モンテヴェルディ ハイ450SS 諸元データ
・販売時期:1967年〜1969年
・全長×全幅×全高:4,640mm × 1,740mm × 1,320mm
・ホイールベース:2,600mm
・車両重量:1,550kg
・ボディタイプ:2ドアクーペ
・駆動方式:FR(後輪駆動)
・エンジン型式:クライスラー製 V8 OHV(440cu.in.)
・排気量:7,206cc
・最高出力:375ps(276kW)/ 4,600rpm
・最大トルク:67.0kgm(657Nm)/ 3,200rpm
・トランスミッション:4速マニュアル(または3速オートマチック)
・サスペンション:前:ダブルウィッシュボーン / 後:リジッドアクスル(コイルスプリング)
・ブレーキ:四輪ディスクブレーキ
・タイヤサイズ:205/70VR15
・最高速度:約270km/h
・燃料タンク:100L
・燃費(JC08モード):該当データなし(該当時代の車のため)
・価格:当時約14,800スイスフラン(新車時)
・特徴:・クライスラー製7.2リッターV8エンジンをフロントに搭載した異色のグランドツアラー
・フルア/ジウジアーロによる流麗なイタリアンデザインのボディ
・世界生産台数が数十台規模という極めて高い希少性
時計やチョコレートで世界的に有名なスイス。
そんなスイスですが、実は自動車メーカーもかつて存在していました。
そのひとつが、今回ご紹介する「モンテヴェルディ」です。
モンテヴェルディ・ハイ450SSという車の名前を、初めて聞いた方も多いでしょう。
この車が生産されたのは1967年から1969年という短い期間で、製造台数は数十台という、まさに幻の一台。
フェラーリやランボルギーニといったイタリアの有名ブランドでさえ、生産台数が少ないと話題になることがありますが、モンテヴェルディのそれはさらに桁違いの希少性を誇っています。
では、いったいどんな車なのでしょうか。
一言でいえば、「スイス人がイタリアのデザインとアメリカのエンジンを組み合わせて作った、究極の欧州グランドツアラー」と言ったところでしょうか。
グランドツアラーというのは、快適に長距離を高速で走り抜けるための車のことで、スポーツカーのような過激な走りというよりも、どこまでも疲れずに走り続けられる、そんな旅の相棒のような存在です。
この車を作ったのは、ピーター・モンテヴェルディというスイス人の実業家です。
フェラーリのディーラーを経営するほどの車好きが、ついに「自分で理想の車を作る」という夢を実現させたのがモンテヴェルディというブランドでした。
その野心作であるハイシリーズの中でも、最強スペックを誇るのがこの450SSです。
今回は、そんな知る人ぞ知る幻のスイス製グランドツアラー、モンテヴェルディ・ハイ450SSの魅力を3つのトピックに分けてご紹介します。
自動車の歴史の中に埋もれた、小さくも輝かしいこの一台の物語を、ぜひ一緒に楽しんでいただければと思います。
スイスの時計師が作った、アメリカンV8を積む欧州グランドツアラー
モンテヴェルディという名前のブランドが、スイスで生まれたことには、ちょっとした驚きがあります。
スイスといえば、精密機械の代名詞とも言える時計産業で有名な国です。
そのスイスで、フェラーリでも採用していないアメリカ製の巨大エンジンを積んだ車が作られたというのは、よく考えると相当にユニークな話です。
創業者のピーター・モンテヴェルディは、1934年にスイスのバーゼル郊外で生まれました。
若い頃から車への情熱が並外れており、10代でフェラーリのディーラーを経営するほどの人物でした。
フェラーリを売る側にいたからこそ、彼は「自分が理想とする車」のイメージを強く持ち続けていました。
そして1967年、ついに自らのブランド「モンテヴェルディ」を立ち上げ、最初のモデルとなる「ハイシリーズ」を発表したのです。
このハイシリーズの設計思想は、非常にシンプルかつ大胆なものでした。
欧州の優美なボディラインと、アメリカの巨大なV8エンジンのパワーを組み合わせるというものです。
当時のアメリカ車は「力はあるが洗練されていない」、欧州車は「上品だがパワーに欠ける」という印象を持たれていました。
モンテヴェルディはその両者の長所だけを取り出して、ひとつの車に詰め込もうとしたのです。
採用されたエンジンは、クライスラー製の7.2リッターV8です。
7.2リッターというのは、一般的な国産コンパクトカーのエンジン排気量の約5倍にあたります。
そのエンジンから生み出される最高出力は375ps、最大トルクは67kgmという、当時の欧州グランドツアラーとしては圧倒的な数値でした。
おかげで最高速度は約270km/hに達し、ゆったりとした外見からは想像もできないような鋭い走りを見せます。
驚くべきことに、モンテヴェルディはエンジンだけをアメリカから調達し、ボディの製作はイタリアのカロッツェリアに依頼し、最終的な組み立てはスイスの小さな工房で行いました。
まるで世界中の一流食材を集めてシェフが腕を振るうような作り方です。
こうした製法は、大量生産とはまったく対極にあるもので、まさにモンテヴェルディが「売るための車」ではなく「自分が乗りたい車」を作っていたことの証と言えるでしょう。
フルオーダーで作られた"一点物"の哲学
モンテヴェルディ・ハイ450SSが現代においてこれほど希少な存在である理由は、単純に製造台数が少ないからだけではありません。
その作り方そのものが、大量生産とは根本的に異なる哲学に基づいていたからです。
モンテヴェルディの工場は、スイスのビニンゲンという小さな町にありました。
ここで行われていた作業は、現代の自動車工場が思い描くような流れ作業とはまったく異なるものでした。
職人が少人数で一台ずつ丁寧に組み上げていくスタイルで、顧客の要望に応じてインテリアの素材や色、装備をカスタマイズすることも当たり前に行われていました。
日本でいえば、大手回転寿司チェーンではなく、カウンターで職人がその日の客のために一皿ずつ握る高級鮨店に近い感覚です。
その結果、同じ「ハイ450SS」という名前を持つ車でも、一台として完全に同じ仕様の個体は存在しないと言われています。
インテリアのレザーの色が違い、ダッシュボードのウッドパネルの木目が違い、ステアリングホイールの仕様が違う。
同じ名前の兄弟でも、顔立ちが少しずつ異なるように、モンテヴェルディの車はそれぞれが個性を持った一点物だったのです。
また、価格についても相当なものでした。
1960年代後半の当時、ハイ450SSの新車価格は約14,800スイスフランでした。
当時の日本でトヨタ・カローラが新車で約45万円で購入できた時代ですから、モンテヴェルディの価格がいかに突出したものだったかが分かります。
それでも顧客には、欧州の富裕な実業家や貴族階級の人々が名を連ねていたといいます。
現代においても、その希少性は変わりません。
世界各地のオークションや自動車展示会に、ごくまれにモンテヴェルディの車が登場することがありますが、そのたびに自動車コレクターたちの間で大きな話題になります。
数十台という生産台数の中で、現存している個体はさらに少なく、程度の良いものとなると世界にほんのわずかしか残っていないからです。
こうした希少性こそが、モンテヴェルディという名前を今日まで自動車史の中に刻み込み続けている理由のひとつと言えるでしょう。
ジウジアーロが手掛けた美しすぎるボディ
どんなに高性能なエンジンを積んでいても、見た目が魅力的でなければグランドツアラーとしての説得力は半減してしまいます。
モンテヴェルディ・ハイ450SSは、その点においても非常に贅沢な出自を持っています。
ボディデザインを手掛けたのは、イタリアの名門カロッツェリア(自動車ボディ工房)であるフルアでした。
フルアはイタリア・トリノに拠点を置くデザイン工房で、その歴史は1910年代にまでさかのぼります。
20世紀初頭のヨーロッパでは、車のエンジンや足回りを作るメーカーと、ボディをデザイン・製作するカロッツェリアが別々に存在するのが一般的でした。
つまり、モンテヴェルディはいわば「エンジンをアメリカで調達し、ドレスをイタリアの名門に仕立ててもらい、スイスで仕上げる」という方法をとっていたのです。
そして、このフルアでデザインに関わったと言われているのが、若き日のジョルジェット・ジウジアーロです。
ジウジアーロという名前は、自動車好きの方にはおなじみかもしれません。
フォルクスワーゲン・ゴルフ初代モデルや、初代フォルクスワーゲン・パサート、そして日本ではいすゞ・ピアッツァのデザインで知られる、20世紀を代表する自動車デザイナーです。
日常的に目にする車を数多く手掛けた巨匠が、その初期のキャリアにおいてモンテヴェルディのデザインに携わったとすれば、この車の美しさにも改めて納得がいきます。
ハイ450SSのボディラインは、当時の欧州グランドツアラーらしい流麗なクーペスタイルでまとめられています。
全長4,640mmというゆったりとした車体に、低く構えたルーフライン。
フロントグリルは水平基調で落ち着きがあり、サイドのラインは緩やかに抑揚がつけられています。
主張しすぎず、しかし確かな存在感がある。
スイスの時計職人が作ったような、抑制の効いた美しさとでも言うべき佇まいです。
こうしたデザイン、パワー、希少性の三拍子が揃ったモンテヴェルディ・ハイ450SSは、自動車史の中でも特異な輝きを放つ一台です。
有名ブランドの陰に隠れながらも、知る人の間ではいまなお語り継がれる存在であり続けているのは、この車が持つ唯一無二の個性があればこそだと思います。
まとめ
モンテヴェルディ・ハイ450SSは、スイスという意外な国で生まれた、意外な組み合わせを持つ車です。
アメリカの巨大V8エンジン、イタリアの美しいボディデザイン、そしてスイスの職人による丁寧な手仕事。
この三つの要素が組み合わさることで、フェラーリやランボルギーニとはまったく異なる個性を持つグランドツアラーが誕生しました。
ピーター・モンテヴェルディという一人の情熱的な車好きが、「自分が本当に乗りたい車を作る」という純粋な動機から始めたこのプロジェクトは、わずか数年という短い期間ではありましたが、確かな足跡を自動車史に刻みました。
有名ブランドのように大量生産を追わず、利益より理想を優先させる姿勢は、現代のカーメーカーの常識からすると少し不思議に映るかもしれません。
しかし、それこそがモンテヴェルディという存在を、今日まで特別なものにしている理由でもあると思います。
数十台という生産台数の中で、今日まで現存しているのはそのほんの一部です。
もし世界のどこかのコレクションやオークションでこの車を見かけることがあったなら、それはとても幸運なことです。
その時はぜひ、スイスの小さな工房でひとりの夢が形になった瞬間に思いを馳せながら、そのボディラインをじっくりと眺めてみてください。
「こんな車が世界に存在していたのか」という驚きと、「これだけ純粋に車を愛した人間がいたのか」という感動が、きっと同時に押し寄せてくるはずです。
モンテヴェルディ・ハイ450SSは、自動車という文化が持つ奥深さと、人間の情熱の面白さを教えてくれる、そんな一台です。
ぜひこれを機に、普段あまり知られていないマイナーなブランドの世界へも目を向けてみてはいかがでしょうか。
自動車の歴史には、まだまだ知られていない宝物が眠っています。
