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ホンダ・トゥディ(初代):可愛くて走れる、ホンダの意欲作だった軽自動車

ホンダ・トゥディ(G型、2WD MT)諸元データ

・販売時期:1985年9月〜1993年1月
・全長×全幅×全高:3195mm × 1395mm × 1330mm
ホイールベース:2330mm
・車両重量:570kg
・ボディタイプ:3ドアハッチバック
・駆動方式:FF(前輪駆動)
・エンジン型式:EH
・排気量:545cc
・最高出力:31ps(23kW)/ 6500rpm
・最大トルク:4.2kgm(41Nm)/ 5000rpm
トランスミッション:4速MT(後に5速MTも)
・サスペンション:前:マクファーソンストラット / 後:リジッドアクスル
・ブレーキ:前:ディスク / 後:ドラム
・タイヤサイズ:145SR12
・最高速度:不明(約115〜120km/h程度と推定)
・燃料タンク:28L
・燃費(60km/h定地走行モード):約30km/L
・価格:約49.9万円〜(発売当初)
・特徴:
 - 軽自動車初の量産型4ストロークエンジンを採用
 - 女性を意識した丸く柔らかいデザイン
 - 軽量ボディと高回転型エンジンで軽快な走行性能

街にも暮らしにもなじむ、軽の新しいかたち

1980年代中盤、日本の軽自動車は「働く車」から「暮らしのパートナー」へと変化しつつありました。そんな時代の空気の中で登場したのが、ホンダ・トゥディ。1985年に誕生したこの小さなクルマは、軽自動車の新しい可能性を探る存在でした。とにかく丸くてやさしい見た目が印象的で、当時の若い女性たちを中心に「かわいい!」と人気を集めました。

しかし、このクルマの面白いところは、外見のかわいらしさの裏に隠されたホンダらしい“走りへのこだわり”にあります。なんと、当時まだ少数派だった4ストロークエンジンを採用し、軽自動車ながら高回転型のエンジンフィールを味わえる仕様だったんです。「見た目はおっとり、中身はしっかり」な二面性が、トゥディの魅力でもありました。

さらに、トゥディは単なる実用車として終わることなく、後に“ポシェット”というおしゃれグレードや、ミッドシップ案まで飛び出すなど、意外なほどチャレンジングなモデルでもありました。今回はそんな初代トゥディの魅力を、3つの視点から振り返ってみたいと思います。

軽でも高回転型?ホンダらしさが詰まったエンジン設計

初代トゥディの最大の個性は、なんといってもその心臓部であるエンジンにありました。当時、軽自動車の多くは2ストロークエンジンを搭載しており、低コスト・軽量・整備のしやすさでメリットがあった反面、排ガスや騒音の問題も抱えていました。そこに、ホンダはあえて「4ストローク」のエンジンで挑んだのです。

このエンジン、たかが軽と侮ることなかれ。ホンダのバイク技術をベースにしており、当時としては驚きの6500rpmで最大出力を発揮する高回転型ユニットでした。音のキレも良く、軽い車体との相性も抜群。アクセルを踏み込めば、元気よくスムーズに回ってくれるこのエンジンは、軽自動車にも“走りの楽しさ”があることを教えてくれました。

しかもミッションも4速MTから後に5速MTまで用意され、ちょっとした峠道ならスポーツカー気分で走れてしまうほど。足回りも比較的しっかりしており、当時の軽の中では異例ともいえる「ドライバーズカー」な一面がありました。経済性やコンパクトさといった軽自動車の常識に、ホンダは「楽しさ」を上乗せしたのです。

「かわいい」を前面に出した戦略が大当たり

軽自動車といえば、当時はまだ「働くクルマ」や「営業車」というイメージが強く、いわゆる“かわいい”という感覚とはあまり結びついていませんでした。そんな中で登場した初代トゥディは、やわらかい丸目のヘッドライト、ふっくらしたボディライン、そしてシンプルで親しみやすいインテリアなど、どこかぬいぐるみのような優しさを感じさせるデザインが光っていました。

ホンダはこの魅力を活かすべく、当初から若い女性ユーザーを強く意識した広告展開を行います。雑誌やテレビCMでは「ちょっとおしゃれでかわいい自分にぴったりのクルマ」として、都会の生活に寄り添うアイテムのような存在としてトゥディを打ち出しました。

当時の広告では、ナチュラルなライフスタイルを送る女性や、カフェの前に停められたトゥディなど、まさに“生活に溶け込む軽”としての魅力が前面に。これまでの軽自動車とは一線を画すそのアプローチは、新しい層の心をしっかり掴みました。結果として、男性ユーザーだけでなく、多くの女性ドライバーがトゥディを選ぶようになったのです。

スポーティな「ポシェット」と幻のミッドシップ

かわいいだけじゃない、それが初代トゥディの奥深さです。実はこのクルマ、後半になるにつれてスポーティな方向にも進化を見せていきました。その象徴ともいえるのが、1988年に追加された**「トゥディ・ポシェット」**というグレード。フロントグリルレスのシャープな顔つきや、ボディ同色バンパーなど、見た目にもちょっと背伸びした印象が加わりました。

また、ホンダのエンジニアたちは、このコンパクトな車体にミッドシップ(MR)レイアウトのスポーツカーをつくれないかという研究も行っていたと言われています。これは最終的に市販化されませんでしたが、その技術的蓄積は後の「ビート」へとつながったという説もあり、ホンダの軽スポーツ路線の原点とも言える存在なのかもしれません。

さらに、後期型には3気筒550ccから660ccへの排気量拡大も行われ、より実用的なパワーアップも施されました。これにより、高速道路でも余裕のある走りができるようになり、日常使いだけでなく小旅行にも対応可能な軽としての進化を遂げていきました。

初代トゥディは、単なる街乗り車にとどまらず、その可能性を広げようとするホンダの試みの結晶でもあったのです。

まとめ

1985年に登場した初代ホンダ・トゥディは、「軽自動車=実用一辺倒」という常識に風穴を開けた存在でした。かわいらしいデザインで女性の心をつかみつつも、中身はしっかりホンダ流。高回転型の4ストロークエンジンに軽快な走行性能、そして後期にはスポーツグレードの展開まで用意されるという、“軽なのにここまでやるのか!”という意欲作だったのです。

その背景には、常に新しい提案をしてきたホンダの姿勢があります。小さくても、楽しくて、個性的で、人の暮らしに寄り添える。そんな理想がトゥディにはぎゅっと詰まっていました。令和の今見ても、トゥディの丸くて優しいスタイルはどこかホッとするものがありますね。街の中でふと見かけたら、思わず「おっ、いいセンス」と声をかけたくなるような、そんな愛される1台です。