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サーブ・92:戦後復興から生まれた北欧の傑作

 

サーブ 92 諸元データ

基本情報

  • 製造年:1949年~1956年
  • 生産台数:20,128台
  • ボディタイプ:2ドアセダン(ファストバックスタイル
  • 駆動方式:FF(フロントエンジン・前輪駆動)

寸法・重量

  • 全長:3,950mm
  • 全幅:1,620mm
  • 全高:1,450mm
  • ホイールベース:2,470mm
  • 車両重量:810kg

エンジン

  • 種類:2ストローク並列2気筒
  • 排気量:764cc
  • 最高出力:25PS(18kW)/ 3,800rpm
  • 最大トルク:90Nm / 2,000rpm
  • 燃料供給方式:キャブレター
  • 圧縮比:6.6:1

トランスミッション

  • ギアボックス:3速MT(2速・3速にはシンクロメッシュ付き)
  • クラッチ:乾式単板クラッチ

シャシー・サスペンション

  • フレーム構造モノコック構造
  • フロントサスペンション:独立懸架トーションバー
  • リアサスペンション:トーションバー式
  • ブレーキ:4輪ドラムブレーキ

性能

  • 最高速度:105km/h
  • 0-100km/h加速:約27秒
  • 燃料消費率:約7.2L/100km(約13.9km/L)

その他

  • 燃料タンク容量:30L
  • Cd値(空気抵抗係数):0.30(当時としては非常に低い値)


スウェーデンの自動車メーカー、サーブ(SAAB)が手掛けた初の市販車「サーブ 92」は、航空機メーカーとしての技術を活かし、独創的なデザインと機能性を兼ね備えたモデルでした。1949年に登場したこのコンパクトカーは、当時のスウェーデン市場において画期的な存在となり、サーブの自動車産業への本格参入を象徴するモデルとなりました。

サーブ 92は、戦後の厳しい環境の中で経済的かつ実用的な車を求めるニーズに応える形で開発されました。流線型のボディデザイン、軽量な車体、前輪駆動レイアウトなど、当時としては革新的な要素を多数採用し、高い燃費性能と優れた走行性能を実現しました。なお、初期の生産モデルはすべて濃いグリーンで塗装されており、これは戦時中に余剰となった航空機用の塗料を流用したためと言われています。今回は、サーブ 92の誕生背景、デザインや技術的な特徴、そしてその歴史的な意義について詳しく掘り下げていきます。

誕生と開発の背景

サーブ 92の開発は、第二次世界大戦終結後のスウェーデンにおいて、新たな産業基盤を築く必要性から始まりました。航空機メーカーとして名を馳せていたサーブは、戦争による需要減少を背景に、新たな分野への進出を模索していました。その結果、自動車産業への参入が決まり、1945年に開発がスタートしました。

サーブのエンジニアたちは、航空機設計の知識を活かし、軽量で空力特性に優れたボディを設計しました。ボディの形状は、風洞実験を繰り返しながら決定され、非常に流線型のフォルムとなりました。その結果、Cd値(空気抵抗係数)は0.30という驚異的な数値を記録し、当時の市販車としては異例の低抵抗を実現していました。

また、当時のスウェーデンの道路事情を考慮し、前輪駆動方式を採用しました。これにより、雪道や悪路での走破性が向上し、スウェーデン国内での実用性が高められました。1947年に最初の試作車が完成し、その後改良を重ねた後、1949年に正式にサーブ 92が発表されました。

デザインと技術的特徴

サーブ 92の最大の特徴は、そのユニークなデザインと技術にあります。

デザイン面では、サーブ 92は極めて滑らかな流線型のシルエットを持ち、丸みを帯びたフロントとリアが特徴的でした。このデザインは、サーブの航空機設計チームによって開発され、風洞実験を重ねた結果、空気抵抗を最小限に抑える形状となりました。そのCd値(空気抵抗係数)は0.30で、当時の自動車としては異例の数値でした。これは燃費性能向上にも寄与し、少ない燃料消費で長距離走行を可能にしていました。

また、ボディは航空機技術を応用したモノコック構造を採用し、パネルの接合部を極力減らすことで剛性を高めていました。そのため、当時の他の車と比べて軽量でありながらも、頑丈な車体を実現しました。この構造は、安全性の向上にも寄与し、サーブの「頑丈なクルマ作り」の基盤となっていきます。

初期モデルにはリアウィンドウがなく、後方視界を確保するために特別に設計されたサイドミラーが装備されていました。1953年以降のモデルではリアウィンドウが追加され、視認性が向上しています。また、初期のドアは観音開きの設計で、利便性とデザイン性を兼ね備えていました。

技術面では、サーブ 92は当時としては先進的な前輪駆動レイアウトを採用し、雪道や悪路での走行安定性を大幅に向上させました。搭載されたエンジンは、2ストローク並列2気筒エンジンで、排気量764cc、最高出力25馬力を発揮しました。2ストロークエンジンは、シンプルな構造で軽量かつ信頼性が高く、スウェーデンの厳しい寒冷地でも優れた始動性を発揮しました。燃料とオイルを混合して使用するため、定期的なメンテナンスは必要でしたが、部品点数が少なく耐久性に優れていたため、多くのユーザーにとって扱いやすいエンジンでした。

さらに、サスペンションはトーションバー式を採用し、コンパクトながらもしなやかな乗り心地を提供しました。これにより、悪路でも安定した走行が可能となり、特にスウェーデンの冬道で高い性能を発揮しました。

歴史的意義と影響

サーブ 92は、スウェーデン国内で大きな成功を収め、サーブの自動車産業における礎を築きました。当初の生産台数は少なかったものの、堅実な性能と耐久性が評価され、1955年までに2万台以上が生産されました。

特にラリー競技においては、軽量で空力特性に優れたボディと前輪駆動の組み合わせが高い評価を受け、多くのレースで好成績を収めました。実際、サーブ 92は発売からわずか2週間後にスウェディッシュ・ラリーに参戦し、クラス2位という優れた成績を収めています。この驚異的なパフォーマンスにより、サーブはスポーツカーとしての評価を確立し、その後のラリー参戦の道を切り開きました。

これにより、サーブのスポーツイメージが形成され、後の「サーブ 96」や「サーブ 99」へと続くブランドのアイデンティティが確立されました。

また、サーブ 92は、スウェーデン国内において実用的で経済的な大衆車としても重要な役割を果たしました。戦後のスウェーデンでは、シンプルで低燃費な車が求められており、サーブ 92はその要件を満たす理想的なモデルだったのです。

【まとめ】
サーブ 92は、スウェーデン自動車産業におけるパイオニア的存在であり、戦後のサーブが新たな市場へと進出するきっかけを作った革新的なモデルでした。航空機メーカーならではの空力設計、前輪駆動レイアウト、そして経済的な2ストロークエンジンの採用により、実用性と独自性を兼ね備えた車として高く評価されました。

現在、サーブ 92はクラシックカーとして一部の愛好家に大切にされており、そのユニークなデザインと歴史的価値から、今なお注目されています。もし、スウェーデンの自動車史やサーブの独創的なエンジニアリングに興味があるなら、サーブ 92はぜひ知っておくべき一台です。