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ダッジ・ラム(初代):無骨さが魅力!アメリカン・ピックアップの原点

ダッジ・ラム 150(1985年式 レギュラーキャブ 2WD)諸元データ

・販売時期:1981年~1993年
・全長×全幅×全高:5156mm × 2027mm × 1803mm
ホイールベース:2921mm
・車両重量:約1740kg
・ボディタイプ:フルサイズ・ピックアップトラック
・駆動方式:FR(後輪駆動)
・エンジン型式:318 cu in LA V8(5.2L OHV)
・排気量:5211cc
・最高出力:約140ps(104kW)/ 4000rpm
・最大トルク:約32.6kgm(320Nm)/ 2000rpm
トランスミッション:3速AT / 4速MT(年式・仕様により異なる)
・サスペンション:前:ダブルウィッシュボーン / 後:リーフリジッド
・ブレーキ:前:ディスク / 後:ドラム
・タイヤサイズ:225/75 R15
・最高速度:約150km/h(V8搭載時・参考値)
・燃料タンク:100L前後(2タンク仕様も選択可)
・燃費(EPA換算・市街地):約5.5km/L前後
・価格:約8,000〜13,000ドル(新車当時・グレードにより変動)
・特徴:
 - 無骨でクラシックな縦型グリルと“RAM”バッジ
 - 高い整備性と耐久性
 - 多用途に対応する豊富な仕様展開

 

1980年代に登場したアメリカのフルサイズピックアップトラックといえば、いまの感覚だと「巨大」「燃費悪い」「無骨すぎる」といったイメージを持つ人もいるかもしれません。でも、そんなステレオタイプをものともせず、働く人々の相棒として愛されたのが、今回紹介する初代ダッジ・ラムです。1981年にそれまでの「Dシリーズ」から名称を変更し、力強さの象徴である“雄羊(ラム)”の名を冠してデビュー。ライバルたちが曲線的なボディへ移行していくなか、角張ったボクシーなデザインを貫いた姿勢は、ある意味でアメリカン・スピリットの体現でもありました。

もちろんこのトラック、見た目の迫力だけではありません。多彩なボディバリエーションと頑丈なシャシー設計で、農業現場から都市部の配送業務、果ては州警察のパトロールカーにまで使われていたというタフさがウリ。しかも、ダッジらしい個性もきっちり備わっているというから面白いんです。

今回はそんな初代ラムの魅力を、名前の由来から、働くトラックとしての実力、そして時代に逆行するような武骨さが逆に光ったスタイリングまで、3つの視点から掘り下げてみたいと思います。

 

「雄羊(ラム)」の名に恥じない!初代ラム誕生と名前の由来

1981年、クライスラー傘下のダッジブランドが放った新たなフルサイズピックアップ、それが「ダッジ・ラム」でした。それまでのダッジDシリーズをベースにしながらも、大きな変化を遂げたのはそのネーミングとアイコンです。新しい名称「ラム(Ram)」は、英語で雄羊のこと。力強く岩をも砕く勢いのあるその動物の名を、まさにアメリカの働くクルマにふさわしい象徴として採用したわけです。

このネーミングと同時に、初代ラムではフロントグリル中央に立派な“ラムズヘッド”バッジが設置されました。このマスコットはもともと1930年代のダッジ車に使われていた伝統あるモチーフで、それをこのタイミングで復活させたのも話題になりました。あの特徴的な縦型グリルと相まって、まるで獲物に突進するかのような迫力がありました。

また、ネーミング戦略にはクライスラーの販売促進の思惑もありました。当時のアメリカではフォードFシリーズやシボレーC/Kが市場を席巻しており、Dシリーズのままでは埋もれてしまう危機感があったのです。「ラム」という覚えやすく力強い名前に変えることで、ユーザーの印象に残りやすくしようという狙いがありました。その意図は見事に的中し、のちのダッジトラックの代名詞として「ラム」は定着していきました。

 

現場を支えた働き者、バリエーション豊富なラインナップ

初代ダッジ・ラムの魅力を語るうえで外せないのが、その圧倒的なバリエーションの豊富さです。ボディ形状ひとつ取っても、レギュラーキャブ、クラブキャブ(エクステンドキャブ)、さらにはロングベッドやショートベッドの選択肢まで用意されており、ユーザーの用途に応じて細かく対応できる柔軟さがありました。駆動方式もFR(後輪駆動)と4WDを設定し、都市の配送業務から農場や建設現場、果ては雪国の林業まで、あらゆるシーンで活躍できる懐の深さが評価されていました。

エンジンも実に多彩で、3.7L直6、5.2Lや5.9LのV8、さらには6.6Lや7.2LのビッグブロックV8まで用意。しかも1989年からは、名機カミンズ製の5.9L直列6気筒ターボディーゼルエンジンが登場し、低回転からトルクフルな走りと高い耐久性で「ディーゼルならダッジ」と言わしめる存在になっていきました。このエンジンは特に重積載やトレーラー牽引のプロユースに重宝され、今でも“カミンズラム”として根強い人気があります。

さらに特筆すべきは、警察や消防、公共事業用のフリート車両としても広く採用されていたこと。これは信頼性が高かった証拠でもあります。商業車や業務車として、まさに「アメリカを支えるインフラの一部」として機能していたのです。派手さはないけれど、頼れる。そんな言葉がぴったりなトラックでした。

 

ダッジらしさを守った最後のクラシックピックアップ

1980年代から90年代初頭にかけて、アメリカのフルサイズピックアップ市場は大きく変化していきました。フォードやシボレーは空力性能や快適性を重視した流線型デザインを次々に導入し、インテリアも乗用車的な装備へと進化していきます。そんな中にあって、初代ダッジ・ラムは頑固なまでに「昔ながらのトラック像」を貫いた存在でした。

たとえば角張ったボディラインや、直立した縦型グリル、金属的な質感を残したダッシュボードなどは、もはや時代に逆行しているかのような印象すらありました。でも、そこが逆に魅力的だったんです。近代化の波に飲み込まれない、“使い倒せる道具感”。それがダッジ・ラムの芯にある価値でした。特に農場主や独立系トラックオーナーたちにとっては、洗練よりも頑丈さ、装飾よりも整備性が重視されていた時代。そんなニーズに真正面から応えてくれたのがこのトラックでした。

実際、後継となる2代目ラム(1994年〜)は劇的にデザインが刷新され、まるでセミトラックのような流線的かつ力強い外観に進化していきます。その大胆な変化に感動した人がいる一方で、「あの無骨な初代が好きだった」と懐かしむ声も少なくありません。クラシックな道具としての魅力を備えた、最後の“質実剛健ピックアップ”こそが、初代ダッジ・ラムの真骨頂だったのです。

 

まとめ

初代ダッジ・ラムは、ただの古いピックアップではありません。名前に込められた“雄羊”のような力強さ、無骨で信頼感のあるスタイリング、そしてあらゆる現場に対応できる柔軟性を備えた、アメリカらしさの詰まった一台でした。時代が乗用車ライクな快適性へと進む中でも、自らのスタイルを崩さずに「働くためのトラック」として地に足をつけた存在感は、むしろ今になって評価される部分かもしれません。

当時のユーザーにとっては、これが生活の道具であり、相棒であり、信頼できるパートナーでした。いまでもレストアして大切に乗り続けるオーナーが多いのも、そういった“生き様”に共感するからでしょう。最新のピックアップがどれだけ豪華になっても、この初代ラムが持つ素朴でタフな魅力には敵わない。そんな声が聞こえてきそうです。

頑丈で実直、どこか懐かしさを感じさせるこのトラックは、単なる移動手段ではなく、アメリカの歴史と文化を映す一枚の鏡のような存在だったのかもしれません。