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BMW・3シリーズ(初代):“運転する歓び”のルーツをたどる

BMW 3シリーズ(初代)
型式:E21
発売年:1975年〜1983年
ボディタイプ:2ドアセダン(一部にカブリオレ仕様あり)
駆動方式:FR(後輪駆動)

🔹 ボディサイズ(おおよその数値)

全長:4,355 mm
全幅:1,610 mm
全高:1,380 mm
ホイールベース:2,565 mm
車両重量:およそ1,010〜1,180 kg

🔹 エンジンバリエーション(代表例)

・316:1.6L 直列4気筒(約90馬力)
・318:1.8L 直列4気筒(約98馬力)
・320:2.0L 直列4気筒(約109馬力)
・320i:2.0L 直列4気筒・インジェクション仕様(約125馬力)
・320/6:2.0L 直列6気筒(約122馬力)
・323i:2.3L 直列6気筒・インジェクション仕様(約143馬力)

🔹 トランスミッション

4速MT、5速MT、3速AT(グレードにより異なります)

🔹 サスペンション形式

前:マクファーソン・ストラット
後:セミトレーリングアーム

🔹 その他の特徴

ドライバー中心に設計されたコクピットレイアウト
フロントは丸型2灯または4灯ヘッドライト(年式により異なる)
バウアー社製のオープントップモデル(セミカブリオレ)も存在

 

初代BMW 3シリーズ(通称E21)は、1975年に誕生したBMWの歴史において極めて重要なモデルです。当時、世界各地で環境への意識が高まり、小排気量の車や燃費に優れた車が注目されるようになっていました。その一方でドライバーの多くは、やはり操る楽しさを忘れたくない、パワフルでスポーティな車に乗りたいという欲求も抱いていたのです。こうした相反する潮流の中で、BMWは真のドライビングプレジャーを保ちつつ、コンパクトなパッケージングを実現する新たなプロジェクトを始動させました。その結果として生み出されたのが、後世まで続く3シリーズの初代となるE21です。登場直後から欧州を中心に大きな話題を呼び、エンスージアストだけでなく一般的なファミリーユーザーにも支持されるコンパクトスポーツセダンとしての地位を確立しました。当時はスポーツカーとファミリーカーが明確に分かれていることが多かった時代ですが、E21は「実用性と運転の楽しさを両立させる」という新しい価値観を提示したのです。単にサイズを小さくしただけではなく、BMWらしい高品質な走りの味わいをしっかりと宿し、さらに上質なインテリアによって高級感を損なわないよう設計されていました。この実現には数多くの困難が伴ったと言われていますが、結果的には3シリーズという最重要モデルがBMWを代表する看板となり、世界中にBMWの名声を知らしめることに大きく貢献しました。そんな初代BMW 3シリーズには、今でこそ語り継がれている開発秘話や当時としては珍しい技術が数多く盛り込まれています。この記事では、E21の特徴や開発の裏側、そしてトリビア的なエピソードを交えながら、その魅力をたっぷりとご紹介していきたいと思います。

時代を先取りしたデザインと設計思想

初代BMW 3シリーズ(E21)の魅力を語るうえで、まず注目したいのは独自のデザインと設計思想です。1970年代後半という時代背景を考えると、排ガス規制や燃費志向などの課題が次々に浮上し、自動車メーカー各社はコンパクトカーや省エネ技術の開発にしのぎを削っていました。しかしながら、多くの自動車愛好家はパワフルな走りへの渇望を捨てきれず、BMWもまた「駆けぬける歓び」を維持しつつ、新しい潮流に適応したモデルを作りたいという強い思いを持って開発に臨んだのです。その結果として生み出されたE21のフォルムは、フロントに配されたキドニーグリルがアイコニックな存在感を放ち、車体のプロポーションもスポーティさとコンパクトさを巧みに両立させるものでした。シャープなヘッドライトや低く構えたボンネットラインは、ドライバーの視界を確保すると同時にフロントエンドを軽快に見せる効果があり、一目でBMWらしさを感じさせると同時に新時代の躍動感を予感させるものでした。さらにインテリアに目を向けると、ドライバーオリエンテッドというコンセプトが強く打ち出され、メーターパネルやセンターコンソールが運転席側にやや向けられています。この設計は当時としては非常に画期的であり、「運転する喜び」を最大限に味わえる空間づくりが徹底されていました。BMWのエンジニアたちはただエクステリアを美しくするだけでなく、スポーツ走行でも快適に過ごせる室内環境を目指し、シートの形状やクッション性、さらに操作系の配置にまでこだわったと言われています。車体サイズを抑えながらも、ホイールベースを適切に取り、室内スペースを確保しつつハンドリング性能を犠牲にしないように仕上げている点も見逃せません。結果として、実用性を求めるユーザーからも高い評価を得ると同時に、スピリットあふれる走りを愛する層の心も掴むという、まさに絶妙なバランスを体現するモデルに仕上がったのです。こうしたデザインと設計思想は後の3シリーズにも脈々と受け継がれ、BMWブランドの本質を凝縮した象徴的な存在として知られるようになりました。E21が放った革新性は、単にスタイルの斬新さだけにとどまらず、運転席を中心とした車づくりや、ドライビングプレジャーと日常ユースの融合という概念を世に広める大きなきっかけとなったと言えるでしょう。

豊富なバリエーションとエンジンラインナップがもたらす多彩な個性

初代BMW 3シリーズ(E21)のもう一つの大きな特長は、幅広いバリエーション展開によって、さまざまなユーザーのニーズに応えた点にあります。登場当初から排気量やチューニングの異なるエンジンが用意されており、都市部での扱いやすさを重視した経済的なモデルから、高回転まで気持ちよく吹け上がるパワフルなモデルまで、多彩な選択肢が揃えられていました。これは当時のBMWとしては非常に挑戦的な戦略であり、同一車種でありながらユーザーが求める性能や趣向に合わせて選べるようになっていたのです。特に後期モデルとして登場した6気筒エンジン搭載車は、従来の4気筒モデルとは一味違う滑らかで力強い走りを実現し、BMWの「直列6気筒エンジン」というアイデンティティを決定的に印象づける存在となりました。E21に搭載された直列6気筒のエンジンは排気量が2リッターから2.3リッターとさまざまで、出力特性やトルクカーブにも細やかな違いがあり、エンスージアストたちを大いに楽しませました。もちろん高出力仕様だけでなく、燃費性能や街乗りの扱いやすさに重きを置いた小排気量の4気筒モデルも用意されており、老若男女問わず幅広い層がそれぞれのライフスタイルに合わせて3シリーズを選ぶことができたのです。また、E21が注目されたのはエンジンだけにとどまらず、その組み合わせとしてのトランスミッションやサスペンションの仕立てもユーザーの選択肢に大きく関わっていました。走りを追求する層向けには、マニュアルトランスミッションとスポーティなサスペンションチューニングが用意され、峠道やサーキットでのアグレッシブな走りに対応できるよう調整が行われていたのです。一方で、高速道路や街中での快適性を重視したい人には、より柔らかなサスペンション設定やオートマチックトランスミッションが選ばれるなど、パーソナライズ性という概念を早くから取り入れていました。このように一言でE21といっても、その走りのキャラクターや乗り味は選択するエンジンや装備によって大きく変わり、同じ車種とは思えないほど多様性に満ちているのが大きな魅力でした。これらの取り組みは「多様な個性を持ち合わせたコンパクトセダン」という新たな市場を確立させただけでなく、後に続く3シリーズの開発方針にも大きな影響を与え、ユーザーの自由な選択を促すBMW流のマーケティング戦略の礎となったのです。

知られざるエピソードとレースへの挑戦

初代BMW 3シリーズ(E21)には、開発時や発売後のエピソードとしてあまり知られていない興味深い話が数多く存在します。その中でも印象的なのは、BMWが当初からモータースポーツとの親和性を重視していたという点です。E21は街乗りから高速巡航、そして峠道までそつなくこなすバランスの良さが評判でしたが、それだけではなくレースシーンへのアプローチも積極的に行われていました。公式のワークスチームとして大規模に参戦したわけではありませんが、プライベーターを中心にツーリングカーレースでE21をベースとしたマシンが走り、多くの戦績を残したと言われています。特にグループ5などのカテゴリーで改造を施したE21が出走した際には、BMWアイデンティティともいえる直列6気筒エンジンの高回転域での伸びやかさが武器となり、高い戦闘力を見せつけたという逸話も残っています。こうした活躍によって、E21は単なるファミリー向けスポーティセダンというだけでなく、レースでのポテンシャルを秘めた本格的なドライビングマシンであることが証明されたのです。さらに、E21の開発チームは限られた予算の中でも独創的な技術を積極的に取り入れようと試みていたと言われています。例えば空力の向上を目指してフロントスポイラーの形状を徹底的に調査し、風洞実験を繰り返すうちにボディ全体のバランスに思わぬ副次的効果が生まれ、ハイスピード時の安定性が飛躍的に向上したという話があります。この改良の成果は公道でも確かな違いとして感じられ、特にアウトバーンなど速度無制限区間のあるドイツの道路環境では、E21は「速く走っても安心できるコンパクトカー」としての評価を高めていきました。また、当時はまだ比較的新しかったエンジン制御技術や排気ガス浄化装置の研究にも熱心に取り組み、環境保護と走行性能を両立させるべく粘り強く実験を繰り返したと言われています。こうしたチャレンジの積み重ねは後に登場するハイパフォーマンスモデルや排ガス規制をクリアする技術基盤となり、BMWのエンジニアリングの底力を世に示す結果にもなりました。レースから日常まで幅広いシーンで輝きを放ち、多くのファンを獲得したE21の成功には、開発陣の飽くなき探求心と挑戦精神、そしてモータースポーツを源とする技術の粋が詰め込まれていたのです。

まとめ

初代BMW 3シリーズ(E21)は、コンパクトでありながら妥協を許さないスポーティさと高級感を併せ持ち、BMWの新たな道を切り開いた革新的なモデルでした。ドライバーオリエンテッドという設計哲学や、多彩なエンジンラインナップによる個性の演出、そしてレースシーンをも意識した技術開発など、あらゆる面で先進性と情熱を感じさせます。後に続く歴代3シリーズの礎となったE21は、いまなおクラシックBMWファンのみならず多くの自動車愛好家にとって特別な存在であり、そのエッセンスは現代のBMWにも脈々と受け継がれています。モダンな最新モデルに触れるだけではなく、原点ともいえるE21に目を向けてみると、BMWというブランドが長きにわたって守り続けてきた「駆けぬける歓び」の本質を、あらためて実感できるのではないでしょうか。 ​