蔚来 EP9 諸元データ
・販売時期:2016年発表(限定生産)
・全長×全幅×全高:4,885mm × 2,000mm × 1,150mm
・ホイールベース:3,100mm
・車両重量:約1,735kg
・ボディタイプ:2ドア・クーペ
・駆動方式:AWD(4輪独立モーター)
・エンジン型式:電動モーター(インホイールモーター)
・最高出力:1,360ps(1,000kW)
・最大トルク:不明(4輪独立制御のため非公表)
・トランスミッション:シングルギア×4(各輪専用)
・サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
・ブレーキ:カーボンセラミック
・タイヤサイズ:前後共に特注仕様
・最高速度:313km/h以上
・燃料タンク:-(バッテリー式EV)
・航続距離:約427km(メーカー公称値)
・価格:約1,200万元(約2億円超)
・特徴:
- ニュルブルクリンクで電動車最速記録を達成
- 各輪独立モーター制御とアクティブ空力装備
- 限定生産、主に投資家に向けた特注モデル
電気自動車と聞いて、環境志向や静かな走りをイメージする方も多いのではないでしょうか?しかし、それだけでは終わらないのが中国の新興メーカー「蔚来(NIO)」の真骨頂。彼らが2016年に世界へ突きつけたのは、スーパーカーの常識を塗り替える一台、「EP9」でした。
「Electric Performance 9」の名の通り、EP9はサーキット走行のために開発された電動ハイパーカー。しかもその目標は単なる速さではなく、“記録破り”です。ニュルブルクリンク北コースにて打ち立てたラップタイムは、当時の量産EVとしては世界最速。世界中のモータースポーツファンに衝撃を与えました。
それだけではありません。一台一台が注文生産され、購入者はごく限られた人物のみ。中には中国の巨大IT企業の創業者など、蔚来を支援する投資家たちも名を連ねていたのです。まるで秘密結社のようにして届けられたこのマシンには、どんな魔法が詰まっていたのでしょうか?
今回はこの電動超級車、蔚来・EP9の核心に迫っていきます。
ニュルブルクリンクで証明した“世界一速いEV”
電気自動車というと、従来はエコカーのイメージが先行していた時代に、蔚来が放った一撃。それが、2017年に記録したニュルブルクリンク北コースでの7分05秒というラップタイムです。当時の電動車両としては最速、しかもガソリン車のスーパーカーにも迫る勢いで、世界のメディアに衝撃を与えました。
この記録の背景には、風洞実験を重ねたアクティブエアロダイナミクスや、各輪に独立して配置されたモーターの緻密な制御があります。単なるパワーの押し売りではなく、路面や走行状況に応じて、四輪すべての駆動力を最適にコントロールできるのがEP9の強み。その結果、曲がる、止まる、加速するという三拍子が極めて高い次元で成立しているのです。
サーキット走行に特化したとはいえ、その実力は量産型スポーツカーの世界でも一目置かれる存在。EP9のニュル記録は、中国車という枠を越え、世界の電動車に対する見方を根本から変えた出来事だったのではないでしょうか。
空力と駆動の極み:科学が生んだ“走る実験室”
EP9が注目された理由は、その圧倒的なパフォーマンスだけではありません。その“設計思想”自体が、まさに異次元。例えば車体には航空宇宙分野でも使われるカーボンファイバー素材を採用し、軽量ながら超高剛性な構造を実現。さらに前後に可動式のウイングを装備し、走行状況に応じて最大24,000ニュートンものダウンフォースを発生させます。これはF1マシンにも匹敵する空力性能です。
さらに特筆すべきは、1輪ごとにモーターとトランスミッションを内蔵する「四輪独立駆動」システム。それぞれのモーターが瞬時に出力調整を行い、コーナー進入時の荷重移動やトラクション制御まで最適化。ドライバーの操作と一体化するようなフィーリングを実現します。
このような先進技術は、単なる展示用の夢物語ではなく、実際にサーキットで試験され、実走に耐えるスペックとして仕上げられているのがEP9のすごさです。まさに「走る実験室」として、電動ハイパーカーの未来を切り拓く存在と言えるでしょう。
限定生産と特別な顧客たち:EP9の“もうひとつの顔”
EP9は、最初の6台が蔚来に出資していた投資家向けに制作された、いわば「御用達モデル」でした。一般販売向けにも最大で80台まで生産されたとされていますが、その価格は1台約1,200万元。日本円にして2億円を超えることもあるその価格帯は、ラ・フェラーリやアストンマーティン・ヴァルキリーにも匹敵します。
さらに驚くべきは、その販売スタイル。EP9はナンバー取得ができないサーキット専用モデルであり、登録や通勤に使えるわけではありません。にもかかわらず、予約購入者の多くはビジネス界の大物たち。なかには中国の大手IT企業の創業者や、ベンチャーキャピタルの幹部なども名を連ねていたとか。つまり、彼らにとってこのマシンは投資対象であり、ブランド力の象徴だったのです。
それでもEP9は、ただの“超高級おもちゃ”では終わらなかった。蔚来はこのマシンで得た技術や知見を、自社の量産EVにも徐々に還元しています。EP9は、未来のEV開発にとっての試金石であり、蔚来というブランドの原点を示す特別な存在なのです。
まとめ
蔚来・EP9は、単なる高性能EVの枠を超えた、未来志向の“挑戦”そのものでした。世界最速に挑む姿勢、先進技術の集約、そして市場投入までのユニークなアプローチ。これらすべてが合わさって、EP9は単なるスーパーカーではなく、「電動車の未来像」として自動車業界に新しい価値を突きつけた存在です。
現在でもその姿はモーターショーや企業のプロモーション映像でしか目にできませんが、EP9の意志は確実に生き続けています。今後、蔚来が市販モデルでどのようにEP9のDNAを展開していくのか、目が離せません。EVの未来を切り拓いた“あの青い閃光”が、次にどんな奇跡を起こすのか楽しみです。