📝 プジョー206(初代)諸元データ(1998年発売時)
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発売開始年:1998年
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ボディタイプ:3ドア/5ドアハッチバック(後にSW、CCも登場)
📏 寸法・重量
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全長:3,835 mm
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全幅:1,652 mm
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全高:1,437 mm
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ホイールベース:2,443 mm
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車両重量:約950〜1,050 kg(グレードによる)
🔧 パワートレイン(ガソリン)
排気量 | エンジン形式 | 最高出力 | 最大トルク | 備考 |
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1.1L | 直列4気筒 SOHC | 約60ps | 約94Nm | ベーシックモデル |
1.4L | 直列4気筒 SOHC | 約75ps | 約120Nm | バランス重視 |
1.6L | 直列4気筒 SOHC | 約90ps | 約135Nm | 標準的な上級モデル |
2.0L | 直列4気筒 DOHC | 約135ps | 約190Nm | GTiモデル(S16) |
⚙️ 駆動方式・トランスミッション
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駆動方式:FF(前輪駆動)
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トランスミッション:5速MT または 一部グレードで4速AT
🛞 足回り
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フロントサスペンション:マクファーソンストラット
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リアサスペンション:トーションビーム
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ブレーキ:前輪ディスク/後輪ドラム(上級グレードは4輪ディスク)
⛽ その他スペック
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燃料タンク容量:約50L
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燃費(欧州複合モード):約13〜18km/L(エンジンにより変動)
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最小回転半径:約5.2m
ヨーロッパの街角がよく似合う、小粋なコンパクトカー──それがプジョー206です。1998年に登場し、瞬く間に世界中で人気を博したこのモデルは、単なる「移動手段」ではなく、フランス車ならではの美意識と走りの愉しさを備えた存在でした。流れるようなボディライン、軽快なハンドリング、そしてWRCでの輝かしい戦績。206は、そのすべてがバランスよく詰め込まれた“完成度の高い小型車”として、今もなお多くのファンに愛され続けています。本記事では、そんな206の魅力を3つの視点から掘り下げていきます。まずはデザインに宿るフレンチスピリット、次に日常の運転が楽しくなる走行性能、そして最後に、ラリーの世界で証明された実力と特別モデルたちについてご紹介します。
フレンチデザインの傑作──206のスタイリングに宿る美学
プジョー206がデビューした1998年、世界のコンパクトカー市場では、合理性やコスト重視の設計が目立ち、いわゆる“箱型”デザインが当たり前でした。そんな中に現れた206は、まるで曲線の彫刻のようなスタイルで、一瞬にして注目を集めます。膨らんだフェンダーや引き締まったテールライン、そして何より前傾姿勢のフロントマスク。猫科の動物を彷彿とさせるこの顔つきは、後のプジョー車にも大きな影響を与えた象徴的なデザインです。
特に印象的なのは、デザインと実用性が高次元で調和している点です。206は視認性や空力にも優れ、単に“美しい”だけでなく、走りやすさや快適性も実現していました。また、3ドアと5ドア、さらにはワゴンやオープンモデル(CC)まで幅広いボディバリエーションが展開されており、それぞれが異なる個性を持ちながらも、206らしさを失わない統一感のあるフォルムが特徴です。
さらに、細部にまで宿る“フレンチスピリット”も見逃せません。インテリアにおいても、シンプルながら流れるようなラインで構成されたダッシュボードや、丸みを帯びた操作系は、当時としては斬新でした。美意識を日常に取り込むという発想は、日本車とは一線を画すアプローチといえるでしょう。
全体として206のデザインは、単なる時代のトレンドに迎合することなく、20年以上経った今でも色あせない“品”を感じさせます。プジョーが持つ芸術性と、街に溶け込むための機能性、その両立を目指した結果が、この一台に凝縮されているのです。
コンパクトの限界を超える走行性能
プジョー206は、その小柄なボディからは想像できないほど“走る楽しさ”を持った一台です。フランス車といえば柔らかい足まわりというイメージを持たれるかもしれませんが、206の走行フィールはその先入観を良い意味で裏切ってくれます。しなやかで路面をしっかりと捉えるサスペンション、軽快に反応するステアリング、そして踏み込めばスムーズに吹け上がるエンジン。すべてが絶妙なバランスで調和しており、まさに「人とクルマが一体となって走る」という感覚を味わえます。
特にハンドリングは、フロントが軽くノーズの入りが素直で、都市部のクイックな右左折も快適。郊外のワインディングでも不安感は少なく、むしろ操る楽しさを感じさせてくれます。運転する喜びを日常の中に取り戻させてくれる、そんな“フランス流コンパクト”の真骨頂がここにあります。
エンジンバリエーションも幅広く、ベーシックな1.1Lや1.4Lモデルは経済性に優れ、初心者にも扱いやすい設定。一方で、1.6Lや2.0Lモデルではトルク感のある走りが可能で、高速道路や山道でも力強く走れます。中でも206 S16(GTi)は、ホットハッチとしての性能を備え、運転に慣れたドライバーにも刺激的な存在です。
また、フロントストラット/リアトーションビームという足まわりの構成は、シンプルながらも熟成されており、路面の段差や細かい起伏に対しても自然に吸収。快適性とスポーティさを高次元で両立させているのは、さすが欧州の道を知り尽くしたメーカーならではです。
206は単なる“街乗り用の小型車”ではなく、クルマとの対話を楽しめるコンパクトカー。通勤も、買い物も、ちょっとしたドライブも、すべてを愉しく変えてくれる。そんな「心が動く日常」を提供してくれる一台なのです。
ラリーで鍛えられたDNA──206 WRCと特別モデルたち
プジョー206を語るうえで、モータースポーツの舞台、とくに世界ラリー選手権(WRC)での活躍は欠かせません。206 WRCは1999年にデビューし、2000〜2002年の3年間でマニュファクチャラーズタイトルを連覇。ドライバーズタイトルも獲得するなど、その実力は折り紙付きです。小型で取り回しの良いボディに、4WDシステムとターボチャージャー付きエンジンを搭載し、雪・砂利・舗装という過酷な路面を自在に駆け抜ける姿は、多くのファンの心をつかみました。
このラリーで培われた技術とイメージは、市販モデルにもしっかりと息づいています。特に注目すべきは、206 GTi(海外ではS16)や、さらに高性能な206 RC。これらのモデルは、単なる“スポーティ仕様”ではなく、シャシー剛性の強化、ブレーキ性能の向上、専用チューニングのサスペンションなど、走行性能を本格的に高めた“走りのための一台”です。
206 GTiは2.0L自然吸気エンジンを搭載し、トルクの厚みとレスポンスの鋭さが印象的。206 RCはさらに専用ヘッドや吸排気系に手が入っており、エンジンを高回転まで回す爽快感が味わえます。サーキットでの使用にも耐えるポテンシャルを秘めつつ、日常でも無理なく扱える絶妙なバランス感覚が、多くのエンスージアストを虜にしました。
さらに、限定車やスポーツパッケージ仕様など、206はモデル末期まで多彩な派生バージョンが登場しました。これもまたWRCで得た知見とブランドイメージを積極的に市販車へと展開した、プジョーの戦略的な一面といえるでしょう。
ラリーで磨かれた206の“走りの本質”は、単なるスペックや見た目ではなく、「走ることの楽しさ」をドライバーにストレートに伝えるもの。それが、20年以上経ってもなお206が「ただの小型車」ではなく、“記憶に残る名車”として語られる理由なのです。
まとめ
プジョー206は、単なるコンパクトカーの枠を超えた存在でした。美しいデザインに秘められたフランス車ならではの感性。都市部でも郊外でも軽快に走れる走行性能、そして世界ラリー選手権での輝かしい戦歴と、それを受け継ぐホットモデルたち。すべてが一台の中に凝縮されており、今見ても色あせることのない魅力を放ち続けています。
20年以上が経過した今でも、街角でふと見かける206には、どこか優雅で、そして凛とした雰囲気があります。それは単にレトロという言葉では表現できない、時代を超えた“完成度”のなせる業。多くのコンパクトカーが実用性や経済性に振り切る中で、206は“感性に訴える小型車”として唯一無二の立ち位置を築いていました。
中古車市場では今なお手が届きやすく、維持費も比較的穏やか。適切なメンテナンスさえすれば、日常の足としてだけでなく、週末のドライブや趣味の相棒としても、心地よい時間を提供してくれるでしょう。クルマを「乗る道具」としてではなく、「感じる存在」として楽しみたい──そんな想いを抱く人にこそ、プジョー206は今もなお推薦できる名車です。