ルノー・ウインド(1.6 16V)諸元データ
・販売時期:2010年~2013年(欧州)
・全長×全幅×全高:3833mm × 1689mm × 1381mm
・ホイールベース:2368mm
・車両重量:1175kg
・ボディタイプ:2ドアコンバーチブル
・駆動方式:FF(前輪駆動)
・エンジン型式:K4M
・排気量:1598cc
・最高出力:133ps(98kW)/6750rpm
・最大トルク:16.3kgm(160Nm)/4400rpm
・トランスミッション:5速MT
・サスペンション:前:マクファーソンストラット / 後:トーションビーム
・ブレーキ:前:ベンチレーテッドディスク / 後:ディスク
・タイヤサイズ:前後とも195/45R16
・最高速度:201km/h
・燃料タンク:40L
・燃費(欧州複合モード):約14.5km/L
・価格:新車時 約17,500ユーロ(当時)
・特徴:
- 電動ハードトップ採用(開閉12秒)
- トゥインゴと同じプラットフォームをベースに専用チューニング
- 2シーター仕様のみ設定
「屋根が開くコンパクトカー」と聞くと、どこかクラシカルなイメージを持つかもしれません。しかし2010年、ルノーが放ったウインドは、そんな常識を軽々と飛び越えた存在でした。小柄なボディに秘められた大胆なギミック、そして思いがけないほどスポーティな走り。その独特なキャラクターで、当時の欧州カーシーンに鮮烈な印象を残したのです。
電動ハードトップをわずか12秒で開閉できる仕組みは、まるで未来のコンパクトカーを思わせるものでしたし、トゥインゴをベースにしながらも独自のシャシーセッティングを施すことで、単なる派生車種に留まらない個性を放っていました。小さなクルマながら、乗る人にしっかりと「特別感」を感じさせてくれる仕上がりは、まさにルノーならでは。
けれど、そんなウインドにも思わぬ試練が待っていました。販売台数は伸び悩み、惜しまれつつ短命に終わってしまうのです。それでも、今改めて振り返ってみると、ウインドはただ珍しいだけの存在ではなく、「小さなクルマに夢を詰め込む」ルノーの情熱がギュッと詰まった一台だったことがよく分かります。今回は、そんなウインドの魅力と、知られざるストーリーに迫っていきましょう!
大胆すぎるルーフ機構!わずか12秒でオープンする秘密
ルノー・ウインド最大の見せ場、それはなんといっても電動ハードトップの開閉機構です。他のカブリオレのように布製のソフトトップを畳むわけでも、通常のハードトップのように屋根を複雑に折りたたむわけでもありません。ウインドのルーフは「ごろん」と後ろにひっくり返るという、一風変わった方法で開閉するのです。
仕組みはシンプル。ドライバーがボタンを押すと、まずルーフロックが解除され、そのままルーフ全体が後方に回転。ボディ後端にすっぽりと収まるように設計されています。この一連の動作にかかる時間はたったの12秒。信号待ちのあいだにすら余裕でオープンできるこのスピード感は、当時としてもかなり画期的でした。
さらに特筆すべきは、開閉のスマートさだけでなく、ルーフ収納時もラゲッジスペースがほとんど犠牲にならないこと。普通、オープンカーにするとトランク容量が激減するのが悩みの種ですが、ウインドでは実に270リットルものスペースを確保。週末の小旅行ぐらいなら難なくこなせる実用性を備えていたのです。
この独特なルーフ構造のおかげで、ウインドは単なるコンパクトカーではなく、日常と非日常をボタンひとつで行き来できる“魔法の乗り物”として多くの注目を集めました。ルノーの遊び心とエンジニアリングの妙技が、コンパクトカーという枠に収まらない自由さを与えていたのです。
小さなボディに秘めたスポーティな走り
ルノー・ウインドは、単なる「オシャレなだけのオープンカー」ではありませんでした。見た目はキュートでも、その中身にはルノーらしい本気の走りへのこだわりがしっかりと詰まっていたのです。
ウインドは、当時のトゥインゴⅡをベースにして開発されました。ただし、「同じプラットフォームだから似たような乗り味だろう」と思ったら大間違い。ルノー・スポール(ルノーのスポーツ部門)が監修し、ボディ剛性の大幅な強化やサスペンションの専用チューニングが施されていたのです。これにより、オープンカー特有の「ボディがねじれる」ような感覚が驚くほど抑えられ、コーナリング時でも車体がビシッと安定する仕上がりになっていました。
搭載されるエンジンは、1.6リッター自然吸気で133馬力を発揮。数字だけ見ると派手さはありませんが、軽量な車体と組み合わさることで、街中ではキビキビとした加速感、高速道路では思いのほか力強い伸びを見せてくれます。加えて、5速マニュアル・トランスミッションのシフトフィールも軽快で、「クルマを操っている」という楽しさをダイレクトに味わえるのが魅力でした。
小さなボディと適度に引き締まった足回りがもたらす機敏な動きは、まるでカートのような感覚さえあります。コンパクトカーとはいえ、そこには確かに「走る楽しさ」を最優先に考えたルノーの哲学が息づいていました。可愛らしい見た目に油断して乗り込むと、思わずニヤリとしてしまう。このギャップこそが、ウインドの隠れた大きな魅力だったのです。
評価は上々だった…けれど?ウインドの世界販売とその行方
ルノー・ウインドは登場当初、欧州のメディアやカーファンから概ね好意的な評価を受けました。特に称賛されたのは、やはりそのユニークな電動ハードトップ機構と、コンパクトなボディでありながら本格的なスポーツ走行を楽しめる走り味です。ヨーロッパでは「気軽に日常使いできるスポーツカー」として、ある種のオシャレアイテム的な立ち位置を確立していたのです。
特にフランス本国では、ラテン系の陽気な気質に合ったのか「可愛いのに走りが本格派」という絶妙なバランスが高く評価されていました。イギリスの自動車評論サイトでも、「手頃な価格でオープンカーの喜びを味わえる一台」として紹介されるなど、ウインドはデビュー当初からしっかりと注目を集めていたのです。
しかしながら、ウインドの販売成績は決して順風満帆とはいきませんでした。世界全体の販売台数は、推定でわずか13,000台程度に留まります。なぜここまで数が伸びなかったのでしょうか。その最大の要因は、ウインドが2シーター専用だったことにあります。コンパクトカーの主な購入層は、やはり日常の利便性を重視するファミリーユーザーが中心。そんな中で、積極的に「遊びグルマ」を選ぶ層は限られていました。
また、発売から間もなくして欧州では経済危機の余波もあり、実用性を重視するムードが広がっていたことも逆風となります。さらに、ルノー自身も販売網の中でウインドを強力にプッシュする体制を整えきれず、結果として、目立たないままカタログから姿を消すことになったのです。
評価は決して悪くなかった、むしろポジティブだったにもかかわらず、市場とのちょっとしたズレがウインドの運命を左右してしまった──そんな少し切ないエピソードが、ウインドのストーリーには隠れているのです。
まとめ
ルノー・ウインドは、小さなボディにたっぷりと夢を詰め込んだ、まさに「遊び心のかたまり」のような存在でした。大胆な電動ハードトップの仕掛け、軽快な走り、そして日常にも非日常にも寄り添う使い勝手の良さ。どれを取っても、ルノーらしいクリエイティビティと技術力が光る一台だったと言えるでしょう。
一方で、その魅力が最大限に伝わりきらなかった現実もまた、ウインドの物語の一部です。2シーターという割り切ったパッケージングは、熱心なクルマ好きには刺さったものの、一般市場には少しハードルが高かったのかもしれません。そして、経済状況の変化や実用性重視の流れに押され、ウインドはわずか数年で姿を消すことになりました。
とはいえ、今あらためて振り返ると、ウインドは単なる「短命なモデル」ではなく、ルノーが本気で「クルマでワクワクする気持ち」を提案しようとした挑戦の象徴だったと感じます。中古市場では今もファンの間でひっそりと愛されており、「知る人ぞ知る」存在感を放ち続けています。屋根を開けるたびに、子どものようにワクワクできる──そんなクルマ、そうそうあるものではありません。