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フォルクスワーゲン・パサート B1:時代を変えたファミリーセダンの原点

フォルクスワーゲンパサート B1(初代) 諸元データ

ボディと寸法

  • ボディタイプ
    • 2ドアファストバックセダン
    • 4ドアファストバックセダン
    • 3ドア/5ドアステーションワゴン(バリアント)
  • 全長:4,190 mm ~ 4,295 mm(モデルによる)
  • 全幅:1,600 mm
  • 全高:1,365 mm
  • ホイールベース:2,470 mm
  • 車両重量:900 kg ~ 1,050 kg(仕様により異なる)

パワートレイン

  • エンジン種類直列4気筒、水冷
  • 排気量
    • 1.3 L(1,297 cc)
    • 1.5 L(1,471 cc)
    • 1.6 L(1,588 cc)
    • 1.5 L ディーゼル(後期モデル)
  • 最高出力:55~85 PS(モデル・仕様により異なる)
  • トランスミッション:4速/5速マニュアル、3速オートマチック(後期モデル)
  • 駆動方式:前輪駆動(FF)

性能

  • 最高速度:145 km/h ~ 170 km/h(エンジン仕様による)
  • 0-100 km/h 加速:約12~15秒
  • 燃費:10~15 km/L(運転状況による)

シャシーと装備

  • サスペンション
    • フロント:マクファーソンストラット
    • リア:トレーリングアーム式
  • ブレーキ:フロントディスク / リアドラム(標準)
  • ステアリング:ラック&ピニオン

市場別特徴

  • ブラジル仕様現地生産が行われ、エタノール燃料対応モデルも存在
  • 北米仕様:大型バンパー装着、排ガス規制対応のエンジン採用



 

1970年代初頭、フォルクスワーゲンは新たな時代の幕開けを迎えていました。それまでの主力車種であった空冷リアエンジンのビートルに代わる、モダンな車両を求めていたのです。その答えとして登場したのが、1973年に発表された初代フォルクスワーゲンパサート(B1)でした。パサートは、フォルクスワーゲンにとって重要な転換点となるモデルであり、同社の未来を方向づける一台となりました。

パサート B1は、前輪駆動を採用し、水冷エンジンを搭載することで、当時のヨーロッパ市場において競争力のあるモデルとなりました。その設計は、フォルクスワーゲン傘下にあったアウディの技術を基にしており、近代的な機能性と実用性を兼ね備えていました。これにより、パサートは単なる一台のセダンではなく、ファミリーカーの新たな基準を確立する存在となったのです。本記事では、パサート B1の誕生の背景、技術的な特徴、そして市場に与えた影響について詳しく見ていきます。

モダンな設計と前輪駆動の採用

パサート B1の登場は、フォルクスワーゲンの大きな転換期を象徴していました。それまで同社の主力モデルは、伝統的なリアエンジン・リア駆動のビートルであり、その設計は長年にわたって支持されてきました。しかし、1970年代に入ると、自動車市場はより合理的で効率的なレイアウトを求めるようになり、前輪駆動が一般的になりつつありました。そこでフォルクスワーゲンは、アウディの持つ前輪駆動の技術を活用し、新世代のモデルとしてパサートを開発しました。

パサート B1は、アウディ 80(B1)をベースに設計されており、フォルクスワーゲン水冷エンジンを搭載する車両を本格的に展開する最初のモデルのひとつとなりました。エンジンは、直列4気筒の1.3Lから1.5Lまでのバリエーションが用意され、当時としては十分な性能を発揮しました。前輪駆動の採用により、ビートルと比較して車内スペースを広く確保することができ、快適性も向上しました。

また、B1のデザインは、イタリアの名門デザインスタジオ「ジウジアーロ」が手掛けたものであり、直線的で機能美を重視したフォルムが特徴的でした。従来のフォルクスワーゲン車が持つ丸みを帯びたデザインから一新され、シャープなボディラインと空気抵抗を考慮した設計が採用されました。このデザインの採用により、車両のスタイルが洗練されたものとなり、より現代的な自動車のトレンドに適合することができました。

さらに、モダンな設計は安全面にも表れていました。パサート B1は、衝撃吸収構造を備えたボディを採用し、クラッシャブルゾーンの概念を取り入れた設計となっていました。これにより、衝突時のエネルギーを吸収し、乗員を保護する効果が高められていました。また、フロントエンジン・前輪駆動レイアウトにより、エンジンルームが広く確保され、衝突時の安全性が向上した点も大きな特徴でした。

このように、パサート B1は、技術的にもデザイン的にもそれまでのフォルクスワーゲンとは一線を画すモダンな設計を取り入れたモデルであり、これが後の同社の車両設計にも影響を与えることとなりました。

幅広いボディバリエーションと実用性

パサート B1は、登場当初からさまざまなボディバリエーションを展開し、多様なニーズに応える戦略が取られました。最初に発表されたのは2ドアと4ドアのファストバックセダンでしたが、その後すぐに5ドアのステーションワゴン(バリアント)も追加されました。ステーションワゴンは、当時のヨーロッパ市場において特に人気があり、ファミリー層や荷物を多く運ぶビジネスユーザーから高く評価されました。

この時期、フォルクスワーゲンは商用車としての実用性を重視しながら、ファミリーカーとしての快適性も両立させることを目指していました。特にワゴンモデルは、広大な荷室スペースとフラットに近いラゲッジフロアを備えており、積載性の面でも非常に優れていました。

さらに、パサート B1にはディーゼルエンジンのバリエーションも用意され、燃費の良さが求められる市場に適応しました。これは、当時の石油危機による燃料価格の高騰を背景に、経済的な車両を求める消費者にとって魅力的な選択肢となりました。結果として、パサートは実用性の高さから幅広い層に受け入れられ、フォルクスワーゲンの新たな代表車種へと成長していったのです。

世界市場への展開と成功

パサート B1は、フォルクスワーゲンにとってグローバル戦略の要となるモデルでもありました。ヨーロッパ市場を中心に販売されましたが、北米や南米、アジア市場にも進出し、世界中で高い評価を得ることに成功しました。特に南米では、ブラジルのフォルクスワーゲン工場で現地生産が行われ、独自の仕様を持つパサートが展開されました。ブラジル市場では、厳しい道路環境や燃料事情に対応するため、独自のエンジンセッティングや足回りの改良が施されました。また、ブラジル製パサートは一部モデルでアルコール燃料(エタノール)にも対応する仕様が開発され、地域特有のニーズに適応しました。これにより、ブラジル国内での人気が高まり、フォルクスワーゲンが南米市場でのプレゼンスを確立する上で大きな役割を果たしました。

まとめ

フォルクスワーゲンパサート B1は、1970年代において同社の歴史を大きく変えるモデルとなりました。前輪駆動と水冷エンジンの採用、モダンなデザイン、そして多彩なボディバリエーションによって、幅広い層の消費者に受け入れられました。また、世界市場への積極的な展開により、フォルクスワーゲンのブランド価値を高めることにも貢献しました。

現在に至るまで続くパサートの系譜は、このB1モデルから始まりました。その影響は、現代の自動車市場においても色濃く残っており、パサート B1はフォルクスワーゲンの成功の礎を築いた車として語り継がれています。