BMW・Z1 諸元データ
・販売時期:1989年~1991年
・全長×全幅×全高:3921mm × 1690mm × 1277mm
・ホイールベース:2444mm
・車両重量:1250kg
・駆動方式:FR(後輪駆動)
・エンジン型式:M20B25
・排気量:2494cc
・最高出力:170ps(125kW)/ 5800rpm
・最大トルク:22.4kgm(220Nm)/ 4300rpm
・トランスミッション:5速MT
・サスペンション:前:ストラット / 後:マルチリンク
・ブレーキ:前後ディスク
・タイヤサイズ:前後とも205/55R15
・最高速度:225km/h
・燃料タンク:55L
・燃費(推定・欧州複合モード):約10km/L
・価格(新車時・ドイツ国内):約8万ドイツマルク
・特徴:
・垂直に格納される“ドロップダウンドア”
・樹脂製ボディパネルを採用した近未来的デザイン
・BMW社内の研究部門から誕生した実験的スポーツカー
1980年代後半、ドイツのアウトバーンを駆け抜けるクルマたちの中に、ひときわ異彩を放つモデルが現れました。それがBMW・Z1です。見るからに未来的なフォルム、そして何より“ドアが下に消える”という驚きのギミックに、誰もが「えっ!?」と二度見してしまったことでしょう。そんなZ1は、ただのデザイン重視のショーカーではなく、れっきとした市販車。しかもBMW社内の研究所で生まれた、ちょっと風変わりで情熱的な一台なのです。
生産されたのはわずか8000台ちょっと。2年弱という短命なモデルにもかかわらず、今なお世界中に熱烈なファンを持つのは、きっとその“普通じゃない”存在感のおかげでしょう。量産モデルには似つかわしくない挑戦的な設計と、BMWらしい走りの良さ。その絶妙なバランスは、まさに実験車両とプレミアムスポーツの中間地点。
今回はそんなBMW・Z1の魅力を、3つの切り口からご紹介していきます。「見た目で惚れた」「中身にしびれた」「今でも欲しい」と言わせるこのクルマ、一体どんな秘密が隠されているのでしょうか?それでは、Z1ワールドの入り口へどうぞ!
“ドアが消える!?” 驚きの垂直格納式ドアと独創的デザイン
BMW・Z1の最大のトレードマークといえば、やはり“ドロップダウンドア”と呼ばれる垂直格納式のドアでしょう。一般的な車のドアは横に開くか、スポーツカーなら上に跳ね上がるものもありますが、Z1のドアはまるで魔法のように車体の下にスルスルと沈み込んでいくのです。この仕組みには、見た目のインパクト以上に、風の流れを邪魔しない空力的な発想や、コンパクトな駐車スペースでも乗り降りできるといった実用性も含まれていました。
もちろん、ここまで変わった仕掛けを採用した背景には、Z1が「量産モデルというより実験車」として開発された経緯があります。BMW社内の研究開発部門「Zentrum für Forschung und Technik」が手がけたZ1は、既存のルールに縛られない自由な発想から生まれました。ドア以外にも、ボディパネルはすべて熱可塑性樹脂製で、工具を使えば簡単に着脱が可能。つまり、ユーザーが自分好みに着せ替えできるような、未来志向のクルマだったのです。
一方で、こうした独創的な仕組みには技術的な課題もありました。ドロップダウンドアはメカニズムが複雑で、メンテナンス性や耐久性には不安がつきまといましたし、雨天時の水の浸入も問題視されました。それでもZ1の魅力はそこにあります。「普通じゃない」を楽しむための1台、見た人の記憶に強烈に残る存在感。それこそがZ1が特別なクルマであり続ける理由なのです。
「Z」始まりの一歩――BMWテクノロジー研究所が作った情熱の塊
BMW・Z1の誕生は、1980年代後半に社内で立ち上がった先進技術開発部門「Zentrum für Forschung und Technik(ZFT)」によるものでした。名前にある“Z”は、まさにこのZentrumの頭文字。つまり、Z1はBMWの実験精神とテクノロジーへの情熱を詰め込んだ、社内ベンチャー的存在だったのです。この部門では、未来のクルマづくりに必要な素材、製造技術、安全性など、あらゆる観点から“挑戦”を繰り返しており、Z1はその成果を具現化したショーケース的モデルでもありました。
開発は1985年に極秘裏にスタートし、たった3年後の1988年にはプロトタイプが完成。通常、企画から製品化まで5〜7年を要する自動車業界において、このスピードは異例中の異例でした。そしてなにより、Z1は“作ることそのもの”が目的の車でもありました。どれだけ奇抜なアイデアを、市販車という形に落とし込めるのか?この命題に真っ向から挑んだのが、Z1だったのです。
ちなみにZ1のベースとなったのは、BMW・3シリーズ(E30型)のプラットフォーム。とはいえ、サスペンションはZ1専用のダブルウィッシュボーン式で、当時の3シリーズには存在しない独立した足回り構成となっています。つまりZ1は、既存の部品を使いながらも、根っこから個性を育てられた特別な存在。それでいて、BMWらしい駆け抜ける歓びはきちんと宿っている。この“自由と品質の両立”が、Z1の真の凄みと言えるでしょう。
日本にもファン多数!Z1が巻き起こしたカルチャーと今の評価
BMW・Z1が初公開されたのは1987年のフランクフルトモーターショー。異様なルックスと奇想天外なドア機構に、世界中のメディアが騒然となりました。「これは本当に市販されるのか?」という疑問の声をよそに、BMWは翌年から市販をスタート。ドイツ国内を中心に予約が殺到し、当初計画していた3,000台を大幅に上回る8,000台以上が生産される結果となりました。
とくに興味深いのが、日本市場での人気ぶりです。1980〜90年代、日本では「輸入車ブーム」が巻き起こっており、その中でもZ1は“通好み”の一台として熱狂的な支持を受けました。自動車雑誌ではたびたび特集が組まれ、独自のスタイルを持つユーザーたちがZ1を街中で走らせる姿は、ある種のカルチャーアイコンにもなったのです。また、当時の日本はバブル経済の真っ只中。数百万円するZ1をあえて選ぶという行為そのものが、“自分らしさ”を主張するステータスだったのかもしれません。
そして現在、Z1は“クラシックBMW”のなかでも非常に特別な立ち位置にあります。日本国内でも中古市場ではコンディションの良い個体は希少で、価格は安定して高値をキープ。さらにパーツ供給や整備の問題があるにもかかわらず、いまなおZ1を大切に所有しているオーナーが多いのは、この車が単なる移動手段以上の“物語”を持っているからでしょう。ドアが消える、ボディが着せ替えできる、未来から来たようなZ1。30年以上経ってもなお、その存在は色あせることがありません。
まとめ:常識を壊して、伝説になったロードスター
BMW・Z1は、ただのスポーツカーではありませんでした。既成概念にとらわれず、自由な発想と挑戦を形にした、まさに“走る実験室”とも言える存在です。垂直に沈むドアに驚き、樹脂製ボディに驚き、さらに走ればBMWらしい軽快なフィーリングに惚れる。そんな三段構えの魅力が、Z1のファンを世界中に生んだ理由かもしれません。
生産台数はわずか8,000台あまり。その短い生涯は、当時のBMWにとっては“未来のための投資”でしたが、結果的にその精神は後続のZ3やZ4へと受け継がれ、Zシリーズという系譜を築き上げることになります。つまりZ1は、BMWが“遊び心”を大真面目に実現した、その原点でもあったのです。
見た目に一目惚れしてもよし、メカニズムに痺れてもよし。Z1は、今なお「なんだこれは!?」と人の心をつかむ魔力を持った、伝説のロードスターです。あなたもきっと、一度見たら忘れられないはず。