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ホンダ・NSX:伝説を未来へつなぐ、ホンダの革新と信念

ホンダ・NSX(NC1型・3.5Lハイブリッド)諸元データ

販売時期:2016年〜2022年
全長×全幅×全高:4487mm × 1940mm × 1215mm
ホイールベース:2630mm
車両重量:1780kg
ボディタイプ:2ドアクーペ(ミッドシップ
駆動方式:4WD(SPORT HYBRID SH-AWD
エンジン型式:JNC1
排気量:3493cc
最高出力:507ps(373kW)/ 6500rpm
最大トルク:56.1kgm(550Nm)/ 2000〜6000rpm
モーター出力:前輪用モーター 37ps ×2、後輪用モーター 48ps
システム総出力:581ps(427kW)
トランスミッション:9速DCT(デュアルクラッチ)
サスペンション:前:ダブルウィッシュボーン / 後:マルチリンク
ブレーキ:カーボンセラミックディスク(オプション)
タイヤサイズ:前:245/35ZR19 / 後:305/30ZR20
最高速度:308km/h
燃料タンク:59L
燃費(JC08モード):約12.4km/L
価格:23,700,000円(発売当時)
特徴
 1. ハイブリッド+ツインターボによる高性能4WD
 2. アメリカ・オハイオ州で生産
 3. 初代NSXの「人が主役のスーパーカー」思想を継承

 

2005年に初代NSXが静かに生産を終えてから、10年以上もの歳月が流れました。多くのファンは口をそろえて言いました。「ホンダは、もうスーパーカーを作らないのか」と。あのアイルトン・セナとともに磨かれた名車、そして“人が主役のスーパーカー”という思想を持ったNSXは、ホンダの象徴であり誇りでもありました。その名を継ぐ新たな存在が登場するには、ただ速いだけではなく、再び世界を驚かせる革新性が求められていたのです。

2016年、ホンダはついにその答えを出しました。新しいNSXは、もはや単なるスポーツカーではありませんでした。ハイブリッド×ツインターボ×4WDという、時代の最先端技術を融合した“未来のスーパーカー”として生まれ変わったのです。しかも生産は、アメリカ・オハイオ州の特別工場「パフォーマンス・マニュファクチュアリング・センター(PMC)」で行われました。これは単なる海外生産ではなく、「グローバルブランドとしてのホンダが、再び世界に挑む」という宣言でもありました。

新型NSXの開発陣が掲げたテーマは、初代と同じく**「人が主役」**という思想でした。最新技術をいくら積み重ねても、最後に操るのは人間である――この哲学は、どんなに時代が変わってもホンダが捨てなかった信念です。開発責任者のテッド・クラウスは、「NSXはテクノロジーのショーケースではなく、人の感覚を拡張するマシンである」と語っています。つまり、電動化が進む中でも“機械が人を支配する”のではなく、“技術が人を高める”という方向を選んだのです。

スタイルは初代の流れをくみながらも、より筋肉質で、空力を意識した立体的なフォルムへと進化しました。低く構えたノーズ、複雑にえぐられたエアインテーク、そしてテールまで流れるようなライン。見る者に静かな緊張感を与えるその姿は、まさに現代のサムライのようです。ボディはアルミと高張力鋼、カーボンファイバーを組み合わせたハイブリッド構造で、剛性と軽さの両立を実現しました。これは、初代が成し遂げたアルミモノコックの思想を、より進化させた形といえます。

そして心臓部には、新開発の3.5リッターV6ツインターボエンジンと3基のモーターを組み合わせた「SPORT HYBRID SH-AWD」システムを搭載。前輪左右に独立したモーターを備えることで、コーナリング時に内外輪の駆動力を自在に制御します。結果、ドライバーはまるで“頭の中で思った通りに車が動く”ような感覚を得ることができました。初代NSXが目指した「人と機械の一体感」は、ハイブリッドという新たな形で再び息を吹き返したのです。

また、この2代目NSXのもうひとつの特徴は、「日本車でありながら、世界のために作られた」という点です。アメリカを中心に開発・生産されながらも、日本的な緻密さと誠実さを失わなかった。つまり、国境を越えてもホンダらしさは揺るがなかったのです。エンジニアたちは口々に言いました。「初代NSXが“理想”だったなら、2代目は“その理想を未来に接続する橋”だ」と。

誕生から25年の時を経て、NSXは再び世界へ挑みました。進化した技術の中に人間らしさを宿すという、矛盾するテーマを見事に両立したその姿は、まさにホンダの哲学の結晶です。初代が“情熱の塊”だったとすれば、2代目は“理性と情熱の共存”を体現した車でした。時代が変わっても、ホンダは変わらない――それを静かに、しかし確かに証明したのが、この2代目NSXでした。

 

復活の決意――“伝説を再び”を掲げたプロジェクト

2005年、初代NSXがその長い歴史に幕を下ろしたとき、自動車ファンの多くは寂しさを感じました。世界に誇る日本のスーパーカーが、静かに姿を消した瞬間だったからです。F1直系の血を受け継ぎ、アイルトン・セナと共に磨かれた名車が去ったあと、ホンダはしばらくの間“スーパーカー不在の時代”に入りました。その間、世界では電動化やターボ技術の進化が加速し、フェラーリマクラーレンといったブランドは次々とハイテク化されたモデルを投入していきます。そんな中で、ホンダのエンジニアたちの胸には、ある思いが燻っていました。「もう一度、NSXを作りたい」。

新型NSXの開発プロジェクトが正式に始動したのは2008年ごろ。しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。世界的な金融危機が発生し、自動車産業全体が生産縮小へと向かう中で、ホンダも計画を一度凍結せざるを得なくなります。当初はV10自然吸気エンジンを搭載する案もありましたが、時代の流れはすでに“効率と環境”へと向かっていました。彼らは考え直します。「速さだけではない、新しい時代のスーパーカーとは何か」。その答えを探る旅が始まったのです。

転機が訪れたのは2010年代初頭。ハイブリッド技術を得意とするホンダが、電動化と走りを融合させるという発想にたどり着きます。それがのちに完成する“SPORT HYBRID SH-AWD(スーパーハンドリング・オールホイールドライブ)”の原型でした。電動モーターを使って前輪を独立制御し、ブレーキやアクセル操作に応じて瞬時にトルク配分を変える。この革新的なシステムによって、ドライバーはどんな路面でも理想的なトラクションを得られるようになります。つまり、電気の力で“直感的な操縦感覚”を再現するという、極めてホンダらしいアプローチだったのです。

プロジェクトの拠点となったのは、アメリカ・オハイオ州メアリズビルのパフォーマンス・マニュファクチュアリング・センター(PMC)。ここは通常の自動車工場とはまったく異なる施設でした。生産ラインにはコンベアがなく、熟練の職人が一台ずつ手作業で組み上げるという、まるで高級時計のような製造スタイル。開発チームには、日本とアメリカの技術者が混在し、「世界のホンダ」が一丸となって挑んだのです。PMCの床はまるで研究室のように清潔で、ボディを吊るすクレーンの動きまでが静かに制御されていました。エンジニアたちはそこを「神聖な場所」と呼びました。

2015年、デトロイトモーターショーで新型NSXが初披露された瞬間、会場はどよめきに包まれました。フェラーリランボルギーニが並ぶ中で、ひときわ異彩を放っていたのがこのマシン。シャープで力強いデザイン、そして“電動化されたスーパーカー”という新しい方向性。ホンダは単なる復活ではなく、スーパーカーの未来像を提示してみせたのです。開発責任者のテッド・クラウスは壇上でこう語りました。「私たちは伝説を再現するのではなく、次の時代の伝説を作りにきた」。その言葉は、ホンダが“過去の栄光をなぞる”のではなく、“未来を切り拓く”覚悟の証でした。

新型NSXの誕生は、ホンダにとっても大きな転換点でした。燃費や環境性能が重視される時代にあっても、走る歓びを諦めない。その信念が、この車に凝縮されています。開発スタッフの一人はこう語りました。「NSXは、ホンダの魂を再起動させるスイッチだった」。この一言に、すべてが集約されています。
2代目NSXは、過去を再現するためではなく、“未来のホンダ”を見せるために生まれたのです。

 

ハイブリッド×ツインターボ――次世代スーパーカーのメカニズム

2代目NSXの最大の特徴は、そのカニズムの異次元さにあります。初代が「人が主役のスーパーカー」という思想を掲げたなら、2代目は「人と機械が共に走るスーパーカー」を体現した存在でした。エンジンとモーター、電子制御とアナログ感覚が緻密に融合し、どちらか一方が主導するのではなく、まるで互いに会話しているように協調する――そんな新しい走りの世界を実現したのです。

パワートレインの中心となるのは、新開発の3.5リッターV6ツインターボエンジン(JNC1型)。このエンジンは、90度バンクのV型シリンダーを持ち、ドライサンプ潤滑システムを採用。低重心化を徹底し、エンジンを可能な限り下げて搭載することで、車の回頭性を高めています。最大出力は507ps、最大トルクは56.1kgm。さらに、そこに3基のモーターを組み合わせることで、システム総出力581psという途方もないパワーを発揮します。0→100km/h加速はわずか3秒台前半。これはフェラーリ488GTBやマクラーレン650Sと肩を並べる加速性能です。

しかし、この車の真価は単なる数値の凄さではありません。最大の革新は、“SPORT HYBRID SH-AWDと呼ばれる駆動システムにあります。これは「Super Handling All Wheel Drive」、つまり“超ハンドリング四輪駆動”という意味で、ホンダが長年培ってきたSH-AWD技術を電動化したものです。前輪左右には独立したモーターを搭載し、それぞれがトルクを細かく制御。コーナーで内側のタイヤを減速、外側のタイヤを加速させることで、車が自然に曲がっていくような感覚を作り出します。ドライバーがステアリングを切った瞬間、モーターが反応して“理想のライン”へと導くのです。これにより、NSXは重さを感じさせない俊敏さを手に入れました。

後輪にはもう一つのモーターが配置され、V6ツインターボのパワーをスムーズにアシストします。これがトルクの谷を埋める役割を果たし、加速時の“ターボラグ”をほとんど感じさせません。エンジンとモーターの協調は驚くほど自然で、回転数が上がるたびに音、振動、加速のすべてがシームレスにつながっていく感覚を味わえます。ホンダはこの統合制御をスーパーカーの新しい呼吸」と呼びました。実際、運転していると、エンジンとモーターが互いに息を合わせて走っているように感じるのです。

このシステムを支えるのが、最新の電子制御群です。車両全体を管理するi-MMD(Intelligent Multi-Mode Drive)制御は、アクセル開度、ブレーキ圧、ステアリング角、さらにはヨーレート(車の回転挙動)までリアルタイムに解析。1秒間に1000回以上の演算を行い、最適なトルク配分を瞬時に判断します。つまり、ドライバーが感じるより先に車が“何をすべきか”を理解して動くのです。これにより、ドライバーはあたかも自分の反射神経が数倍に拡張されたような感覚を得られます。

また、9速デュアルクラッチ・トランスミッション(DCT)は、変速速度と滑らかさのバランスが絶妙でした。走行モードを「クワイエット」「スポーツ」「スポーツ+」「トラック」から選択でき、モードによってはエンジン音の演出やスロットルレスポンスが劇的に変化します。たとえばクワイエットモードでは電動走行により静かに街を流し、スポーツ+では一転して荒々しい加速を見せる――同じ車なのに、性格がまるで変わるのです。

このように2代目NSXは、機械と人間の関係を“協働”の形で再定義しました。エンジンが情熱を、モーターが理性を担い、その両者が高次元で融合する。これは、ホンダが長年追求してきた「人間中心のテクノロジー」の極致でした。電動化の時代にあっても、「走る歓び」を犠牲にしない。その哲学こそが、NSXという名前に込められた永遠の使命だったのです。

 

初代の哲学を継ぐ――“人が主役”という思想の継承

どれほど技術が進化しても、NSXNSXであり続けるための核心はただ一つ――「人が主役であること」。この哲学は、1990年に初代が誕生したときからホンダが守り続けてきたものです。2代目NSXも、その最先端のハイブリッドシステムや電子制御の奥に、しっかりと“人の感覚”が息づいていました。テクノロジーに頼りすぎず、ドライバーの意志を中心に据えた設計思想。それこそが、他のスーパーカーにはないNSX独自の魅力でした。

開発責任者のテッド・クラウスは、「我々のゴールは、速い車を作ることではない。ドライバーの能力を引き出す車を作ることだ」と語っています。この一言が、2代目NSXの本質を言い表しています。車が勝手に走るのではなく、ドライバーの判断を拡張するように動く。そのために、エンジン、モーター、シャシー、ブレーキすべてが“人との対話”を前提に設計されました。たとえば、電子制御ブレーキシステムは、ペダルを踏み込む圧力に応じて自然に制動力を調整し、違和感を感じさせません。ハイブリッドのトルク制御も、ドライバーがアクセルを開けた瞬間にリニアに反応するよう緻密にチューニングされています。これらの制御は“便利さ”ではなく、“一体感”のための技術なのです。

コクピットのデザインにも、この思想は明確に表れています。シート位置は極端に低く設定され、目線の高さはほぼF1マシン並み。視界を遮るピラーは細く、ダッシュボードはあえてシンプルにまとめられています。メーターやスイッチの配置も、すべてがドライバーの手の動きを中心に設計されていました。その結果、NSXに乗り込むとすぐに「自分の体が車と重なる」ような感覚を得られるのです。これこそがホンダが掲げた“Human-Centered Supercar(人間中心のスーパーカー)”の真髄でした。

また、走行モードを切り替える「インテグレーテッド・ダイナミクス・システム」も、単なる設定変更ではなく、“ドライバーの心理”を理解する装置のように機能します。静かに流したいときはクワイエットモード、集中して走りたいときはスポーツ+、限界に挑みたいときはトラックモード――どのモードでも、車はドライバーの意図を汲み取り、常に自然な挙動を保ちます。電子制御に包まれていながらも、決してドライバーを置き去りにしない。むしろ、技術が“人の延長線上”として機能しているのです。

興味深いのは、ホンダの開発陣がこの車を“デジタルなマシン”ではなく“アナログの魂を持つ車”として語っていることです。たとえばエンジン音のチューニングひとつとっても、人工的に加工せず、吸気音と排気音の自然な共鳴を重視しました。これは初代NSXが持っていた“官能的なフィーリング”を再現するための工夫です。最新技術を積み上げながらも、あえて“人間臭さ”を残す――それがホンダの矜持でした。

2代目NSXは、間違いなくデジタル時代のスーパーカーです。しかしその心は、どこまでも人間的でした。ステアリングを握ると、最新の制御技術の奥に、あの初代NSXと同じ温もりを感じる。時代が変わっても、「人が主役である」という信念は揺るがない。ホンダはその哲学を、金属と電子の融合体に込めて未来へと送り出したのです。
NSXという名は、単なる車名ではなく、“人と機械の理想的な関係”を表す象徴なのです。

 

まとめ

2代目ホンダ・NSXは、単なる復活ではなく、“再定義”の物語でした。初代のようにセンセーショナルなデビューを飾ったわけではありませんが、その中身は、時代の変化と真正面から向き合った結果として生まれた「未来型スーパーカー」そのものでした。燃費規制、環境配慮、電動化という新しい時代の壁を前にしても、ホンダは“走る歓び”という信念を貫き通したのです。それは、ブランドとしてのプライドであり、ホンダのDNAの証でした。

この車に込められたメッセージは、単純明快です。「技術は人を支配するためではなく、人を高めるためにある」。V6ツインターボと3モーターが一体となって生み出す加速は、まるでドライバーの意志がそのまま路面に伝わっていくようです。最新の電子制御を備えながらも、NSXは決して冷たいマシンではありません。アクセルを踏み込んだ瞬間に感じる“生きている感触”が、この車を特別な存在にしています。数字では測れない、人間らしい温かさが宿っているのです。

初代NSXが挑んだのはフェラーリという“外の世界”でした。対して2代目NSXが挑んだのは、「機械と人との関係」という内なるテーマ。つまり、どこまでテクノロジーを進化させても、最後にハンドルを握るのは人間である――という普遍的な問いに対する、ホンダなりの答えでした。その姿勢は、電動化が進む現代の自動車開発においても、いまなお貴重な指針となっています。

生産終了が発表された2022年、世界中のファンが口を揃えて言いました。「ホンダはまた、未来を先取りしていた」と。確かに、当時は過小評価されていたかもしれません。しかし、2代目NSXが示した“ハイブリッド・スーパーカー”という発想は、その後のポルシェ918スパイダーやフェラーリSF90ストラダーレなど、世界のトップブランドが続く道筋を照らしたのです。NSXは再び、時代の一歩先を走っていたのです。

ホンダのスーパーカーは、いつも“理性と情熱”の境界線を歩んでいます。電動化の波が押し寄せる今、次に生まれるであろう“第3世代のNSX”がどんな姿になるのか――それは誰にも分かりません。しかし、どんなに形が変わっても、その心に宿る哲学は変わらないはずです。人を中心に据え、走ることの喜びを忘れない。それがNSXの、そしてホンダの永遠の約束です。