
バンホール・アストロメガ TX27 諸元データ
・販売時期:2007年〜現在
・全長×全幅×全高:13,200mm × 2,550mm × 4,000mm
・ホイールベース:6,700mm
・車両重量:約19,500kg
・ボディタイプ:二階建て大型バス(ダブルデッカー)
・駆動方式:後輪駆動(6×2)
・エンジン型式:DAF MX-13 375
・排気量:12,900cc
・最高出力:510ps(375kW)/1,900rpm
・最大トルク:255kgm(2,500Nm)/1,000〜1,425rpm
・トランスミッション:ZF製12段オートマチック(AS-Tronic)
・サスペンション:前:独立式エアサス / 後:エアサス
・ブレーキ:ディスクブレーキ(電子制御式EBS)
・タイヤサイズ:315/80R22.5
・最高速度:100km/h(欧州法規制上限)
・燃料タンク:600L
・燃費:およそ2.5〜3.0km/L(用途により変動)
・価格:おおよそ40万〜50万ユーロ
・特徴:
1. 高さ4mクラスの堂々とした2階建て構造
2. 最大92人乗車可能な大容量輸送能力
3. 欧州各国で観光・都市間バスとして採用される高信頼モデル
バンホール・アストロメガ。ヨーロッパを旅したことのある人なら、一度は高速道路や国際路線でこの二階建てバスを見かけたことがあるかもしれません。ベルギーの老舗バスメーカー「Van Hool」が生み出したこの巨体は、ただ大きいだけの乗り物ではありません。欧州の長距離移動を快適にするために、効率性、デザイン、安全性のすべてを詰め込んだ一台です。
ヨーロッパでは、長距離バスが日常の交通インフラとして重要な役割を果たしています。列車が通らない地域を結んだり、低コストで国境をまたいで移動したり。そんな多様なニーズに応えるために生まれたのが、アストロメガのような二階建て大型バスです。見上げるような高さ4メートル級の車体に、90人近くの乗客を収容できる広い空間。そしてバンホール独自の設計思想が光る、高い剛性と静粛性。
日本では夜行高速バスとして知られていますが、ヨーロッパでは都市間の昼間路線でも頻繁に使用されており、バス旅が文化として根付く背景には、このアストロメガのような信頼性の高い車両の存在があります。この記事では、そんなヨーロッパ仕様のアストロメガの魅力を、デザイン・運行・技術という3つの視点から掘り下げていきます。
デザインと空間が生む「旅の快適さ」
アストロメガの魅力を語るうえで、まず外観デザインは外せません。高さ4メートルの堂々としたシルエットは、まるで動く建築物のような存在感を放ちます。ベルギーのメーカーらしく、装飾を控えたシンプルで実用的なフォルムですが、曲線と直線のバランスが絶妙で、見る角度によって印象が変わるのが面白いところです。フロントガラスは大型で、左右に広がるパノラマウィンドウは視界を大きく確保し、空気抵抗の低減にも貢献しています。
内部空間もまた、アストロメガの設計思想を象徴しています。1階部分にはトイレや荷物室、乗務員用スペースがあり、長距離運行を想定したレイアウトになっています。2階部分には広い座席配置がなされ、通路も比較的ゆとりがある設計です。二階席から見下ろす風景は、乗客に特別な高揚感を与え、まるで展望列車に乗っているような感覚を味わえます。特にヨーロッパの田園地帯や古城の街並みを眺めながらの旅は、鉄道とは違った自由さと臨場感があります。
さらに、アストロメガのインテリアは「快適な長旅」をテーマに細部までこだわっています。シートは人間工学に基づいた厚めのクッションを採用し、可動式のヘッドレストや読書灯を備える仕様も多く見られます。各席には独立したエアコン吹出口とUSB電源が設けられ、現代の旅行者のニーズにも対応。遮音性にも優れ、長時間の移動でも会話や睡眠を妨げません。
つまり、アストロメガはただ“乗るためのバス”ではなく、“旅そのものを楽しませる空間”。ベルギーの職人気質と、ヨーロッパの旅文化が融合した、動くラウンジのような存在なのです。
欧州の幹線を走り続ける「働くバス」
アストロメガは、ヨーロッパの都市間輸送における“働く主役”ともいえる存在です。観光バスとしての豪華さだけでなく、効率的な大量輸送を求める都市間路線でも活躍しています。ベルギー・ドイツ・オランダ・フランスなど、国境を越えて運行される「ユーロライン」や「フリックスバス」ではおなじみの光景で、長距離移動を担うダブルデッカーとして確固たる地位を築いています。
特にヨーロッパでは、飛行機や鉄道に比べてバスは低コストで柔軟な移動手段として人気があります。例えばベルギーからパリ、アムステルダム、ロンドンへと続く主要幹線では、アストロメガが日夜行き交い、各地の旅行者や通勤客を乗せています。座席数は最大90席を超え、一度に大量の人を運べるため、環境負荷を減らす点でも評価されています。二階建て構造により、同じ道路スペースで2台分の乗客を輸送できるのは大きな利点です。
運転席は最新のデジタルインターフェースを備え、車線維持支援やGPS連動の運行管理システムなどが組み込まれています。長時間走行でもドライバーの負担を軽減するエアサスシート、視認性を高める高位置コクピットなど、まさに「職場」としての完成度も高い仕様です。
また、バンホール独自の高剛性モノコックボディにより、走行安定性も抜群です。高さ4メートルの大型車体ながら、横風にも強く、ヨーロッパの高速道路を安定して走り抜けます。これはバスというより、鉄道車両に近い安心感。過酷な条件下でも耐えうる耐久性を持ち、数十万キロ単位での運行にも耐えるタフさこそ、アストロメガが欧州の幹線道路で愛され続ける理由なのです。
技術と安全性能が支える信頼性
アストロメガの心臓部には、オランダのDAF社が誇るMX-13型ディーゼルエンジンが搭載されています。直列6気筒・12.9リッターのこのエンジンは、最大510馬力を発生し、約20トンもの巨体を軽々と走らせます。低回転域から強力なトルクを発揮し、満席時でもスムーズに加速。高速道路の長い上り坂でも失速せずに一定速度を維持できるその性能は、ヨーロッパの運転手たちから高く評価されています。
さらに、このエンジンは燃焼効率と環境性能にも優れています。ユーロ6規制に適合し、尿素SCRシステムを用いて窒素酸化物を大幅に削減。粒子状物質も最小限に抑え、クリーンディーゼルの代表格といえる存在です。燃費性能も優秀で、長距離運行ではリッター3km近くを実現することもあり、運行コストの低減に貢献しています。
安全性能もまた、アストロメガの大きな強みです。電子制御ブレーキ(EBS)とアンチロックブレーキ(ABS)、車体姿勢を安定させる電子制御サスペンション、車線逸脱警報(LDWS)など、欧州の安全基準に沿った装備を標準化しています。これにより、急ブレーキや横風によるふらつきを最小限に抑え、二階建て特有の重心の高さを感じさせない安定性を実現しています。
また、整備面でもバンホールは独自の信頼性を築いています。モジュール化された設計により部品交換が容易で、ヨーロッパ中の整備ネットワークで対応可能です。日常点検から長期運行まで、コストを抑えながら確実に稼働できる仕組みが整っています。まさにアストロメガは「走る輸送インフラ」として、技術と信頼性を両立した存在なのです。
まとめ
バンホール・アストロメガは、単なる大型バスではなく、ヨーロッパの移動文化を象徴する存在です。二階建てという構造を最大限に活かし、視界の広さと輸送効率、そして乗り心地を絶妙なバランスで両立しています。ベルギー発の実直な工業デザインに、長距離を快適に移動するための哲学が詰まっているのです。
また、ヨーロッパ各国を結ぶ国際路線で長年使われてきた実績は、信頼性の証そのものです。観光地を巡るツアーバスとしても、都市間を走る実用車としても、その万能さは他に類を見ません。バスというと地味な存在に見えがちですが、アストロメガはそれを超えた「旅の体験」を提供してくれる乗り物です。
もしヨーロッパの街でこの巨体を見かけたなら、ぜひ目を止めてみてください。その堂々とした姿には、効率と優雅さを両立するヨーロッパの技術と文化が凝縮されています。アストロメガは、まさに“走るベルギーの工芸品”です。