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アルファロメオ・ジュリア スプリント GT:日常をレースに変えるイタリアの情熱

アルファロメオ・ジュリア スプリント GT 諸元データ

・販売時期:1963年~1966年
・全長×全幅×全高:4080mm × 1580mm × 1320mm
ホイールベース:2350mm
・車両重量:950kg
・ボディタイプ:2ドアクーペ
・駆動方式:FR(後輪駆動)
・エンジン型式:AR00502
・排気量:1570cc
・最高出力:106ps(78kW)/ 6000rpm
・最大トルク:14.7kgm(144Nm)/ 3000rpm
トランスミッション:5速MT
・サスペンション:前:ダブルウィッシュボーン / 後:リジッドアクスル・トレーリングアーム
・ブレーキ:前後ディスク
・タイヤサイズ:165HR14
・最高速度:約180km/h
・燃料タンク:46L
・燃費(参考値):約11km/L(欧州実測値ベース)
・価格:発売当時 約220万リラ(日本円換算で約90万円前後)
・特徴:
 - ベルトーネの名作デザイン、エレガントなクーペスタイル
 - 当時としては先進的な4輪ディスクブレーキを採用
 - レースシーンで活躍するGTシリーズの源流モデル

 

1960年代のイタリア車といえば、フェラーリランボルギーニのような華やかなスーパーカーがまず思い浮かぶかもしれません。しかし、日常使いにも、ワインディングにも、さらにはレーストラックでも輝ける万能型のスポーツクーペが存在していたことをご存知でしょうか?それが、今回ご紹介するアルファロメオ・ジュリア スプリント GTです。

このモデルは、1963年にデビューした“ジュリア”シリーズのスポーティなクーペ版であり、アルファロメオのイメージを一新した革新的な一台でした。今見ても古さを感じさせないシャープで端正なデザイン。その美しさを支えたのは、まだ20代だったジョルジェット・ジウジアーロのデザインと、名門カロッツェリアベルトーネのセンスです。

外見の美しさだけではなく、技術的にも当時としては非常に先進的。DOHCエンジンや4輪ディスクブレーキといったスペックを備え、軽快でダイレクトな走りは「小さなグランツーリスモ」として多くのドライバーを魅了しました。さらに後継モデルや高性能バージョンのベースにもなり、レースの世界でも名を馳せた実力派。

そんなジュリア スプリント GTの魅力を、今回はデザイン・走り・レースでの活躍という3つの視点から掘り下げていきます。エンスージアストならずとも、その魅力に惹きつけられること間違いなしです!

 

ベルトーネジウジアーロが生んだ美の結晶 ― ジュリアGTのデザイン哲学

アルファロメオ・ジュリア スプリント GTの最大の魅力のひとつは、その時代を超えて愛される美しいスタイリングにあります。クルマ好きなら誰もが一度は見惚れるであろうそのプロポーションは、イタリアンデザインの粋を極めた存在。しかも手がけたのは、当時まだ20代だったジョルジェット・ジウジアーロ。のちにフォルクスワーゲン・ゴルフやデロリアンDMC-12など、数々の名車をデザインすることになる彼の初期の代表作です。

このクーペがデビューした1963年、ジウジアーロはすでにカロッツェリアベルトーネのデザイン部門で頭角を現し始めていました。彼の描いたスケッチは、直線と曲線が絶妙に融合したクリーンなフォルムを持っており、それをベルトーネ実車化することで完成されたのがこのジュリアGT。フロントの“段付きノーズ”や滑らかに落ちるファストバックスタイルなど、細部にまで意匠が行き届いたそのボディラインは、まさに**「走る彫刻」**といえるでしょう。

加えて、このクルマのデザインがすごいのは、単に美しいだけではなく、機能性にも配慮されたバランス感にあります。視認性の高いガラスエリアや適度なキャビンの広さ、空力を意識したシンプルな面構成など、デザインと実用性を高次元で融合させていたのです。このアプローチは、後に「合理的で美しい」というジウジアーロの哲学となり、多くの車に受け継がれていきました。

つまりジュリア スプリント GTは、ジウジアーロという天才の才能が芽吹いた記念碑であり、同時にベルトーネクラフトマンシップが極まった芸術作品でもあるのです。イタリア車デザイン史において、これほど完成度の高い“量産型スポーツクーペ”はそう多くありません。

 

“ドライバーズカー”の原点 ― ジュリア スプリント GTの走りと技術

ジュリア スプリント GTが「名車」として語り継がれる理由は、見た目の美しさだけではありません。その走りの素晴らしさと、当時としては最先端だったメカニズムにこそ、このクルマの真の魅力が詰まっています。まさに“ドライバーズカー”という言葉がぴったりの存在です。

まず注目すべきは、心臓部に搭載された1570ccの直列4気筒DOHCエンジン。当時、DOHC(ダブルオーバーヘッドカムシャフト)を採用する量産車は非常に限られており、それを小型クーペに積んだアルファロメオの先進性には驚かされます。このエンジンは106psを発揮し、軽量な車体(約950kg)との組み合わせで、実にキビキビとした走りを見せてくれます。アクセルを踏み込んだ瞬間に反応するエンジンの吹け上がりは、まさに官能的。ドライバーの操作に忠実に応える素直な特性が、操る楽しさを倍増させます。

さらに驚くべきは、1960年代にして4輪ディスクブレーキを標準装備していたこと。これは当時の高級車でもまだ珍しかった装備で、安全性とスポーツ性能を両立させた非常に画期的な仕様でした。また、前後のサスペンション構造やバランスの良い重量配分、俊敏なステアリングフィールなど、まるで現代のライトウェイトスポーツのような感覚で運転できるのも、この車ならではのポイントです。

乗ればわかる、という言葉は陳腐かもしれませんが、ジュリアGTに関しては本当にその通り。見た目のクラシカルさに反して、ステアリングを握れば「えっ、これが60年前のクルマ?」と驚くほどに軽快で機敏なのです。機械と人間が一体になる感覚──今の電子制御に囲まれた車では味わえない、ピュアなドライビングプレジャーがここにあります。

 

レースでも活躍!GTAやGTVとの関係とモータースポーツでの栄光

アルファロメオ・ジュリア スプリント GTは、ただの美しい市販車にとどまらず、モータースポーツの世界でもその名を轟かせました。特に有名なのが、ジュリアGTをベースにしたレーシングモデル**「GTAGran Turismo Alleggerita)」**の存在です。Alleggeritaとはイタリア語で「軽量化された」を意味し、その名の通りGTAは徹底的な軽量化が施され、ホモロゲーションモデルとして華々しくデビューしました。

GTAはアルミニウムボディパネルの採用や、軽量なパーツの使用により、標準モデルよりも100kg以上軽い車重を実現。エンジンもチューニングが施されており、レース仕様では170ps近くを発揮するものもありました。このパワーと軽さを武器に、1960年代後半から70年代初頭にかけて、ツーリングカーレースで圧倒的な強さを誇ったのです。特にヨーロッパ・ツーリングカー選手権(ETCC)では、クラス優勝を何度も重ね、ジュリアGTAは名実ともに“勝てるクルマ”として記録にも記憶にも残る存在となりました。

また、GTAの影に隠れがちですが、日常的な走行性能とスポーツ性を両立させた**GT Veloce(GTV)**の登場も見逃せません。こちらはGTAほどストイックではなく、しかしエンジン出力の向上や内外装のグレードアップが図られ、ジュリアシリーズの中でもバランスの取れたモデルとして人気を博しました。まさに“日常の中のグランツーリスモ”といえる一台で、多くのファンに支持されました。

レースと市販車の距離がまだ近かったこの時代、アルファロメオは「日曜にはレースに出て、月曜にはそのまま通勤に使える」ようなクルマを本気で作っていたのです。ジュリアGTシリーズはその象徴的存在であり、GTAやGTVといった派生モデルを通して、モータースポーツと市民生活の橋渡しをしてくれました。“走る楽しさ”を極めるために生まれた本気のアルファロメオ、それがこの一連のモデルたちなのです。

 

まとめ

アルファロメオ・ジュリア スプリント GTは、そのデビューから60年以上が経った今も、多くの人の心を掴んで離さない名車です。ジョルジェット・ジウジアーロが若き日に描いた美しいラインは、まるでアート作品のような存在感を放ち、ベルトーネによって磨かれたそのスタイリングは、今も世界中のクラシックカーファンを虜にしています。

しかし、このクルマの本当の凄さは、見た目だけではありません。DOHCエンジンに4輪ディスクブレーキ、軽量ボディといった当時最先端のメカニズムを備え、まるでモダンスポーツカーのようなシャープなハンドリングを実現。その走行フィールは、現代の電子制御車では味わえない**ダイレクトな“人とクルマの対話”**を楽しませてくれます。

さらにGTAやGTVといった派生モデルでは、レースの世界でも圧倒的な実績を残し、アルファロメオの“走り”に対する本気度を示してきました。モータースポーツと市販車の垣根が曖昧だった時代に生まれた、まさに“レース直系の市販車”です。

ジュリア スプリント GTは、単なるクラシックカーではありません。**デザイン、技術、走り、すべてを本気で追求した“イタリアの魂”**そのものなのです。だからこそ、多くの人が今もこのクルマに憧れ、愛し、走らせ続けているのでしょう。