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日産・マイクラC+C:電動ルーフで変身!小さなボディの本格派カブリオレ

日産・マイクラC+C(1.6 Tekna)諸元データ

・販売時期:2005年~2009年(欧州)
・全長×全幅×全高:3825mm × 1670mm × 1440mm
ホイールベース:2430mm
・車両重量:1160kg
・ボディタイプ:2ドア クーペカブリオレ
・駆動方式:FF(前輪駆動)
・エンジン型式:HR16DE
・排気量:1598cc
・最高出力:110ps(81kW)/6000rpm
・最大トルク:15.6kgm(153Nm)/4400rpm
トランスミッション:5速MT または 4速AT
・サスペンション:前:ストラット / 後:トーションビーム
・ブレーキ:前:ディスク / 後:ドラム(またはディスク)
・タイヤサイズ:175/60R15(または185/55R16)
・最高速度:約190km/h(5MT車)
・燃料タンク:46L
・燃費(欧州複合モード):約14.9km/L
・価格:約1万5000~1万8000ユーロ(発売当時 欧州)
・特徴:
 - 電動メタルトップを採用したコンパクトなオープンカー
 - ピニンファリーナと共同開発されたスタイリッシュなデザイン
 - ベースは日産・マーチ(K12型)

 

街中で見かけたときに、思わず「えっ、マーチがオープンカーになってる!?」と二度見してしまった人も多いのではないでしょうか。今回ご紹介するのは、そんな視線を釘付けにした異色の存在――日産・マイクラC+C(C+Cはクーペ+カブリオレの意)。ベースはおなじみK12型マーチですが、ルーフをスルスルっと自動で格納できる電動メタルトップを備えた、なんともユニークなオープンカーなのです。

日本ではほとんど流通しておらず、知る人ぞ知るレア車扱い。しかしヨーロッパではそこそこ売れていたというから、いったいこの車にはどんな物語があるのでしょうか?小さくても本格派なこのモデル、実はイタリアの名門デザイン会社「ピニンファリーナ」も開発に関わっていたというから驚きです。

軽快でおしゃれ、それでいて実用性も確保されたマイクラC+Cは、今あらためて見てもキュートで個性的。今回はそんな魅力あふれるこのモデルの誕生の背景、デザインの秘密、そして市場での評価について、じっくりと掘り下げていきたいと思います。

 

電動ルーフ付き!マイクラC+Cは“庶民のカブリオレ”だった

オープンカーと聞くと、高級スポーツカーや欧州製の洒落たモデルを思い浮かべる方も多いと思います。しかし、マイクラC+Cはそんな固定観念をガラッと覆してくれる存在でした。ベースとなったK12型マーチは、あくまで実用的なコンパクトカー。でもこのモデル、なんと電動開閉式のメタルトップを備えた本格的なクーペカブリオレだったのです。

このルーフシステムは、スイッチひとつで約20秒ほどでオープン状態に変身するというもの。屋根がそのままトランクに格納される仕組みで、ソフトトップに比べて遮音性や防犯性に優れているのも魅力でした。見た目もまるでおもちゃのような可愛らしさと、高級感のバランスが絶妙。ヨーロッパの街中では、パリジェンヌが乗っていそうな“ちょっと気の利いた日常の足”といった印象で親しまれていたのです。

面白いのは、こうした本格装備を持ちながら、価格が決して高すぎなかったこと。当時、1.6Lの自然吸気エンジンに5速マニュアルを組み合わせた欧州仕様では、約1万5000〜1万8000ユーロと、庶民にも手が届く価格帯。日産はこの車を「オープンカーをもっと身近にする試み」として位置づけており、まさに“小さな夢のカブリオレ”という言葉がぴったりでした。

ただし、トランクルームはルーフを格納するとさすがに容量が大幅に減るため、荷物はコンパクトにまとめる必要があります。でも、それすらも「週末にちょっと遠出したくなるな」と思わせてくれる、そんなポジティブな制約だったように思います。手軽に開放感を味わえる、愛嬌たっぷりのクルマ。それがマイクラC+Cの真骨頂なのです。

 

デザインはイタリア製!ピニンファリーナが関わったって本当?

イクラC+Cを語るうえで外せないのが、その愛らしくも洗練されたデザインです。ベースとなったK12型マーチも、丸みを帯びたユニークなスタイルで人気を博しましたが、C+Cはそこに一味違う“華”が加わっています。その理由はズバリ、イタリアの名門カロッツェリアピニンファリーナ」が開発に協力していたからなのです。

ピニンファリーナといえば、フェラーリマセラティを手がけたことで知られる世界的なデザインスタジオ。そんな巨匠が手を加えたというのだから、ちょっとした驚きですよね。実際、ルーフ格納メカニズムの設計や、リヤデザインの再構築など、クーペカブリオレとしてのバランスを取るためにピニンファリーナが大きく関与しています。クルマとしての実用性と美しさを両立させるのは簡単ではありませんが、そこにイタリア流の美的感覚が生きているわけです。

特にリアセクションの造形は秀逸で、メタルトップを格納するスペースを確保しながら、トランクとのラインを自然につなげるその手法は、まさにカロッツェリアの仕事。コンパクトカーでありながら、サイドビューにはスポーティさが、リアにはどこかエレガンスが感じられる絶妙なバランス感覚。ボディカラーもパステル調からメタリック系まで幅広く用意されており、まさに「自分だけの小さなプレミアム」を感じさせてくれる仕上がりでした。

見た目のキュートさの裏にある、しっかりとしたプロの仕事。それこそが、マイクラC+Cをただの「オープンになるマーチ」ではなく、一台の完成されたカブリオレモデルとして成立させた最大の要因と言えるでしょう。

 

欧州ではヒット、日本では…?販売戦略とその結末

イクラC+Cは2005年にヨーロッパ市場で登場し、「手ごろでおしゃれなオープンカー」として、特に若年層や女性ドライバーに支持を集めました。街中に溶け込む小さなサイズ、電動ルーフというギミック、そして何よりも個性的なスタイリングは、日常の足にちょっとした“非日常”を加える一台として一定の人気を獲得します。特にイギリスやフランスでは、走っている姿を見かける機会も多かったようです。

しかしながら、この可愛らしいC+C、日本ではほとんど流通していません。日産の国内販売ラインナップにも加わることなく、正規販売はされなかったのです。その背景にはいくつかの事情がありました。一つは、当時の日本市場でオープンカーの需要がかなり限定的だったこと。軽自動車やミニバンが主役だった時代に、遊び心満点の2ドアクーペカブリオレはやや浮いた存在だったのかもしれません。

もう一つは価格とパッケージング。日本で販売するとなれば、輸入コストや仕様調整などで割高になる可能性があり、マーチベースであることからも「価格とのバランスが取りにくい」と判断された可能性があります。結果として、並行輸入車としてわずかに日本に入ってきた個体が存在するものの、街中で見かける機会は非常に稀。だからこそ、今では“知ってるとちょっとクルマ通”なレア車扱いになっているわけです。

もし日本で正規販売されていたら、今ごろ中古市場でちょっとした人気になっていたかもしれません。ですが、あのころの日本にはまだ「手頃なオープンカーを楽しむ」という文化は根づいていなかったのかも…。逆に言えば、今こそこんな車があったら受け入れられる時代かもしれませんね。

 

まとめ

日産・マイクラC+Cは、コンパクトカーにありがちな「実用性優先」のイメージを心地よく裏切ってくれる、遊び心とスタイルに満ちた一台でした。電動メタルトップという大人顔負けの装備を持ち、しかも可愛い見た目にピニンファリーナという豪華な裏付けまで加わったことで、C+Cは“庶民の夢”を形にしたような存在だったのです。

ヨーロッパではその個性が評価され、街の風景にしっくり溶け込む「気軽なカブリオレ」として一定の成功を収めましたが、残念ながら日本では日の目を見ることはありませんでした。とはいえ、その存在感は今なお健在で、偶然街中で見かけたらちょっと得した気分になれる、**そんな“知る人ぞ知る名車”**として記憶に残っています。

もし、今このクルマが新型として登場したら――きっと、ちょっと背伸びしたい若い世代や、セカンドカーに遊びを求める大人たちから熱い視線を浴びることでしょう。マイクラC+Cは、時代を少しだけ先取りしすぎてしまったのかもしれません。それでも、その先取りがあったからこそ、今になってその価値がじわじわと再評価されているのです。