
フィアット・トロ フリーダム 2.0 16V ディーゼル 4WD(2016年モデル)諸元データ
・販売時期:2016年〜
・全長×全幅×全高:4915mm × 1844mm × 1735mm
・ホイールベース:2990mm
・車両重量:約1875kg
・ボディタイプ:ダブルキャブ・ピックアップトラック
・駆動方式:4WD(電子制御AWD)
・エンジン型式:Multijet II
・排気量:1956cc(2.0L直列4気筒ターボディーゼル)
・最高出力:170ps(125kW)/ 3750rpm
・最大トルク:35.7kgm(350Nm)/ 1750rpm
・トランスミッション:9速AT
・サスペンション:前:ストラット / 後:マルチリンク
・ブレーキ:前:ベンチレーテッドディスク / 後:ディスク
・タイヤサイズ:225/65R17
・最高速度:約190km/h
・燃料タンク:60L
・燃費(ブラジル国内基準):約11km/L前後(ディーゼル)
・価格:当時約10万レアル(日本円換算:約300万円前後)
・特徴:
- SUVとピックアップの中間的存在
- ジープ・レネゲードと共通プラットフォーム
- 南米市場でヒットした都市型トラック
ピックアップトラックというと、無骨でゴツい“働くクルマ”というイメージが強いかもしれません。トヨタ・ハイラックスやフォード・レンジャーのように、頑丈でタフで、泥だらけの現場にも似合うような存在。けれど2016年、そんな固定観念をサラリと裏切る一台がブラジルから登場しました。それが「フィアット・トロ(Toro)」です。
一見するとクロスオーバーSUVのような顔つき。けれどリアにはしっかり荷台を備えたダブルキャブのピックアップ。そのバランス感覚が見事で、「これは仕事にも使えるけど、普段乗りにも良さそう」と多くの人の心をつかんだのです。さらにベースはジープ・レネゲードと同じモノコック構造。つまり走りはあくまで“乗用車的”で快適そのものでした。
そんなフィアット・トロは、南米市場を中心に驚くほどのヒットを記録します。ハードすぎない、でも本格的すぎない、“ちょうどいいトラック”。この記事では、そんなトロの魅力と背景、そして成功の秘密をじっくりとひもといていきます。

街乗り感覚で使えるピックアップトラックという新提案
2016年に登場したフィアット・トロは、当時のブラジル市場でちょっとした驚きをもって迎えられました。というのも、見た目はSUV風でありながら、リアにはしっかり荷台がある。けれど、フレーム付きのゴリゴリしたトラックではなく、ベースはモノコックボディ。つまり、乗用車のような快適性とピックアップトラックの実用性を両立させたモデルだったのです。
当時の南米では、ラフな舗装や悪路でも使える4WD車が必要とされる一方で、都市部では取り回しのしやすさや乗り心地も重視されていました。トロは、まさにその中間を突いた存在で、ジープ・レネゲードと同じプラットフォームを使って、運転のしやすさと荷物を運ぶ力を両立していたのです。
日常の買い物から休日のアウトドア、さらには農業や現場での仕事にも使えるこのスタイル。日本で言うと、スバル・サンバーとトヨタ・ハイラックスの“あいだ”くらいの立ち位置でしょうか。今までになかった新しいジャンルの車が登場した感覚でした。

クライスラーグループの力を借りた国際共同プロジェクト
フィアット・トロは、単独で開発されたモデルではありません。その背景には、当時のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)という企業グループの存在があります。FCAは、ジープやダッジ、クライスラーといったアメリカブランドと、フィアットやアルファロメオなどのイタリアブランドが一緒になった企業体でした。
トロは、ジープ・レネゲードやコンパスと同じ「スモール・ワイド4×4アーキテクチャ」を使用しています。このプラットフォームは、乗用車的なドライビングフィールと悪路走破性のバランスをうまく取った構造で、都会でも未舗装路でも気持ちよく走れるという特徴があります。
また、2.0Lのディーゼルエンジンや9速ATといったメカニズムも、ジープブランドと共通する部分が多く、結果として信頼性や整備性にも優れたモデルになりました。ある意味では、アメリカとイタリアの技術が融合して生まれた“ラテンアメリカのための世界戦略車”と言ってもいいかもしれません。
なぜトロは南米で成功したのか?その秘密に迫る
フィアット・トロが爆発的にヒットした背景には、ブラジル人のライフスタイルの変化が大きく影響しています。かつてはハードな農業や商用利用に向いたフレーム付きのピックアップが主流でしたが、都市化が進むにつれて、「もうちょっとオシャレで、快適で、それでいて荷物も運べる車」が求められるようになってきたのです。
そこに現れたのが、トロでした。フロントマスクはフィアットらしいモダンなデザインで、内装も乗用車のように上質。タッチパネルのインフォテインメントシステムやスマホ連携、シートヒーターまで装備されており、「ピックアップ=無骨で地味」というイメージを一気に変えてしまったのです。
加えて、ダブルキャブ仕様による5人乗りの快適な空間、そして4WDや牽引能力の高さも兼ね備えていたため、「通勤も遊びもこれ1台でOK」という“ちょうどいい感”がヒットにつながりました。フィアットというブランドの信頼感もあり、ブラジルでは警察車両や行政用車両としても導入されるほどでした。
まとめ
フィアット・トロは、ただのピックアップではありません。SUVの快適さとトラックの実用性を兼ね備えた、新しいカテゴリーの車として南米市場で成功を収めたモデルです。その背景には、フィアットとクライスラーの技術協力、そしてブラジルの人々の暮らしにマッチした設計思想がありました。
ジープ・レネゲードと同じく、世界戦略車として設計されながら、しっかり“ローカルニーズ”を捉えた車づくりがされていたことが、この成功の大きな要因です。もし日本にも導入されていたら、アウトドアやDIYが好きな人にとって魅力的な選択肢になっていたかもしれませんね。