アルファロメオ・ミト(2009年モデル)諸元データ
・発売時期:2009年1月(日本導入)
・全長×全幅×全高:4,070mm × 1,720mm × 1,460mm
・ホイールベース:2,510mm
・車両重量:1,180kg
・駆動方式:FF(前輪駆動)
・エンジン型式:1.4L 直列4気筒 ターボ
・最高出力:155ps(114kW)/ 5,500rpm
・最大トルク:23.5kgm(230Nm)/ 3,000rpm(スポーツボタンON時)
・トランスミッション:6速マニュアル(当初)、後に6速デュアルクラッチ「TCT」も導入
・サスペンション:前:マクファーソンストラット式 / 後:トーションビーム式
・ブレーキ:前後ディスク(前ベンチレーテッド)
・タイヤサイズ:215/45 R17
・燃費(JC08モード):約13.6km/L
・価格(日本発売当時):約299万円(MiTo 1.4Tスポーツパッケージ)
イタリアの名門、アルファロメオが2008年に放ったコンパクトなハッチバック「MiTo(ミト)」。コンパクトカーというと実用性や経済性が重視されがちですが、このミトはそんな常識を覆す存在でした。見た目はあのスーパーカー「8Cコンペティツィオーネ」を思わせるセクシーなフェイスライン、そしてドライバーの心を掴む走りの味付け。まるで“小さなアルファロメオ”というより、“情熱を凝縮したカプセル”のような存在でした。
「MiTo」という名前は、ミラノ(Mi)とトリノ(To)を繋ぐ造語。スタイリングを担ったのがファッションとデザインの都ミラノ、そして生産を担ったのが工業都市トリノ。まさにイタリアの美と技の融合を象徴する車名なのです。小さなボディに秘められたその意味、そして意外と知られていないフェラーリ直系のテクノロジーまで、今回はこの小さな情熱の塊=ミトの魅力をじっくり掘り下げてみたいと思います。
ベイビー・アルファの誕生:ミトという名前に込められた想い
アルファロメオ・ミト(MiTo)という名前、一度聞いたら忘れられない語感ですよね。でも実はこれ、単なる愛らしい響きだけではありません。「MiTo」とは、イタリアのミラノ(Milano)とトリノ(Torino)を繋ぐ造語なのです。スタイリングを生んだのがミラノ、そして生産の地はトリノ。この2都市の頭文字を組み合わせることで、イタリアを代表する“美”と“技術”の融合を表現したというわけです。
しかし、この車名にはもうひとつの意味も込められています。それがイタリア語で「神話」や「伝説」を意味する「mito(ミト)」という言葉。アルファロメオというブランドの“神話”を、次世代へと引き継ぐ役割を担った車――そんな使命も込められているのです。ちょっと詩的すぎるって? でもそれがアルファロメオの魅力、イタリア車の魔力でもあります。
ミトは2008年、同社のBセグメントモデルとして登場しましたが、その背景には当時のアルファロメオが掲げた“若返り”戦略がありました。より若い層にアルファロメオというブランドを知ってもらうため、スタイリッシュで運転が楽しいコンパクトカーを投入しようという試みです。結果として、この車は「ベイビー・アルファ」とも呼ばれ、多くのファンに愛される存在となっていきました。
ジュリエッタの弟分?いいえ、フェラーリ直系のDNAです
アルファロメオ・ミトを語るとき、多くの人が「ジュリエッタの弟分」と紹介します。確かにサイズ的にはそうかもしれません。でもミトの中身を知れば知るほど、「ただの弟分」ではないことに気づきます。というのも、この小さなボディにはフェラーリ直系とも言えるテクノロジーが込められていたからです。
注目すべきは「DNAシステム」と呼ばれるドライブモードセレクター。これはDynamic(ダイナミック)、Normal(ノーマル)、All Weather(オールウェザー)の3モードを切り替えることができる機構で、アクセルレスポンスやステアリングの重さ、さらにはESC(横滑り防止装置)の介入具合まで変化させることができます。おもしろいのは、このシステムのチューニングを担当したのが、なんとフェラーリの開発チームだという点。えっ、そんな大層な話が軽自動車サイズの小型車に?と思うかもしれませんが、これは事実です。
実際にDynamicモードにすると、ミトの性格はガラッと変わります。まるで背伸びして「スポーツカーごっこ」をしているわけではなく、しっかりとした“アルファロメオの血”を感じさせてくれる走りに。軽やかで回転の伸びが気持ちいいターボエンジンのフィーリングと、欧州車らしい硬めの足回りのマッチングは、コンパクトカーの枠を超えた魅力がありました。見た目だけじゃない、中身にも“情熱”が詰まっている。それがミトの真骨頂です。
アルファロメオ最後の“Bセグメント”スポーツか?
2008年にデビューしたミトは、アルファロメオにとって初の“プレミアム・コンパクト”として注目を集めました。しかし10年後の2018年、静かに生産終了。華々しい幕開けに比べて、その終わりはややあっけないものでした。それは単なるモデル末期による終売だったのか?いいえ、もう少し深い背景があります。
当時のアルファロメオは、ブランド再建に向けて大きな舵を切っていました。その軸となったのが「高性能・高価格帯へのシフト」です。ジュリアやステルヴィオといったFRプラットフォームを用いたモデルへ注力する一方で、ミトのようなコンパクトカーはブランドイメージとそぐわないと判断されてしまったのです。結果、アルファロメオのラインナップからBセグメントは姿を消すことになりました。
さらにBセグメント市場自体が、SUVやクロスオーバーに取って代わられる形で縮小していたのも大きな理由です。欧州では小型ハッチバックよりも、より使い勝手が良くてデザインも派手なコンパクトSUVのほうが人気に。ミトはその波にうまく乗ることができませんでした。こうして、ミトは**アルファロメオ最後の“ピュア・コンパクトスポーツ”**として、その歴史に幕を下ろしたのです。
でも今でも、ファンの間では「ミトの復活を!」という声が根強くあります。なにせ、あのサイズでこの情熱を詰め込んだ車はそうそうないのですから。
まとめ
アルファロメオ・ミトは、単なる“可愛いコンパクトカー”ではありませんでした。イタリアの美意識と技術が結集した車名の由来、フェラーリ開発チームの手がけた走行フィール、そしてブランドの将来を背負った若返り戦略――すべてが情熱に裏打ちされた存在だったのです。
その生涯は約10年。短いようでいて、その間に多くのファンを魅了し、「アルファロメオってカッコいい!」と若者に再認識させるきっかけにもなりました。今となっては後継モデルもなく、Bセグメントからは姿を消してしまいましたが、あの小さなボディに詰まっていたエモーショナルな体験は、きっと多くの人の心に残り続けているはずです。
今後、電動化の波のなかでアルファロメオが新たな時代の“ベイビー・アルファ”を再び送り出す日が来るのか。それとも、ミトは唯一無二の存在として語り継がれるのか。どちらにしても、このミトという車が持っていた“熱さ”は、これからの時代にこそ必要なものなのかもしれません。