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アルファロメオ・GTV:デザイン・サウンド・情熱、すべてを纏った1台

アルファロメオ・GTV 3.0 V6 24V  諸元データ

・販売時期:1998年〜2003年
・全長×全幅×全高:4290mm × 1780mm × 1310mm
ホイールベース:2540mm
・車両重量:1430kg
・ボディタイプ:2ドアクーペ
・駆動方式:FF(前輪駆動)
・エンジン型式:V6 24V(通称:ブッソエンジン)
・排気量:2959cc
・最高出力:220ps(162kW)/ 6300rpm
・最大トルク:27.8kgm(273Nm)/ 5000rpm
トランスミッション:6速MT(または5速MT)
・サスペンション:前:ダブルウィッシュボーン / 後:マルチリンク
・ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
・タイヤサイズ:前後共に205/50R16
・最高速度:約240km/h
・燃料タンク:63L
・燃費(参考値):約8〜9km/L(欧州複合モード相当)
・価格:約450万円(当時の日本導入価格)
・特徴:

 

イタリア車といえばフェラーリ?それともフィアット?いや、“情熱”という言葉が一番似合うのは、やっぱりアルファロメオではないでしょうか。その中でも90年代後半に登場した「アルファロメオ・GTV」は、クーペスタイルの美しさとドライバーの心を震わせるような走りを兼ね備えた、まさに「アルファらしさ」を体現した1台です。

1995年にデビューしたGTVは、長く沈んでいたアルファロメオが再び輝きを取り戻すために送り出した意欲作。特にデザインはピニンファリーナが手がけており、そのくさび型シルエットは今でも語り草です。加えて、搭載されたブッソV6エンジンが奏でるサウンドは、まるでイタリアンオペラのように官能的。ドライビングの快楽とスタイルの美学、両方を欲張りたい人にはたまらない存在でした。

今回はそんなアルファロメオ・GTVの魅力を、デザイン・走行性能・そしてアルファ復活の象徴としての役割という3つの観点から掘り下げてご紹介していきます。映画やアニメの中でも存在感を放ったその姿、ちょっと気になるでしょう? さぁ、情熱のイタリアンクーペの世界へ、ご案内します。

ピニンファリーナが描いた“走る芸術”

アルファロメオ・GTVの魅力を語るうえで、まず避けて通れないのがそのデザインです。1995年に登場したこのクーペは、名門カロッツェリアピニンファリーナ」によって仕立てられました。当時のチーフデザイナーだったエンリコ・フミアの指揮のもとで生まれたこのモデルは、直線と曲線が絶妙に融合したくさび型のフォルムで、見るものすべてを虜にします。

特に特徴的なのが、低く構えたフロントノーズと、彫刻のように立体的なリアエンド。サイドから見たときのラインは実に美しく、風を切るようなシルエットが“走る芸術”と称される理由も納得です。また、当時としては珍しい「リアエンドを切り落としたような」スタイルは空力性能にも貢献しており、機能美と芸術性を兼ね備えたクーペといえるでしょう。

内装もまた、イタリアらしい洒落っ気が効いています。運転席に座ると、ドライバーを包み込むようなコクピットデザインが印象的で、メーター配置やスイッチ類のレイアウトもドライビングプレジャーを高める作りになっています。赤やタンといった情熱的な内装カラーも選べ、ファッションの一部としてクルマを楽しむというアルファロメオならではの提案が感じられます。

現代の車が空気抵抗や安全基準に縛られて「どれも似たような形」になってしまった今、GTVのデザインは逆に個性の塊のように映ります。ピニンファリーナが仕立てたその姿は、ただの移動手段ではなく「所有する喜び」や「眺める歓び」を与えてくれる、まさに心に響く作品です。

ブッソV6の官能と実力

アルファロメオ・GTVを語るとき、その魅力の半分以上は「エンジン」にあると言っても過言ではありません。特に上位グレードに搭載された「3.0リッターV6 24バルブ」は、“ブッソV6”という愛称でファンから親しまれている名機です。

この“ブッソ”という名前は、かつてアルファロメオのエンジニアだったジュゼッペ・ブッソ氏に由来します。彼が中心となって開発したV6エンジンは、1979年に登場して以来、様々なアルファ車に搭載され、官能的なフィーリングで世界中のファンを魅了しました。特徴的なのはその見た目。吸気マニホールドの美しいカーブが並ぶエンジンヘッドは“芸術品”とすら呼ばれ、ボンネットを開けてうっとり見とれてしまうオーナーも少なくありません。

そしてその音。エンジンをかけると、まるでテノール歌手が歌い出すかのような濃密なサウンドが響き渡ります。アクセルを踏み込めば、吸気音と排気音が重なり合い、官能的でエモーショナルな世界へとドライバーを誘ってくれるのです。数字上は220馬力ほどと現代の車に比べて突出しているわけではありませんが、そのレスポンスとトルク感、そして五感に響く演出が何より魅力です。

また、GTVはFF(前輪駆動)ながらも、足まわりにはダブルウィッシュボーンマルチリンクが採用され、ヨーロッパのワインディングロードを気持ちよく駆け抜けるための設計がなされています。特にステアリングフィールの自然さとリアのしっかりした踏ん張り感は、スポーツカーとしての本気度を感じさせるものでした。

エンジンひとつで車の価値が決まるとするならば、このGTVはその最たる例です。ブッソV6という歴史的傑作が生んだ“音楽と走りのハーモニー”、一度味わったら、もう戻れなくなるかもしれません。

アルファロメオ復活の兆しと、再び火が灯った情熱

1990年代初頭、アルファロメオは経営的に苦境に立たされていました。フィアットグループの傘下に入ったとはいえ、「アルファらしさ」を失いつつあるという声も多く、ブランドの再生が急務だった時代です。そんな中で登場したのが「GTV」と「スパイダー」という2台のクーペ。この2台は単なる新型車ではなく、アルファロメオが再び情熱を取り戻すための“狼煙”でした。

GTVは開発コード「プロジェクト916」によって完全新設計されたモデルで、シャシーこそフィアットグループと共有しながらも、サスペンションやハンドリング、ブレーキ性能に至るまで徹底的にアルファ流に作り込まれました。ピニンファリーナによる前衛的なデザインと、官能的なブッソV6が与えられたGTVは、単なるスタイル重視のクーペではなく、真に“走り”を愛する人のためのマシンとして仕上げられていたのです。

特筆すべきは、このGTVがきっかけとなり、アルファロメオに再び熱い視線が注がれ始めたことです。それまでの「壊れるけどカッコいい」というイメージに加えて、「また走りが楽しくなった」という評価が戻りはじめ、GTVをきっかけに156や147といった次世代モデルが相次いで成功を収めました。言い換えれば、GTVは“再建の始まり”を象徴するクルマだったのです。

そして、そんなGTVは日本でも密かな人気を博しました。台数は限られていましたが、その分コアなファンが多く、現在でもGTVを愛し続けるオーナーズクラブが存在します。街で見かければ思わず振り返る独特のスタイル、エンジン音、存在感――それらすべてが、「自分だけのアルファロメオ」という特別感を持たせてくれる1台。GTVは、時代が変わってもなお、“情熱の炎”を宿したまま走り続けているのです。

まとめ

アルファロメオ・GTVは、単なる2ドアクーペという枠に収まらない、まさに“情熱の再誕”を告げる存在でした。ピニンファリーナの手による彫刻のようなスタイリングは、いま見ても色褪せることなく、路上でひときわ目を引く美しさを誇ります。そして、ジュゼッペ・ブッソの名を冠したV6エンジンは、ただ走るだけではなく、ドライバーの心を震わせる音と感触をもたらしてくれました。

GTVの登場は、アルファロメオにとってブランド再生の第一歩であり、スポーツカーとしての誇りを取り戻す大きな転機でもありました。それまでの「壊れやすいがカッコいい」というイメージから、「走って楽しい、そして所有する喜びを与えてくれる」というポジティブな存在へと進化したのです。

そして今、GTVはクラシックの仲間入りを果たしつつあります。中古市場では熱心なファンによって根強い人気を保ち、イベントでもその姿が注目を集める1台。機械としての魅力はもちろん、ストーリーを宿した1台として、GTVは“語る価値のあるクルマ”なのです。