの代名詞”といえば、やはりタイプRシリーズが有名です。ではユーロRは、その廉価版なのか? いえいえ、それは大きな誤解。ユーロRにはタイプRとはまた異なる「大人の走り」を目指した哲学が詰まっていたのです。
エンジンはあの名機、K20A型 VTECユニット。しかも220psを8000回転で絞り出す、ほぼタイプRと同等のチューンを施された高回転型です。さらに6速MTを組み合わせ、エンジンフィールはまさに痛快そのもの。にもかかわらず、ユーロRの魅力はそこだけではありません。4ドアセダンという実用性の高さ、そして快適性にも手を抜かない内装装備が、「使えるスポーツカー」という独自の立ち位置を築いていたのです。
たとえば、インテリアには専用のレカロ製バケットシート、モモの本革ステアリング、赤いステッチが映えるシフトブーツなど、見るからにやる気満々な演出が満載。でも、エアコンはフルオート、リアシートの居住性も充分、日常使いに不満が出ないのがユーロRの美点でした。タイプRが“走り一辺倒”であるのに対し、ユーロRは**スポーツと実用のバランスを極めた「通好みのR」**だったのです。
そのため、当時の販売面ではあまり目立たなかったものの、一部のファンの間では「ホンダの隠れた名作」として高い評価を受けていました。その評価は今、静かに再燃しつつあるのです。
今こそ注目!ユーロRという中古市場の“掘り出し物”
発売当時は「地味だけどいい車」として一部のマニアから支持されていたシビック ユーロR。しかし今、じわじわと中古車市場での存在感が高まってきているのをご存じでしょうか? その理由はシンプル、現代ではほとんど見られないパッケージングにあります。
まず、4ドアセダンでMT車という時点でかなり希少。さらに、220馬力のNAエンジンを高回転でぶん回せる車なんて、いまや国産車ではほとんど絶滅状態です。K20Aエンジン自体も評価が高く、耐久性やチューニング性に優れているため、今でも走行距離が伸びている個体に人気が集まっています。
価格も数年前までは比較的リーズナブルだったものの、ここ最近では状態の良い車両はじわじわと値上がり傾向に。とくに無改造・純正度の高いもの、内装がしっかり残っている個体はコレクターや走り好きの間で取り合いになることも。レカロやモモといった装備も、年数が経つほど価値を増してきています。
そしてなにより、このクルマの持つ「ちょっと地味だけど本気」というキャラクターが、クルマ好きの心をくすぐる存在になっているのです。タイプRほど攻めたくない、でも走りには妥協したくない――そんな絶妙な感覚にぴったりフィットするのが、シビック ユーロR。中古車市場で“見つけたら即買い”と言われるのも納得の一台です。
まとめ
「ユーロR」という名前を持ちながら、実は日本市場限定で販売されていたホンダ・シビック ユーロR。その存在は、2000年代のスポーツセダン市場の中でもひときわ異彩を放っていました。欧州風のプラットフォームに、高回転型VTECエンジン、6速MT、専用装備と、ホンダが本気で“走り”と“日常”の融合を目指したことが感じ取れる一台です。
タイプRとは異なる哲学で、「使えるスポーツカー」を貫いたユーロR。派手さはないものの、その奥深い走行性能と快適性のバランスは、今だからこそ見直される価値があります。とくに近年は、純ガソリン車でMT、しかも高性能エンジンを持つモデルが急速に減っている中で、ユーロRのような“粋な選択肢”は貴重な存在と言えるでしょう。
中古車市場でも注目が集まりつつある今、シビック ユーロRはまさに「見た目にだまされるな」と言いたくなる一台。もしどこかで出会うことがあれば、その本気度を、ぜひ体感してみてください。