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ボルボ・240:世界一タフで美しい「箱」――安全神話と永遠の魅力

ボルボ・240 GL(代表的グレード)諸元データ

・販売時期:1974年〜1993年
・全長×全幅×全高:4785mm × 1715mm × 1440mm
ホイールベース:2640mm
・車両重量:約1350kg
・ボディタイプ:セダン / ワゴン
・駆動方式:FR(後輪駆動)
・エンジン型式:B21E型(代表例)
・排気量:2127cc
・最高出力:123ps(90kW)/ 5750rpm
・最大トルク:17.0kgm(167Nm)/ 3500rpm
トランスミッション:4速MT/5速MT/4速AT
・サスペンション:前:マクファーソンストラット / 後:リジッドアクスル+コイル
・ブレーキ:前:ディスク / 後:ディスク
・タイヤサイズ:185/70R14
・最高速度:約180km/h(グレードによる)
・燃料タンク:60L
・燃費(概算・欧州複合モード):約9〜11km/L
・価格(当時の日本導入価格):約330万円〜
・特徴:

  • 高い衝突安全性と耐久性

  • クラシカルな直線基調デザイン

  • 豊富なバリエーション(ターボ、ディーゼルもあり)

 

四角いクルマといえば、何を思い浮かべますか?
そんな質問をされたら、多くのクルマ好きが「ボルボ・240!」と答えるでしょう。まるで金庫のような頑丈さ、そして無駄のないスクエアなデザイン。このクルマは1974年に登場し、1993年までなんと約20年もの間、ほとんど姿を変えずに作り続けられました。

ボルボ・240がここまで長く愛された理由は、ただのデザインの良さだけではありません。交通事故による死傷者を減らすことを本気で目指した安全性能。何十万キロも走り続けられる頑丈なボディ。そして意外なことに、芸術家や知識人たちが惚れ込んだスタイリッシュさ。このクルマは、「移動のための道具」という枠を超えた存在感を持っていました。

そんなボルボ・240の魅力を、今回は3つの視点からじっくり掘り下げていきます。なぜ世界一安全なクルマと呼ばれたのか?なぜ世界中で働き者として愛されたのか?そして、あの独特なデザインはなぜ今も輝いているのか?
この記事を読み終わる頃には、あなたもきっとボルボ・240に「ちょっと乗ってみたいな」と思ってしまうかもしれませんよ!

 

「世界一安全なクルマ」と呼ばれた理由とは?ボルボ・240の安全神話を紐解く

「安全なクルマといえばボルボ」――このイメージを決定づけたのが、まさにこのボルボ・240でした。1970年代後半、ボルボは欧州だけでなくアメリカ市場でも「最も信頼されるメーカー」として定評がありましたが、その象徴とも言えるのがこのクルマ。特に注目されたのが、当時としては画期的だった衝突安全性の高さです。

まず注目すべきは、ボルボ独自のサイドインパクトプロテクション。車体のサイド部分に補強材を内蔵し、側面衝突時の衝撃を効果的に吸収する構造を採用しました。これは今では当たり前の安全設計ですが、1970年代当時には先進的すぎるほどでした。また、車体全体の剛性がとにかく高く、衝突時にもキャビン(乗員空間)が潰れにくいように設計されていたのです。

さらに、ボルボ・240はアメリカのNHTSA(国家道路交通安全局)による衝突テストでも高評価を獲得。当時の自動車雑誌や消費者団体のレポートでは「家族を守るならこれ」と絶賛され、実際にアメリカではファミリーカーとして人気を集めました。そして、ボルボ自身もこの安全性を武器に、CMやパンフレットで「あなたの命を守るクルマです」と自信満々に訴えかけていたのです。

ボルボ・240の安全性は、単なる広告文句ではありませんでした。事実、数多くの事故データで実証され、多くの命を救ったとも言われています。今ではすっかり「当たり前」になった安全装備ですが、その先駆けとなったのが、まさにこの一台だったのです。

 

働くクルマの王様!タクシーにもパトカーにもなったボルボ・240のタフネス

ボルボ・240は、ただの「安全なクルマ」という枠にとどまらず、その驚異的な耐久性とタフネスで、世界中のあらゆる現場で活躍しました。特に注目すべきは、タクシーやパトカーとしての利用。これらの職業用車両として選ばれた背景には、ボルボ240の持つ圧倒的な信頼性と耐久性があるのです。

1970年代後半から1980年代にかけて、ボルボ240はタクシー業界において非常に高い評価を受けました。特にスウェーデン国内やヨーロッパ各地では、走行距離が膨大になるタクシー業務において、その耐久性を存分に発揮。長時間の運転に耐え、過酷な使用環境でもエンジンの不調やトラブルが少なく、稼働率が非常に高かったため、タクシー業者にとっては非常にコストパフォーマンスの高い選択肢となったのです。

さらに、パトカーとしても使用されることが多かったボルボ・240。特にその頑丈なボディは、パトカーの過酷な使用条件に耐えるために理想的でした。高速道路での追跡や、時には衝突事故に巻き込まれることもありますが、ボルボ240はその頑丈なシャシーと高い安全性のおかげで、警察官たちをしっかりと守る役割を果たしていました。実際、世界中の多くの警察署がこの車を採用し、その信頼性を証明しました。

また、ボルボ240は**「エターナルカー」とも呼ばれる長寿命**を誇り、そのタフさと耐久性は、世界中の道路を駆け巡り、数百万キロメートルを超えて走り続ける個体も珍しくありません。オーナーたちは、メンテナンスをしっかりと行えば、ほとんど壊れることなく長年にわたって愛用できるクルマとして評価していました。

その結果、ボルボ240はただの「通勤用」「家族用」という枠を超え、多くの業界で「働くクルマ」の代表格としての地位を確立したのです。

 

芸術家にも愛された箱型デザイン!ボルボ・240のスタイルはなぜ今も新鮮なのか?

ボルボ・240のデザインを一言で表すなら、「究極の箱」。直線だけで構成されたようなシンプルなシルエット、前後の短いオーバーハング、大きなガラス面積。1970年代当時にはすでに“ちょっと古臭い”と言われることもありましたが、気づけば今、その武骨なスタイルに魅了される人が世界中にいます。

この独特な箱型デザインには、明確な意図がありました。ボルボスカンジナビアの機能主義的デザイン哲学に則り、「美しさよりも合理性」を優先しました。見た目の派手さではなく、視界の良さ、空間の使いやすさ、安全性といった実用面が重視されたのです。角ばったルーフは、頭上スペースの余裕を生み出し、広いウインドウは運転中の死角を減らしました。いわば、すべてが「理由ある形」だったのです。

この“わかる人にはわかる”デザイン、実は一部の芸術家や知識人に熱狂的に支持されたのも面白いところ。たとえば、作家の村上春樹さんは一時期240を愛用していたことで知られていますし、音楽家エルヴィス・コステロも好んで乗っていたといわれています。彼らが選んだ理由は、たぶん「自己主張しない、でも個性がある」そんな不思議な魅力をこのクルマが放っていたからかもしれません。

そして現代。クラシックカーイベントやSNSでも、ボルボ240はひときわ存在感を放っています。ピカピカにレストアされた車体、あるいはちょっとヤレた感じのまま走る姿も味わい深く、レトロフューチャー”的な魅力がある”と若い世代の間でも再評価が進んでいるのです。

奇をてらわず、真面目に機能を追求した結果、時代を超えて愛されるスタイルになった。ボルボ・240は、そんな“デザインの逆説”を体現した稀有な存在なのです。

 

まとめ

「安全」「堅牢」「無骨だけど美しい」。ボルボ・240には、いくつもの矛盾した言葉が不思議としっくりきます。1974年の登場から約20年という長い期間、ほとんど姿を変えずに生産され続けたこのクルマは、まさにボルボの哲学そのものを体現する存在でした。

高い衝突安全性で“世界一安全なクルマ”と称され、多くの人の命を守った実績。タクシーやパトカーとして酷使されながらもなお現役で走る、驚異的な耐久性。そして、当時は地味だと笑われた直線的なデザインが、今では“本物”を知る人々に愛されている――ボルボ・240は、流行や見た目だけにとらわれない「本質的な価値」を教えてくれるクルマです。

もしかしたらあなたの街にも、まだどこかで静かに走っている240がいるかもしれません。もし見かけたら、ぜひ少し足を止めて、そのシルエットに見入ってみてください。きっとそこに、今のクルマでは感じられない、温かくて、まじめで、ちょっと不器用な“クルマの原点”が見えてくるはずです。