ルノー・アヴァンタイム 3.0 V6 プリヴィレッジ 諸元データ
・販売時期:2001年〜2003年
・全長×全幅×全高:4642mm × 1834mm × 1627mm
・ホイールベース:2700mm
・車両重量:1680kg
・ボディタイプ:2ドアミニバン(クーペ風)
・駆動方式:FF(前輪駆動)
・エンジン型式:L7X
・排気量:2946cc
・最高出力:210ps(154kW)/ 6000rpm
・最大トルク:29.6kgm(290Nm)/ 3750rpm
・トランスミッション:5速AT
・サスペンション:前:マクファーソンストラット / 後:トレーリングアーム
・ブレーキ:前後ディスク
・タイヤサイズ:215/55 R16
・最高速度:235km/h
・燃料タンク:80L
・燃費(推定):約8〜9km/L(欧州複合)
・価格:49,000ユーロ前後(当時)
・特徴:
- ミニバンとクーペの融合という前代未聞のコンセプト
- 全面ガラスルーフと“窓全開”モード搭載
- ルノーとマトラの共同開発による個性的なボディ
あの車、何だったんだろう? そんな疑問を残して、あっという間に歴史の表舞台から姿を消した一台があります。名前はルノー・アヴァンタイム。2000年代初頭、フランスの自動車メーカー、ルノーが「時代の先を行く」と豪語して送り出したその車は、クーペでもミニバンでもない、まさに“唯一無二”の存在でした。
背が高くてドアは2枚。見た目はミニバンなのにスポーツカーのようなシルエット。しかも、ボタンひとつで4枚のウィンドウとガラスルーフがすべて開くという、驚きのギミックまで搭載。こんなワクワクする車、そうそうありません。
ところがそんな革新性は、当時のマーケットにはちょっと早すぎたようです。販売はふるわず、わずか2年で生産終了。たった8,500台ほどしか世に出なかったその数は、逆にコアなファンを生むことにもなりました。
今回は、そんな“早すぎた変わり者”アヴァンタイムにスポットを当てて、その誕生の背景からユニークなデザイン、そして短命で終わった理由まで、たっぷりとご紹介していきます。
クーペ×ミニバン=アヴァンタイム!? ルノーが放った異端児の誕生秘話
「クーペとミニバンを融合させた車を作ろう」──そう聞かされたデザイナーたちは、きっと頭を抱えたことでしょう。誰がどう考えても、相反する2つのジャンル。スタイリッシュさと実用性は、時に共存が難しいのです。でも、そんな無茶なコンセプトに本気で挑んだメーカーがフランスにはありました。ルノーと、そのパートナーであるマトラです。
マトラは、エスパス(初代〜3代目)をルノーとともに手がけた実績を持つ、小規模ながらユニークな技術力を誇るメーカー。90年代後半、エスパスの生産がルノーに移管されることになったことで、マトラは大きな転換点を迎えていました。そのとき登場したのが、「アヴァンタイム(Avantime)」という新しい提案だったのです。名前の通り、“アヴァン(前進・未来)”と“タイム(時間)”を掛け合わせた造語で、「未来を先取りする時間」とでも言いましょうか。
このクルマ、そもそもはエスパスをベースに作られたものでした。しかしそこにクーペらしい流麗なラインを与え、さらに2ドアであるという意外性まで盛り込むことで、「誰も見たことがない」乗り物に仕上がっていきました。ルノーはこれを「フランス流のグランドツアラー」と呼び、長距離ドライブを優雅に楽しむ大人のためのクルマと位置づけていたのです。
しかし、コンセプトは斬新でも、マーケティングの現場では困惑の声が上がりました。「いったい誰に売るの?」。セグメントのどこにも収まらないクルマは、往々にして“企画倒れ”になるリスクをはらんでいます。それでもルノーは、このクルマを「アート」として送り出したのでした。冷静な商売というより、これはもはや“情熱の結晶”。そう、アヴァンタイムは誕生の時点から、すでに伝説の匂いをまとっていたのです。
ガラスルーフと“窓全開”の快感!アヴァンタイムのデザインと機能美
ルノー・アヴァンタイムの最大の魅力。それはやはり、**「開放感」**にあります。大きなガラスエリア、フレームレスのドア、そしてパノラミックなガラスルーフ。これらが一体となったとき、ただの移動手段だった車内空間が、まるで“走るリビングルーム”に変わってしまうのです。
まず注目したいのが、そのフレームレスウィンドウ付きの巨大なドア。ドア1枚の長さはなんと約1.4メートルもあり、まるで観音開きのような解放感。しかしそれだけで終わらないのがアヴァンタイムのすごいところ。なんと、ワンタッチで4枚のウィンドウ(フロント・リア左右)+ガラスルーフを同時に全開にするボタンが備わっていたのです!その名も「グラン・トワール(Grand Toit=大きな屋根)」モード。まるで空と一体化したような感覚が味わえる、なんとも贅沢な機能でした。
インテリアも非常に凝っていて、ラウンジチェアのようなシートや、中央に浮かぶように配置されたインパネなど、機能とアートの融合を感じさせる造形が満載。センターコンソールには航空機風のトグルスイッチが並び、ドライバーズカーというよりは「指揮官席」のような雰囲気を持っていました。まさにクルマに乗ることが特別な体験になる、そんな空間づくりが意識されていたのです。
また、驚くべきことにこのクルマ、ボディの多くがアルミニウムとプラスチックの複合材で構成されています。これはマトラの得意とする軽量化技術を活かしたもので、重厚に見えて実は意外と軽やかという、ギャップ萌えポイントでもありました。
今でこそSUVやクロスオーバーが主流になっていますが、当時のアヴァンタイムはまさに“誰もやってないこと”を追求した先駆者。使い勝手よりも、**「どう感じるか」や「どう見えるか」**を重視したその設計思想は、今見ても鮮烈なインパクトを残しているのです。
わずか2年で消えた幻の名車? その短命ぶりが語るもの
ルノー・アヴァンタイムのデビューは2001年。しかし、その生産はわずか2年後の2003年には終了してしまいました。販売台数は世界でわずか8,557台程度。これほどまでに短命だった背景には、いくつかの要因が重なっていました。
まず最大の原因は、その独特すぎるコンセプトが市場にまったく刺さらなかったこと。2ドアで背が高く、ミニバン的なスペースがありながらスポーツカー的なルックスという、まるで「トライアングルの頂点を同時に狙った」ような設計は、多くのユーザーにとって“何を求められているのか分からない”という印象を与えてしまったのです。クーペが欲しい人には大きすぎ、ミニバンが欲しい人にはドアが少なすぎるという、ニッチすぎるポジションが裏目に出たのでした。
さらに、当時のルノーはラグナやメガーヌといった量販モデルの開発・販売に力を入れていた時期。アヴァンタイムのようなイメージリーダー的存在を支える余裕がメーカー側にもなかったという事情もあります。マトラとしても、生産設備をこの1台に頼っていたため、アヴァンタイムの不振はそのまま会社の経営危機にも直結しました。結果、アヴァンタイムの終焉とともに、マトラは自動車生産から完全撤退することになります。
とはいえ、今振り返るとアヴァンタイムはあまりにも先を行きすぎていたとも言えるでしょう。今の時代、クーペSUVやスタイリッシュなMPVは決して珍しくありません。むしろ、どこかアヴァンタイムのDNAを感じるようなモデルも増えています。時代が追いついていなかっただけで、コンセプト自体は間違っていなかったのかもしれません。
今やアヴァンタイムは、熱狂的なファンに支えられる“カルトカー”となっています。その特異な外見と圧倒的な個性は、街で見かけた人の記憶に必ず残る存在。短命だったがゆえに、「幻の名車」として伝説化したアヴァンタイム。その軌跡は、挑戦することの意味を私たちに静かに問いかけてくれているのかもしれません。
まとめ
ルノー・アヴァンタイムは、振り返ればまるで“未来を先取りしすぎた車”でした。クーペとミニバンを融合させた斬新な発想、大胆すぎるデザイン、そして「空と一体になる」ような開放感。そのすべてが、当時の常識を超えていました。
けれども、市場はその革新をすぐには受け入れられなかった。ユーザーの多くが「どう使えばいいのか分からない」と戸惑い、販売は低迷。わずか2年という短命で姿を消したことで、“失敗作”のレッテルを貼られてしまったのも事実です。
しかし今、その存在は再評価されつつあります。時代が変わり、個性を尊重する空気が高まったいまこそ、アヴァンタイムのようなクルマが求められているのかもしれません。むしろ「売れなかった」ことが、アヴァンタイムの魅力をより際立たせているとも言えるでしょう。
たった一度しか咲かなかった、けれども強烈に印象に残る花のように。アヴァンタイムは、ルノーというブランドの中でも特に異彩を放つ、“挑戦する者”の象徴だったのです。