リジェ・JS2(3.0L版)諸元データ
・販売時期:1971年〜1975年
・全長×全幅×全高:4100mm × 1740mm × 1100mm
・ホイールベース:2450mm
・車両重量:980kg
・ボディタイプ:2ドア クーペ
・駆動方式:MR(ミッドシップ・リアドライブ)
・エンジン型式:マセラティ C114型 V6
・排気量:2965cc
・最高出力:195ps(143kW)/6500rpm
・最大トルク:27.5kgm(270Nm)/4000rpm
・トランスミッション:5速マニュアル
・サスペンション:前:ダブルウィッシュボーン / 後:ダブルウィッシュボーン
・ブレーキ:前後ディスクブレーキ
・タイヤサイズ:前185/70VR14 / 後205/70VR14
・最高速度:240km/h
・燃料タンク:80L
・燃費(推定):約7km/L
・価格:約115,000フラン(当時)
・特徴:
1970年代初頭、フランスの情熱が詰まったスポーツカーが静かに、そして確かに誕生しました。それが、リジェ・JS2です。名前に冠された「JS」は、ギ・リジェが生涯を通じて敬愛した友人ジョエル・シェパールへのオマージュ。フォーミュラカーの開発から始まったリジェが、初めて市販向けに世に送り出したこのGTカーは、当時としてはかなり挑戦的なミッドシップ・レイアウトを採用。イタリアの名門マセラティから供給されたV6エンジンを心臓に、わずか1トンにも満たない軽量なボディにパワーを叩き込んでいました。
そしてこのJS2、ただの「フランス版スーパーカー」では終わりませんでした。1975年のル・マン24時間レースで、伝説となる総合2位という快挙を成し遂げ、モータースポーツ界にその名を刻み込んだのです。
今回は、そんなリジェ・JS2が持つル・マン挑戦のドラマ、ミッドシップ&マセラティV6の技術的挑戦、そして創設者ギ・リジェの情熱という3つの視点から、その魅力を掘り下げてみたいと思います。フランスの小さな工房が生んだこの名車の物語、どうぞ最後までお楽しみください。
ル・マンに挑んだフレンチ・スピリット:JS2が描いた夢の24時間
1970年代のル・マン24時間レースは、ポルシェやフェラーリといった強豪がひしめき合う戦場でした。そんな中、フランスからやってきたリジェ・JS2は異色の存在。ギ・リジェの「フランス車でル・マンを制覇する」という熱い夢を背負い、1972年からル・マンへの挑戦をスタートさせたのです。
最初の数年は苦戦続き。しかし、1975年、運命の年がやってきます。この年、JS2は最高のコンディションでレースに臨み、ドライバーにはフランスの名手ジャン=ルイ・ラフィットとグイ・シャソンを起用。ル・マンの過酷な24時間を走りきり、見事総合2位という快挙を成し遂げました。しかも優勝したのは、あのワークスポルシェ936。そんなモンスターと肩を並べる健闘を見せたリジェJS2は、フランスのモータースポーツ史に燦然と輝く存在となったのです。
当時のフランス国内はもちろん、世界中のレースファンがこの小さなフレンチGTに喝采を送りました。ル・マンでの成功が、後のリジェF1チーム設立への道を開く大きな一歩になったことは間違いありません。
マセラティ製V6エンジンとミッドシップ構造の融合:メカ好きが唸る設計思想
リジェJS2のもう一つの大きな魅力は、そのメカニズムにあります。エンジンは、当時シトロエン傘下にあったマセラティが開発したV型6気筒DOHCユニット。排気量は2.7Lからスタートし、最終的には3.0Lへと進化を遂げます。このマセラティV6は、カムギア駆動による高回転型でありながら、十分な低速トルクを持ち合わせており、公道でも扱いやすい特性を持っていました。
そして何より、JS2はこのエンジンをミッドシップに搭載。1970年代初頭、まだスーパーカーの概念が一般的でなかった時代に、フェラーリ・ディーノやロータス・ヨーロッパと並ぶ形でミッドシップレイアウトを採用した先進性は見逃せません。しかも車重はわずか980kg。パワーウェイトレシオは抜群で、俊敏なハンドリングと抜群のコーナリング性能を両立していたのです。
フレームは軽量なスチールスペースフレームを採用し、ボディはFRP製。結果として、軽さと剛性、そしてバランスを高次元で融合させたマシンに仕上がっていました。まさに、エンスージアスト垂涎の1台と言えるでしょう。
リジェという男の情熱:F1チーム創設へとつながるGTカーの原点
リジェ・JS2の物語を語るうえで外せないのが、創設者ギ・リジェの存在です。元レーシングドライバーとして活躍し、引退後はスポーツカーやフォーミュラカーの製造に情熱を注ぎました。JS2は、彼が初めて世に送り出した本格的なGTカーであり、リジェブランドの礎となった1台です。
彼がなぜここまでこだわったかというと、単なる市販車を作りたかったわけではありません。自らが惚れ込んだレーシングスピリットを形にし、それを世界に認めさせたかったのです。その第一歩がJS2であり、ル・マンでの成功はまさに夢の実現でした。
この成功体験がギ・リジェに与えた影響は大きく、彼は次にF1という新たな舞台を目指します。1976年、ついにリジェF1チームが誕生。しかも初年度からポディウムに上がるという快挙を成し遂げ、やがて1977年のスウェーデングランプリでは初優勝を飾ります。JS2がなければ、F1に挑むリジェは存在しなかったかもしれません。
ギ・リジェの情熱と挑戦、そして彼の思いが結晶となったJS2は、単なるクラシックカー以上の意味を持っているのです。
まとめ
リジェ・JS2。それは、情熱と挑戦、そしてフランスの夢が詰まった1台でした。マセラティ製V6エンジンをミッドシップに搭載し、軽量かつ高剛性なボディとともに優れたパフォーマンスを実現。ル・マン24時間レースでは堂々の総合2位に輝き、ギ・リジェの次なる夢、F1への道を切り拓く礎となりました。
現代ではなかなか目にすることのできない希少な存在ですが、そのストーリーと技術力は、今なお多くのクルマ好きたちの心をつかんで離しません。もしどこかでこの美しいフレンチGTに出会えたなら、ぜひその走りとオーラをじっくりと味わってほしいと思います。