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BMC・ミニ・モーク:軍用車から生まれた、世界一ゆるかわレジャーカー

BMC ミニ・モーク(初期型)諸元データ

・販売時期:1964年〜1993年(※地域やブランドにより異なる)
・全長×全幅×全高:3050mm × 1440mm × 1350mm
ホイールベース:2030mm
・車両重量:約620kg
・駆動方式:FF(前輪駆動)
・エンジン型式:Aシリーズ
・排気量:848cc〜998cc(モデルにより異なる)
・最高出力:34ps(25kW)/ 5500rpm
・最大トルク:6.1kgm(60Nm)/ 3000rpm
トランスミッション:4速MT
・サスペンション:前:ラバーコーン式 / 後:ラバーコーン式
・ブレーキ:ドラム式(前後)
・タイヤサイズ:145/80R10(ミニと同一サイズ)
・最高速度:約100km/h
・燃料タンク:27L
・燃費(推定):約14〜16km/L
・価格:英国発売当時で約400ポンド
・特徴:
 - ミニと共通のプラットフォーム
 - 軍用車両としての設計思想が残る軽量設計
 - 完全オープンで簡素なつくりがレジャー車として人気

 

見た瞬間に「なにこれ、かわいい!」と声が出ちゃうような、不思議な存在感。BMC・ミニ・モークは、そんな“ゆるかわオフローダー”です。屋根もドアもない、鉄パイプと鉄板だけでできたようなボディに、カラフルなボディカラー。海辺にぴったりなそのスタイルから、サーファーやリゾート地の住人たちに愛されてきました。

でも実はこの車、出発点はかなりガチめ。なんと軍用車として開発されていたんです。えっ、こんな平和そうな見た目で!?と思わずツッコミたくなるけど、そこがまた面白いところ。

この記事では、そんなミニ・モークのちょっと変わった誕生ストーリーから、世界中のレジャーシーンで大活躍した理由、そして現代に蘇っている最新の姿まで、ぎゅっとまとめて紹介していきます。クルマ好きもそうでない人も、「こんなクルマもあるんだ!」とワクワクしてもらえるとうれしいです。

軍用車として生まれた!?モークのちょっと意外なルーツ

可愛らしい見た目と開放感たっぷりのデザインが印象的なミニ・モークですが、実はそのルーツはかなり異色。なんと、もともとは軍用車として開発されていたのです。

1960年代初頭、イギリス陸軍が求めたのは「パラシュートで空から投下できる小型車両」。そこで白羽の矢が立ったのが、あの名車「ミニ」の開発者アレック・イシゴニスでした。ミニと同じく前輪駆動・横置きエンジンを採用し、軽量でコンパクトな車体を骨組みだけのシンプルな構造に仕上げ、軍用プロトタイプが誕生します。

しかし現実は厳しく、地上でのテストを行うと、車高が低すぎて悪路走破性が致命的に不足していることが判明。ぬかるみや段差のある地形では、まったく進めなかったのです。結果、軍用車としての採用は見送られることに。

それでも開発陣は諦めませんでした。このユニークなスタイルと軽快な構造は、むしろレジャー用途として親しまれるのではないか。そうした発想の転換から、1964年に「ミニ・モーク」として一般販売がスタートします。軍事用の真面目な目的から生まれたにもかかわらず、その後はまさに“遊び心”を象徴する存在へと変貌を遂げていくのです。

レジャーカーとして世界中で愛された理由とカルチャー的存在感

軍用車としての道は閉ざされたミニ・モークでしたが、そのユニークなスタイルと軽快なキャラクターは、まったく別の世界で脚光を浴びることになります。特に注目されたのは、ビーチリゾートやサーフカルチャーとの相性の良さでした。

モークの魅力は、なんといってもその開放感。ドアも屋根もない潔い設計は、むしろ「外で遊ぶためのクルマ」としてぴったりでした。海辺に停めて濡れたまま乗り込んでも気にならないシンプルな内装、手荒に扱ってもびくともしないタフな構造。そして、必要最低限の装備しか持たないそのスタイルは、自由を楽しむ人々にとってちょうどいい“相棒”だったのです。

とりわけ人気を博したのが、オーストラリアやハワイ、カリブ海の島々など、常に太陽と潮風に包まれる土地。サーフボードを積んでビーチを走るモークの姿は、まさに絵になる光景でした。そんな雰囲気が評価され、モークは映画やテレビにもたびたび登場します。中でも有名なのは、『007』シリーズの『ユア・アイズ・オンリー』。ボンドカーといえば高級スポーツカーのイメージですが、モークが颯爽と登場したことで、その親しみやすさとユニークさがさらに注目されることとなりました。

こうしてミニ・モークは、単なる移動手段ではなく、ライフスタイルを象徴するカルチャーアイコンとして存在感を放つようになっていきます。

世界を巡ったモークと、現代に続く再評価の波

イギリスで生まれたミニ・モークは、その個性的な魅力を武器に、やがて世界中へと羽ばたいていきます。特に需要が高まったのはオーストラリアでした。温暖な気候とアウトドア文化にマッチしたこともあり、BMCは1966年から現地生産を開始。オーストラリア仕様はよりパワフルなエンジンと強化されたボディ構造を備え、「オージーモーク」として独自の進化を遂げていきます。

その後、生産はポルトガルへと引き継がれ、1993年まで製造が続けられました。製造地によって細部のデザインや装備に違いが見られ、ファンの間では「どこのモークか」によってコレクション対象が分かれるほど。それぞれの地域で親しまれ、その地の風景に溶け込んでいったのもモークの魅力の一つです。

そして今、このユニークな存在はふたたび注目を集めています。クラシックカーとしての価値が見直されているのはもちろんのこと、2020年代に入り、電動モデルとして「MOKE International」がEV仕様のミニ・モークを発表。レトロな外観はそのままに、現代のサステナビリティや静音性能を取り入れた“新生モーク”が登場しました。

約60年の時を経てもなお、ミニ・モークは「自由」「遊び」「個性」を象徴する存在であり続けています。その姿はこれからも、いろんな街や海辺で、風を感じながら走り続けてくれそうです。

まとめ

BMC・ミニ・モークは、いわゆるスペック重視のクルマとはまったく違います。でもだからこそ、その存在は際立っていました。軍用車として生まれ、レジャーで愛され、世界中を旅して、今は電動モデルとして再び走り出している。こんなにもドラマチックな歩みを辿ったクルマ、ちょっと他にはありません。

ボディはシンプル、装備も最低限。それでもモークは、多くの人に「クルマって楽しいよね」と思わせてくれる存在でした。派手ではないけど個性的、速くはないけどワクワクする。そんなクルマがひとつあるだけで、日常がちょっと特別なものになる気がします。

もし、クルマに“癒し”とか“遊び”を求めたくなったら、ミニ・モークのことを思い出してみてください。きっと、カーライフの新しい扉が開くはずです。