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シトロエン・サクソ VTS:ラリーDNAを宿す“走り屋”フレンチハッチ


シトロエン・サクソ VTS 諸元データ(1999年モデル・1.6 16V)

・販売時期:1999年~2003年
・全長×全幅×全高:3718mm × 1595mm × 1360mm
ホイールベース:2385mm
・車両重量:935kg
・ボディタイプ:3ドアハッチバック
・駆動方式:FF(前輪駆動)
・エンジン型式:TU5J4
・排気量:1587cc
・最高出力:120ps(88kW)/6600rpm
・最大トルク:14.7kgm(144Nm)/5200rpm
トランスミッション:5速MT
・サスペンション:前:マクファーソンストラット / 後:トレーリングアーム
・ブレーキ:前:ベンチレーテッドディスク / 後:ディスク
・タイヤサイズ:185/55 R14
・最高速度:205km/h
・燃料タンク:45L
・燃費(欧州複合):約13.5km/L
・価格:日本導入時 約199万円
・特徴:
 - 軽量コンパクトボディに高出力エンジン搭載
 - キビキビとした操舵感と俊敏なハンドリング
 - モータースポーツ由来の走行性能

 

1990年代後半から2000年代初頭、ヨーロッパでは“小さくて速い”ホットハッチが大流行しました。そんな時代に登場したのが、フランスのシトロエンが誇るコンパクトスポーツ、サクソ VTSです。一見するとただの可愛らしい3ドアハッチバックですが、その中身はまさに“羊の皮を被ったオオカミ”。軽量なボディに120馬力の高回転型エンジンを搭載し、5速マニュアルで操る走りは、当時の若者の心を鷲掴みにしました。

しかもこのサクソ VTS、ただの街乗り仕様ではなく、WRCなどモータースポーツの世界でも活躍した経験を持つという、なかなかの“筋金入り”。パワーだけではなくハンドリング性能にも優れており、峠道やワインディングではまさに生き生きとした走りを見せてくれます。さらに、フランス車と聞くと“壊れやすい”なんてイメージも根強いですが、このクルマはその常識をちょっと覆す存在だったかもしれません。

今回はそんなサクソ VTSの魅力を3つの視点からじっくり掘り下げていきます。フランスの小さな暴れん坊、その実力と個性に迫ってみましょう。

 

ホットハッチ黄金期の申し子:VTSが体現した“フランス流走りの美学”

シトロエン・サクソ VTSが登場した1990年代後半は、プジョー106やルノー・クリオ、フォード・フィエスタなど、欧州の小型ホットハッチが熱い注目を集めていた時代でした。そんな中でVTSは、まさに“フランス流の走り”を凝縮した一台として異彩を放っていました。見た目はとびきり派手ではないけれど、その控えめなルックスの裏に秘めた走りのポテンシャルは驚くべきものがありました。

このクルマの最大の魅力は、やはりその軽さです。わずか935kgという車重に、120馬力の1.6リッターDOHCエンジンを組み合わせることで、加速感は鋭く、キビキビとした動きが可能に。特に中速から高回転域での伸びは見事で、まるでエンジンがもっともっと回りたがっているような感覚すら覚えます。そして、そのエンジンの元気さを最大限に引き出せるのが5速マニュアル。ギア比も絶妙で、ドライバーとの一体感が生まれるように設計されているのが嬉しいポイントです。

ハンドリングについても、フランス車らしいしなやかさと反応の鋭さを両立していました。特にワインディングでは、ノーズの入りが俊敏で、コーナーの中でも安定感があります。サスペンションは柔らかすぎず硬すぎず、街乗りでも快適性を損なわずにスポーティな走りが楽しめるバランスに仕上げられていました。これにより、日常の移動も週末のドライブも同じくらい楽しめる、そんな万能さがサクソVTSの真骨頂だったのです。

 

ラリーの血を受け継ぐ市販車:サクソVTSとモータースポーツ

シトロエンというブランドを語るうえで、モータースポーツの存在は欠かせません。特にWRC世界ラリー選手権)においては、セバスチャン・ローブの活躍もあり、同社は一時代を築いた存在でした。そんなラリーの名門が1990年代後半に市販していたコンパクトカー、それがサクソです。そしてその中でもVTSは、まさに“競技仕様の血統”を感じさせる仕上がりになっていました。

実際、サクソはヨーロッパ各地でラリーカーとしても使われており、特にVTSはそのベース車両として重宝されていました。軽量なボディと扱いやすいFFレイアウト、そして信頼性の高いエンジンは、エントリークラスのラリードライバーたちにとって理想的な一台だったのです。ラリー競技向けにロールケージを組み、サスペンションやブレーキを強化した“キットカー”としても活躍。シトロエンモータースポーツ部門が、開発やサポートに深く関わっていたという事実は、VTSの素性の良さを裏付けるものでした。

市販仕様のVTSにも、こうしたモータースポーツからのフィードバックが反映されています。シャシーの剛性設計やステアリングの応答性、ブレーキ性能など、単に“パワーだけ”を重視するのではなく、“コントロールできる楽しさ”が徹底的に追求されていたのです。その結果、ドライバーがクルマを操っているという感覚が非常に強く、走り好きのファンから高い評価を受けました。サクソ VTSは、単なるコンパクトカーではなく、まさに“ラリーのDNA”を感じられる希少な存在だったのです。

 

“フランス車=壊れやすい”を覆す?実はタフだったサクソVTSの素顔

「フランス車は壊れる」。この言葉、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?特に90年代の日本では、欧州車=メンテナンスが大変、というイメージが強く、それはシトロエンにも例外ではありませんでした。しかし、ことサクソ VTSに関しては、**「意外とタフで信頼性が高い」**という声も少なくないのです。

VTSに搭載された1.6リッターのTU5J4型エンジンは、実はプジョー106 S16などにも採用されていた汎用性の高いユニット。構造がシンプルで、部品の流通も比較的良好だったため、定期的なメンテナンスさえ怠らなければ長く元気に走ってくれる存在でした。また車重が軽いことで、サスペンションやブレーキへの負荷も少なく、消耗部品の寿命が長めだった点も見逃せません。

もちろん、内装のチリが甘かったり、電装系にややクセがあったりという“フランス車らしさ”は存在します。しかしそれらは致命的なトラブルではなく、日常使用においては「慣れてしまえば愛嬌」とも言えるレベル。特に日本仕様の正規輸入車は気候対策なども施されていたため、維持のハードルは意外なほど低めでした。

むしろ現代では、「これほど軽くて、素の状態で走りを楽しめるクルマはもう無い」として、趣味車としてサクソ VTSを選ぶ人も増えています。経年車として扱われる現在でも、しっかり整備された個体は驚くほど元気に走り、街中から峠道まで自在にこなしてくれます。“壊れるフランス車”というレッテルを、軽やかにすり抜けていく――それがサクソ VTSのもう一つの魅力なのです。

 

まとめ

シトロエン・サクソ VTSは、ただの小型ハッチバックではありませんでした。ホットハッチ全盛期における名選手として、その存在感は非常に濃厚。軽量なボディに高回転型エンジン、そしてマニュアルトランスミッションという組み合わせは、走ることの楽しさをダイレクトに味わえるものでした。

また、ラリーの舞台でも活躍した背景を持ち、市販車ながらそのフィーリングには競技車譲りのダイナミズムが息づいていました。操る楽しさとコントロール性の高さは、今見ても決して色あせていません。そして、イメージに反して実は信頼性もそこそこ高く、部品の入手性や整備性に優れていた点も評価すべきポイントです。

コンパクトで軽快、そしてどこか愛嬌のあるスタイル。サクソ VTSは、クルマの本質的な楽しさを教えてくれる、そんな“運転好きのための相棒”だったと言えるでしょう。今なお中古市場では根強いファンがいることからも、その魅力がいかに本物だったかがうかがえます。