Luxgen7 SUV 諸元データ
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全長:4,800 mm
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全幅:1,930 mm
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全高:1,745 mm
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ホイールベース:2,910 mm
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車両重量:1,830~1,950 kg
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乗車定員:5名
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駆動方式:前輪駆動(FF)/四輪駆動(4WD)
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最高出力:201馬力(148 kW) / 5,000~5,500 rpm
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最大トルク:295 Nm / 2,400~4,000 rpm
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トランスミッション:6速オートマチック
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サスペンション:前:マクファーソンストラット / 後:トーションビーム
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ブレーキ:前後ディスク(前:ベンチレーテッド)
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タイヤサイズ:235/55 R18
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燃料タンク容量:75リットル
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最小回転半径:5.8 m
自動車とテクノロジーの融合が当たり前になった現代。その潮流を、実は15年以上も前に先取りしていたブランドが台湾に存在していたことをご存じでしょうか? その名はLuxgen(ラクスジェン)。台湾最大の自動車メーカー「裕隆汽車」が2009年に立ち上げた、独自のブランドです。初代モデルとなったLuxgen7 SUVは、「走るスマートデバイス」とも称されるほど、インフォテインメントや車載カメラ、音声認識といった先進機能を惜しみなく搭載し、世界の大手メーカーに挑む意欲作でした。
しかし、その未来志向の設計とは裏腹に、Luxgenブランドは世界市場での確かな足場を築くことができず、現在では事実上縮小状態にあります。とくに中国市場への進出と撤退は、その盛衰を象徴する出来事でした。
本記事では、Luxgen7 SUVという1台の車を切り口に、“未来を見据えた台湾ブランドの挑戦”と、その光と影について3つの視点から掘り下げていきます。
台湾発スマートSUVの挑戦――Luxgen7が目指した“未来のクルマ”
2009年、台湾の自動車業界において大きな転換点となる出来事がありました。それが、裕隆汽車(Yulon Motor)が立ち上げた独自ブランドLuxgen(ラクスジェン)のデビューです。そしてブランドの第一弾として登場したのが、Luxgen7 SUV。この車は、単なる国産SUVではなく、「テクノロジーとモビリティの融合」を掲げた、極めて意欲的なプロジェクトの結晶でした。
Luxgen7 SUVの最大の特徴は、当時としては革新的だった「Think+」と呼ばれる車載インテリジェンスシステムの搭載です。車内に複数のカメラを装備し、サイドビューやリアビューを自動的に表示。さらに音声認識機能やインターネット接続、スマートフォンとの連携など、いわゆる“スマートカー”の機能を10年以上前に先取りしていました。
エンジンには2.2リッター直列4気筒ターボを搭載し、快適な走行性能も確保。トランスミッションは5速AT、駆動方式はFFまたはAWDが選べました。上質な内装デザインと、先進的な操作パネル、そして「高級感×IT志向」の融合は、当時の台湾市場において大きな話題を呼びました。
Luxgen7 SUVは、技術志向のユーザーや若年層を中心に注目され、台湾発の“知的SUV”として一定の支持を獲得しました。自国ブランドとしての誇りも相まって、台湾国内ではそれなりの販売台数を記録しました。
ただし、先進的すぎるがゆえに、安定性や耐久性、ユーザーインターフェースの洗練度に課題を感じる声もありました。それでもこのクルマが描いた「未来のカーライフ」のビジョンは、確かに時代を一歩先取りしていたと言えるでしょう。
Luxgen7 SUVは、台湾が自動車開発において独自の道を歩もうとした象徴的な存在です。その挑戦こそが、次世代モビリティの原点を語る上で、見逃せない一章だと感じます。
ラクスジェンは失敗だったのか?──Luxgen7 SUVとブランドの興亡
Luxgen(ラクスジェン)は、2009年に台湾最大の自動車メーカー・裕隆汽車が立ち上げた意欲的なブランドです。最初のモデルとして登場したLuxgen7 SUVは、“スマートテクノロジーを搭載したプレミアムSUV”として注目を集めました。車載カメラや音声操作、インターネット接続といった装備は、当時のアジア圏では非常に先進的で、技術面では一歩先を行く存在だったのです。
しかし、Luxgenのブランドはその後、徐々に存在感を失っていきます。たしかに初期の製品には勢いがありましたが、時間が経つにつれ、いくつかの課題が浮き彫りとなりました。たとえば、インフォテインメントシステムの完成度やUIの使い勝手、ハードウェアとソフトウェアの統合精度といった点において、日系や欧州系ブランドと比べると成熟度に差があったのです。
また、販売体制やブランドの打ち出し方にも苦戦が見られました。台湾国内では一定の支持を得たものの、海外市場での浸透には至らず、消費者に「価格の割に不安が残る」という印象を与えてしまったことも、成長の足かせになりました。
では、Luxgenは「失敗だった」と言い切れるのでしょうか? 私はそうは思いません。なぜなら、Luxgenは台湾が自らの技術力と設計思想で“独自の自動車文化”を築こうとした、極めて貴重な試みだったからです。その中核にあったLuxgen7 SUVは、大衆車にITを融合させるという“アジア発スマートカー”の先駆けでもありました。
ビジネスとしての成否はさておき、Luxgenの存在は、台湾にとって“夢と挑戦”の象徴だったのではないでしょうか。そしてその意志は、今日のEV開発や次世代モビリティの取り組みにも静かに受け継がれているように思います。
中国市場への挑戦と撤退──Luxgen7 SUVが直面した壁
Luxgen7 SUVの登場から間もなく、Luxgenブランドは台湾市場にとどまらず、中国本土への進出という大きな一歩を踏み出しました。急成長を続ける中国市場は、あらゆる自動車ブランドにとって「次なるフロンティア」として魅力的に映っており、Luxgenにとってもグローバルブランドを目指すうえで避けて通れない市場でした。
2010年、裕隆汽車は中国の大手自動車グループ「東風汽車」と合弁会社「東風裕隆」を設立。中国国内でLuxgenブランドを展開する足がかりを築いたのです。Luxgen7 SUVも現地生産され、ショールームには“台湾発・知能型プレミアムSUV”という触れ込みで並びました。
当初、Luxgenは一定の注目を集めました。独自のインテリジェントシステム「Think+」や、カメラを活用した安全支援機能などは、他の中国系ブランドにはない独自性がありました。また、台湾ブランドへの好意的なイメージも一定層に存在していたのです。
しかし、市場環境は急速に変化します。中国メーカーが次々と新型SUVを投入し、急速に商品力とコスト競争力を高めていった一方で、Luxgenはモデル更新のペースが鈍化し、価格や性能、装備面で競争力を失っていきました。さらに、Think+システムのローカライズや品質の安定性に課題が残り、ユーザーからの評価も徐々に低下していきました。
結果的に、Luxgenの中国市場における存在感は薄れ、2020年代には販売台数が大幅に落ち込み、東風裕隆は事実上活動停止状態になりました。成功すれば大きな飛躍が望めた市場であっただけに、この撤退はブランド全体にとっても大きな打撃となりました。
それでも、Luxgenの中国進出は「チャレンジ精神」の象徴でもあります。市場の規模やスピードに圧倒されつつも、独自技術を持って堂々と挑んだ姿勢は、台湾の工業史におけるひとつの記録として、今後も語り継がれる価値があると感じます。
まとめ
Luxgen7 SUVは、単なるSUVのひとつではありませんでした。それは、台湾という島国から世界に向けて放たれた“技術で勝負する”という意志の表明であり、自動車産業における独立と創造の象徴でもありました。Think+に代表される先進的な機能、台湾国内での一定の成功、そして野心的な中国市場への挑戦。そのどれもが、ブランドとしてのLuxgenの強い志を物語っています。
確かに、ビジネスとしての結果だけを見れば、Luxgenは持続的な成長を遂げることができませんでした。品質や商品力、販売体制など、多くの課題に直面し、最終的には市場からの撤退という厳しい選択を迫られたのも事実です。しかし、私たちが注目すべきは、そのプロセスに込められた「挑戦の精神」です。
大手メーカーに囲まれた厳しい市場で、独自のビジョンを持ち、テクノロジーで差別化を図ったLuxgenの存在は、今なお多くの技術者や自動車ファンにインスピレーションを与えています。そして、こうした試みがあったからこそ、台湾のモビリティ産業は次なるステージ──電動化やスマートモビリティの時代へと向かう準備ができているのかもしれません。
Luxgen7 SUVが描いた“未来のクルマ”のビジョンは、決して色あせていません。あの挑戦は、今もなお静かに、次世代のモビリティの扉をノックし続けているのです。