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オートザム・AZ-1 :軽の限界を超えた小さなスーパーカー

オートザムAZ-1(標準モデル)諸元データ

・販売時期:1992年10月~1995年10月
・全長×全幅×全高:3295mm × 1395mm × 1150mm
ホイールベース:2235mm
・車両重量:720kg
・ボディタイプ:2ドアクーペ(軽自動車)
・駆動方式:MR(ミッドシップ・リア駆動)
・エンジン型式:F6A型(スズキ製)
・排気量:657cc
・最高出力:64ps(47kW)/ 6500rpm
・最大トルク:8.7kgm(85Nm)/ 4000rpm
トランスミッション:5速MT
・サスペンション:前:ストラット / 後:ストラット
・ブレーキ:前後ともディスク
・タイヤサイズ:165/60R13(前後共通)
・最高速度:約140km/h(公称値)
・燃料タンク:30L
・燃費(10・15モード):約16.4km/L
・価格:1,498,000円(1992年発売時)
・特徴:

 

1990年代初頭、日本の自動車業界がバブルの熱狂に包まれていた時代。そんな中、突如として現れたのがオートザムAZ-1です。軽自動車でありながらミッドシップレイアウト、さらにはガルウイングドアを備えたこのクルマは、まさに「夢」を具現化した存在でした。AZ-1はスズキとマツダが手を組み、技術と遊び心を全開にして生み出した結果です。しかし、その登場は決して順風満帆ではなく、市場環境の変化や価格設定の難しさなど、いくつもの壁に直面していました。

それでもAZ-1は、自動車好きの間で今も語り継がれるほどのインパクトを残しています。独特のデザインと走りの楽しさ、小さなボディに詰め込まれた大きな野心。まさに“スーパーカーごっこ”ができる唯一無二の存在でした。今回はそんなAZ-1の開発の裏話から、その特異なスタイルと性能、そして現在の中古車市場での評価までをたっぷりと掘り下げていきます。「軽自動車って、こんなに自由でいいの?」と誰もが思ってしまう、AZ-1という異端児の魅力を、今一度見つめ直してみましょう。

 

バブル期の夢の結晶:スズキとマツダが手を組んだ軽ミッドシップスポーツ

オートザムAZ-1の誕生は、1980年代末のバブル景気という、まさに日本自動車界の“お祭り”の最中でした。各メーカーが個性的で尖ったモデルを次々に世に送り出していた中、軽自動車の世界でも新たな風が吹いていました。スズキが1985年に発表した「RS/1」および「RS/3」というスポーツカーコンセプトは、その流れの象徴ともいえる存在で、これがのちのAZ-1の原型となったのです。

しかし、スズキはこのプロジェクトを途中で断念します。理由はコストと販売戦略の問題でした。そこで白羽の矢が立ったのが、軽自動車の販売網を拡大したいと考えていたマツダです。マツダは当時、新しい販売チャネル「オートザム」を立ち上げたばかり。若者向けに面白いクルマを投入したいと考えていた彼らにとって、AZ-1は理想的な商品に映ったのです。スズキはエンジンやシャシーなどの技術供給を行い、マツダはそれをAZ-1として世に送り出すという、メーカーを超えたコラボレーションが実現しました。

こうして1992年、ようやくAZ-1は市販化されます。とはいえ、そこに至るまでには度重なる仕様変更や法規対応、コスト見直しなど、多くの課題を乗り越える必要がありました。特に注目すべきは、AZ-1があくまで「軽自動車規格」の中で設計されていたこと。全長・全幅・排気量に厳しい制限がある中で、ミッドシップレイアウトという“変化球”を採用し、しかもガルウイングドアという贅沢なギミックまで詰め込んだAZ-1は、まさに設計陣の執念と遊び心の結晶と言えるでしょう。

 

軽自動車の常識を超えた!ガルウイングドアとミッドシップエンジンの衝撃

AZ-1が人々の記憶に鮮烈に残る最大の理由、それはやはりその唯一無二のスタイルにあります。まず目を引くのが、軽自動車としては前代未聞のガルウイングドア。まるでランボルギーニのように跳ね上がるドアは、道行く人すべての視線を集めました。とにかく派手で目立つ。車を降りるだけで一つのイベントになる、そんな体験がAZ-1では味わえたのです。

さらに驚くべきは、AZ-1ミッドシップ・リア駆動(MR)レイアウトを採用していたこと。軽自動車といえば前輪駆動が主流の中、あえてエンジンを車体中央に配置し、後輪を駆動させるというスポーツカー顔負けの構造に仕上げていました。この構成は重量配分に優れ、コーナリング性能にも貢献。実際、AZ-1のハンドリングは非常にシャープで、走らせる楽しさが際立っていたのです。

そして、スズキ製の3気筒ターボエンジン「F6A」は、たった657ccながらも64馬力を発生。これは軽自動車規格で許される最大出力であり、AZ-1はそのすべてを存分に使っていました。車重はわずか720kgと軽量だったため、加速感はまるでジェットコースター。エンジンの咆哮とターボの過給音が相まって、まるでミニチュアのスーパーカーに乗っているような高揚感を味わえました。

このように、AZ-1はただの“変わり種”ではなく、徹底的に走りを意識した本格的なスポーツマシンでした。コンパクトなボディに詰め込まれたハイテンションな仕掛けの数々は、当時の軽自動車の常識を気持ちよくぶち壊してくれたのです。

 

今も熱狂的ファン多数!希少性と中古市場での価値の高騰

オートザムAZ-1はその個性あふれる仕様にもかかわらず、市場では必ずしも成功したとは言えませんでした。販売台数は約4400台にとどまり、わずか3年足らずで生産終了。原因は主に価格の高さと、実用性の乏しさでした。当時の軽自動車としては異例の約150万円という価格は、ファミリーカーも買える水準。しかも2シーターでトランク容量もほぼなく、雨漏りしやすいガルウイングという特殊性がネックとなり、幅広い層には受け入れられなかったのです。

しかし時は流れ、今やAZ-1「知る人ぞ知る伝説の軽スポーツカー」として再評価されています。生産台数が少なかったこと、そしてその唯一無二のスタイルから、若い世代のクルマ好きやコレクターたちの間で注目度が急上昇。ガルウイングミッドシップという構成は、今ではコンセプトカーか超高級車でしかお目にかかれないもの。そうした“過剰な贅沢”が凝縮されたAZ-1には、時代を超えた魅力があるのです。

中古車市場では、状態の良い個体は今や300万円近くにまで高騰しています。特に限定モデルの「マツダスピードバージョン」や、「M2 1015」といった派生車種はさらに希少性が高く、海外のコレクターからも熱視線を浴びているほどです。SNSYouTubeAZ-1を取り上げる動画も増えており、若い世代にもその存在が浸透しつつあります。AZ-1は単なる懐かしのクルマではなく、今も“夢を乗せた小さなスーパーカー”として生き続けているのです。

 

まとめ

オートザムAZ-1は、バブル時代の勢いと夢が詰まった、まさに“小さなスーパーカー”でした。軽自動車の枠の中で、ここまで大胆に遊び心と技術を詰め込んだクルマは他に類を見ません。スズキとマツダの共同開発という異色のタッグ、ガルウイングドアやミッドシップ・レイアウトといった過剰ともいえる装備、そして走る楽しさをしっかりと備えた中身。どれを取っても、AZ-1はただの奇抜な車ではなく、れっきとした“走るための道具”だったのです。

販売面では苦戦したものの、そのおかげで生産台数が抑えられたことが、現代の人気と希少価値につながっているというのも皮肉な話。いまや中古市場でプレミアがつくまでになり、再び熱狂的なファンを獲得しています。特に若い世代のクルマ好きがAZ-1を知り、「こんな車が昔あったの?」と驚く姿を見ると、このクルマが時代を超えて輝きを放ち続けていることを実感させられます。