TOGG T10X 諸元データ(2023年モデル)
・販売時期:2023年〜
・全長×全幅×全高:4599mm × 1886mm × 1676mm
・ホイールベース:2890mm
・車両重量:約1900kg〜2100kg(バッテリー容量により異なる)
・ボディタイプ:SUV(Cセグメント)
・駆動方式:FR / AWD(後輪駆動または全輪駆動)
・エンジン型式:電動モーター
・バッテリー容量:52.4kWh / 88.5kWh
・最高出力:160kW(約218ps)または320kW(約435ps)
・最大トルク:約350Nm〜700Nm
・トランスミッション:シングルスピード(EV専用)
・サスペンション:前:マクファーソン / 後:マルチリンク
・ブレーキ:前後ディスク
・タイヤサイズ:215/60R18 〜 245/45R20
・最高速度:約180km/h
・燃料タンク:なし(EV)
・航続距離(WLTP):314km〜523km
・価格:約950万円相当(2023年トルコ価格:約1,200,000TL〜)
・特徴:
- トルコ初の量産EV
- 国産インフォテイメントOS「Trumore」搭載
- ピニンファリーナによるデザイン監修
世界中がEV(電気自動車)へと大きく舵を切る中、新たにその波に飛び込んできたのが――トルコ。しかも単なる部品供給やライセンス生産ではなく、完全に自国ブランドとして開発された「TOGG(トッグ)」という意欲的なプロジェクトです。
TOGGは「Türkiye'nin Otomobili Girişim Grubu(トルコ自動車イニシアチブグループ)」の頭文字で、国と民間企業が一体となって推進してきた国家的なEVプロジェクト。2022年末に第1号車が完成し、2023年から一般販売がスタート。トルコにとっては**“自動車輸入国”から“モビリティ輸出国”への転換点**とも言える存在です。
見た目はヨーロッパ的で洗練され、内部にはトルコらしい文化のエッセンスが詰まっています。さらに、イタリアの名門ピニンファリーナと手を組み、見た目も中身も本気の仕上がり。航続距離やパフォーマンスも欧州勢と渡り合えるスペックを持ち、単なる「国産車」ではなく、国の誇りをかけた“ブランド”づくりが感じられるのです。
今回はそんなTOGGについて、誕生までのストーリーからデザインと技術、そしてグローバル戦略まで、3つの視点でご紹介していきます。
国家の夢を乗せて:TOGG誕生の舞台裏
TOGGが誕生するまでの物語は、トルコという国の自動車産業の長い葛藤と、未来への希望が交差するドラマのような展開でした。トルコはこれまで多くの外国メーカー(フォード、ルノー、フィアットなど)の生産拠点として栄えてきましたが、「自国ブランドの車を持っていない」という現実に直面していたのです。
この問題を本気で解決しようと立ち上がったのが、トルコ政府。2017年、エルドアン大統領の後押しのもと、民間5企業(アナドル・グループ、BMC、クチャ、タークセル、ゾルル)が出資して「TOGG(トゥルキエ自動車イニシアチブ)」が結成されました。その狙いは、完全にトルコで企画・設計・製造されるEVの実現でした。
国家プロジェクトというだけに、TOGGには並々ならぬ予算と情熱が注がれました。開発は一気に加速し、2020年にはコンセプトモデルが公開され、2022年にはついに生産工場が開所。工場は「Gemlik(ゲムリク)」という港町に建設され、ここから世界へと羽ばたく車が生み出されるのです。
この流れの中で、TOGGはただの「国産EV」ではなく、トルコの産業自立の象徴として国民の注目を集めました。街中で見かけるたびに、きっと人々は「これがウチの国の車なんだ」と誇りを感じていることでしょう。
デザインと技術で魅せる、TOGG T10Xの正体
TOGG T10Xは、いわばトルコの“名刺代わり”になるモデル。世界に「これが我々のEVだ」と堂々と示す存在として、デザインと技術の両面に一切の妥協がありません。
まず注目したいのはイタリアの名門カロッツェリア「ピニンファリーナ」が関わったエクステリア。そのフォルムはシャープでモダン、かつどこか地中海の空気感を感じさせる優美な佇まいです。ヘッドライトの形状はチューリップ(トルコの国花)をモチーフにするなど、細部にトルコらしさを込めた演出が随所に見られます。
インテリアも見逃せません。T10Xは**「移動するスマートデバイス」**として設計されており、ダッシュボード全体が大型ディスプレイに覆われ、中央のインフォテイメントにはトルコ製の独自OS「Trumore(トゥルモア)」を搭載。このOSはナビや音声認識だけでなく、eコマースやスマートホームとの連携まで可能というから驚きです。
さらに、走行性能も侮れません。後輪駆動と四輪駆動の2タイプがあり、上位モデルは最大出力435馬力、0-100km/h加速はわずか4.8秒という俊足っぷり。航続距離も最長523km(WLTP)と、日常使用からロングドライブまでカバーできる実力派です。
TOGGは、「見た目だけで勝負しない」「中身もガチで作り込む」そんなトルコの技術者たちの意地を感じる1台。ガジェット好きな人ならきっと、この車内で過ごす時間がちょっとした未来体験に感じられるはずです。
世界に羽ばたく野望:TOGGのグローバル戦略
TOGGは単なる国内市場向けEVではありません。その視線ははっきりと「世界市場」に向いています。特に注目されているのが、2024年以降の欧州進出計画です。EU圏での認証取得も順調に進められており、まずはドイツ、フランス、イタリアなどの主要国での展開が見込まれています。
これは言い換えれば、トルコが初めて「輸出できる完成車ブランド」を持つという歴史的な出来事です。しかもEVという最先端分野での挑戦ですから、その意義は非常に大きいと言えるでしょう。
グローバル展開を見越して、TOGGはあらかじめ欧州の基準に合った設計をしています。例えば安全性面ではユーロNCAPの5つ星取得を目指し、ADAS(先進運転支援システム)もレベル2+相当の機能を搭載。コネクテッド機能もOTA(無線アップデート)対応と、欧州勢のEVと真っ向勝負ができる装備が揃っています。
そして気になる日本市場。現時点ではTOGGの日本導入は発表されていませんが、トルコ製というエッジの効いたブランド性、ヨーロッパ由来の美しいデザイン、日本ではまだ珍しい「EV×新興ブランド」という組み合わせは、クルマ好きの間では確実に注目の的になるでしょう。
「電動化=欧米or中国」の時代はもう終わり? そんな問いを投げかけるTOGGは、世界のEVシーンに新たな選択肢をもたらしてくれそうです。
まとめ
TOGGの登場は、トルコにとっても、自動車業界全体にとっても、大きな転換点と言えます。これまで自国ブランド車を持たなかった国が、国家プロジェクトとして立ち上がり、デザインも性能も世界と勝負できるEVを世に送り出した。この事実だけで、TOGGはすでに“歴史的な存在”と呼べるでしょう。
もちろん、量産EVとしての信頼性やインフラ整備、ブランド浸透といった課題もあります。しかし、これらはテスラでさえかつて直面した壁。その点、TOGGは最初から「国と民間が一体」となって進めており、これが強力な推進力となっています。
さらに、T10Xは単なる“車”ではありません。スマートデバイス、モビリティ、文化発信、そして国家戦略の象徴と、様々な顔を持つ未来のツールです。トルコの歴史と先進技術が融合したTOGGは、今後ますます存在感を増していくことでしょう。
あなたの次の愛車が「TOGG」になる日も、意外と遠くないかもしれませんよ?