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サターン・SC2:観音開きドアとポリマー外装が光る“異才クーペ”

1990年代、アメリカの自動車業界は大胆な変革期を迎えていました。そんな中で登場したのが、GMの新ブランド「サターン」。大手メーカーでありながら「既存の枠にとらわれない車作り」を掲げたサターンは、販売方法から技術まで、とにかく“型破り”なアプローチを貫きました。中でも「SC2」と名付けられた2ドアクーペは、見た目のスマートさだけでなく、中身もアイデア満載のユニークな存在でした。

特に2代目SC2(1997年〜2002年)は、その完成度と個性の両立が際立っていたモデルです。右側だけに用意された「観音開きの3枚目のドア」、ボディには金属ではなく「ポリマー製の樹脂パネル」、さらにはディーラーで値引き交渉のいらない「定価販売方式」など、どこをとっても常識破り。日本では馴染みの薄いブランドではありますが、実はこのSC2、知れば知るほど「アメリカ車の異色作」として記憶に残る1台なのです。

今回はそんな2代目サターン・SC2の魅力に迫っていきます。見た目のスタイリッシュさの裏にある、アイデアと哲学をじっくり見ていきましょう。

 

観音開きドアの衝撃!3ドアクーペという新発想

サターン・SC2の2代目モデルが登場した1997年、アメリカ市場で最も話題になったのは、そのドア構造でした。一見すると普通の2ドアクーペ。しかし運転席側とは反対の右側だけにもう1枚、小さな観音開きのドアが付いているんです。このユニークなドア配置は、実は当時のクーペとしてはかなり革新的なものでした。

通常、クーペというと2ドアでスポーティな見た目と引き換えに、後席のアクセスが犠牲になるのが常識。しかしサターンは、その常識に「ちょっと便利」を加えました。助手席側のドアを開けると、そこに現れる観音開きのサードドア。前側のドアが開いていないと使えない構造ではありましたが、後席に荷物を積んだり、子どもや友人を乗せたりする場面では、想像以上に重宝する設計でした。

この発想、実はミニトラックなどで使われていたドア方式をクーペに応用したもので、実用性とデザイン性の両立を狙ったものでした。サターンの開発チームは、「使い勝手のいいクーペを作ろう」という意志を徹底して具現化し、この斬新な構造を実現させたのです。もちろん、左右対称ではない外観に違和感を持つ声もありましたが、それ以上に「クーペでも便利さをあきらめない」という新しい価値観を提示してくれました。

今でこそ観音開きのドアを持つ車は他にも存在しますが、この当時、しかもコンパクトクーペでの採用は非常に珍しいものでした。実際、この構造が話題を呼び、SC2は若年層だけでなくファミリー層にも一定の支持を受けるようになります。まさに、実用性と遊び心を融合させたアイデア勝ちの一台だったと言えるでしょう。

 

サターン流・リテール革命とSC2の関係

サターンというブランドは、単なるクルマの名前ではなく、「販売のしかた」そのものにも革新をもたらした存在でした。その象徴とも言えるのが、“ノーハグル(No-Haggle)”と呼ばれる販売方式です。これは簡単に言えば「値引き交渉を廃止して、誰でも同じ価格で買える」という仕組み。クルマ選びにおいて面倒だった交渉ごとをゼロにし、透明性のある価格設定でユーザーの信頼を勝ち取ろうというアメリカ流の顧客第一主義が貫かれていました。

2代目SC2も、もちろんこのポリシーのもとに販売されていました。カタログに記載された価格はディーラーでもそのまま、価格差での不満も出にくく、営業マンとの心理戦も不要というスタイルは、とくに若い世代や女性ユーザーから高く評価されました。ある意味で“気軽に買えるクーペ”というSC2のキャラクターにもぴったりだったのです。

さらにサターンの販売網は、通常のGM系列とは異なる専売ディーラー網を持ち、スタッフの教育にも力を入れていました。納車の際にはオーナーに花束を渡したり、定期点検の予約が丁寧だったりと、ディーラー体験そのものを重視した運営方針が徹底されていたのです。SC2は、そのような「おもてなし」の哲学のもとで扱われたクルマであり、車両としてのスペック以上に、所有する満足感を大切にしていたとも言えるでしょう。

このような販売スタイルは、当時の北米市場では極めて珍しく、それこそがサターンの個性であり、SC2のような個性派モデルを成立させる土台となっていたのです。単なる安価なクーペではなく、ブランドとの信頼関係を築ける存在としての魅力――それがSC2の真骨頂でした。

 

ポリマー製ボディパネルとサターンの個性

サターン・SC2のもうひとつの大きな特徴が、金属ではなく「ポリマー(樹脂)」でできた外板パネルを採用していたことです。これ、実は見た目にはあまり気づかれないかもしれませんが、触ってみると明らかに違います。軽く、しなやかで、そして何よりも「ヘコみにくい」。これは当時としてはかなり先進的なボディ構造でした。

SC2のボディはスチール製のフレームに、このポリマーパネルを取り付ける構造になっており、ドアやフェンダーなどがまるごと樹脂製。これによって駐車場などでのドアパンチによる凹みや、軽い衝突でのダメージが抑えられるという実用的なメリットがありました。さらに、樹脂は錆びにくいため、塗装の劣化や腐食にも強いという利点もあったのです。

この構造はサターン全車共通の設計思想として導入されており、ブランド全体の個性にもなっていました。SC2ではその恩恵を最もスタイリッシュに受けており、クーペらしい流麗なラインを保ちながら、軽量化と耐久性を同時に実現していたのです。実際、車重は当時の同クラスのクーペと比較しても軽めで、燃費や運動性能にも好影響を与えていました。

もちろん、この樹脂パネルには課題もありました。製造コストが高く、修理時には金属パネルより手間がかかること、そして長期使用での色褪せ問題などです。しかしそれでも、この“しなやかな鎧”のようなボディ構造は、サターンが「一味違うブランド」であることをはっきりと示していました。

つまりSC2は、見た目のかっこよさだけでなく、使いやすさと長持ちする工夫が込められたクルマだったのです。ポリマーという素材にこだわったことも、サターン流の「ユーザー視点のクルマ作り」の一環だったといえるでしょう。

 

まとめ

2代目サターン・SC2は、アメリカ車としては異例づくしの挑戦的なモデルでした。まず目を引くのが、右側だけに備わった観音開きの3枚目のドア。実用性とデザイン性を両立させたこのアイデアは、単なる奇をてらったものではなく、日常の使い勝手に配慮したものでした。そして、それを支えるのがサターン独自の販売哲学。値引き交渉なし、フレンドリーな接客、ユーザーとの信頼関係を大切にするというスタイルは、今見ても非常に新鮮です。

さらに、軽くて錆びにくいポリマー製ボディパネルも、SC2の隠れたハイライト。一般的なスチール製とは違い、駐車場での小キズや凹みに強く、見た目だけでなく長く使ってこそ価値を感じられる構造でした。これはまさに、「売りやすさ」より「使いやすさ」を優先した結果でしょう。

サターン・SC2は、決して爆発的なヒットモデルではありませんでしたが、だからこそ今振り返ると強烈な個性が光る存在です。便利でちょっと変わっていて、それでいてユーザーに優しい。そんなクルマが生まれた背景には、サターンというブランドが持っていた理想と、時代の風を読み取った柔軟な発想があったのです。今なお中古車市場で根強いファンがいるのも、うなずける話です。