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フィアット・バルケッタ:大人が夢中になる“小舟”の魅力

フィアットバルケッタ 諸元データ】

■生産期間
1995年~2005年

■製造国
イタリア

■ボディタイプ
2ドア・オープンロードスター(2シーター)

■駆動方式
FF(前輪駆動)

■ボディ寸法・重量
全長:3,916 mm
全幅:1,640 mm
全高:1,265 mm
ホイールベース:2,275 mm
車両重量:約1,060 kg
乗車定員:2名

■エンジン・性能
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC(16バルブ)
排気量:1,747 cc(1.8 L)
最高出力:131 PS / 6,300 rpm
最大トルク:16.7 kgm(164 Nm)/ 4,300 rpm
燃料供給方式:マルチポイントインジェクション
最高速度:約200 km/h
0-100km/h加速:約8.9秒

トランスミッション
5速マニュアルトランスミッション(標準仕様)
※一部仕様で4速ATあり

■サスペンション形式
前輪:マクファーソンストラット式
後輪:トレーリングアーム式

■ブレーキ形式
前輪:ベンチレーテッドディスク
後輪:ディスク(仕様によりドラムブレーキの場合あり)

■タイヤサイズ(標準仕様)
195/55 R15

■燃料タンク容量
約50リッター

 


フィアットバルケッタは、1995年にデビューしたイタリアの小粋なオープンカーです。イタリア語で「小さな船」という意味を持つその名称のとおり、どこか海辺を颯爽と走るイメージが湧いてくる愛らしいスタイリングが最大の魅力といえます。実際、ボディラインの曲線はとても流麗で、まるで波間を滑るヨットを連想させるような独特のシルエットを描いています。発売当時、日本ではまだオープンカーといえば大排気量の高級スポーツか、もしくはマツダ・ロードスターのようなライトウエイトモデルが主流でした。そんな中でバルケッタは、「イタリアン・デザインの楽しげな小舟」という、新しくも洒落っ気に満ちた存在感を放ったのです。

このクルマの見どころは何といっても、イタリア車らしい大胆かつ遊び心に溢れたデザインと、乗っている人の心をくすぐるような軽快さです。直列4気筒のエンジンは決してモンスター級のパワーを誇るわけではありませんが、踏み込んだときに「ぴゅん」と軽やかに回転が上がっていく感覚には、小舟に乗って波をかき分けて進むような爽快感があります。また、イタリア車の魅力としてよく語られる「トラブルとの共存」もバルケッタではしっかりと受け継がれており、時にオーナーを困惑させながらも、いつのまにか笑いに変えてしまう不思議な魔力を秘めています。雨漏りや電装系の気まぐれ、さらには右ハンドル化による独特の操作系など、国産車ではなかなか味わえない体験が盛りだくさんです。

それでもなお、このクルマに惹かれるのは、日常にちょっとした非日常感を与えてくれるからではないでしょうか。シンプルにオープンエアを楽しみ、道ゆく人々の視線を感じながら走るだけで、何とも言えない多幸感に包まれるのです。そんなフィアットバルケッタの世界を、今回はデザインや走行性能、そしてイタリア車ならではの微笑ましいトラブル談などを交えてたっぷりとご紹介いたします。どうぞ最後までお付き合いください。

フィアットバルケッタを象徴するデザインの魅力

バルケッタの姿を初めて目にした人の多くは、「可愛らしくてエレガントな小船」という印象を抱くかもしれません。イタリア語で“船”を意味する名のとおり、全体的に丸みを帯びたフォルムが特徴的です。ボンネットからフロントグリルへと流れるラインには、どこか甘さのある曲線が用いられ、一方で車体後方にかけてはショートデッキスタイルが採用されているため、コンパクトながらも力強いシルエットを作り上げています。これがちょうどデザートのティラミスをぺろりと平らげたあとに、もう一口食べたくなるような“心くすぐる”イタリアンな風情を漂わせているのです。

ボディサイズ自体は小ぶりですが、オープン状態で乗り込むと意外なほどの開放感を味わえます。ドアを開ける瞬間の、あの軽やかでちょっと頼りなさそうなフィーリングもご愛嬌です。車内に乗り込んだら、運転席のシートに座り、ステアリングを握ると、なんとも言えない“密着感”がじわりと伝わってきます。ダッシュボードもシンプルで、フロントウインドウ越しに広がる世界との境界が曖昧になるほど視界が良好です。まるで自分が一枚のキャンバスの上に立って、好きな色を思いのままに塗り込めるようなワクワク感を覚えます。車内に漂う独特のイタリアンな香りと、少しやんちゃなスポーツカーの雰囲気の相乗効果で、運転する前から「今日はどこに出かけようか」と気分が高まることでしょう。

また、バルケッタのデザインを語るうえで外せないのが、ヘッドライトとフロントグリル周りの造形です。ちょっと上向きに配置された大きなヘッドライトは、柔らかい笑顔を浮かべるような優しさを醸し出しています。そこに控えめにあしらわれたフィアットのエンブレムが「Buongiorno!(ボンジョルノ!)」と声をかけているかのように見えたときには、思わず「自分のマシンが挨拶してくれた…!」とにんまりしてしまうかもしれません。こうした愛嬌のあるフロントマスクは、人とクルマとの間に不思議な絆を芽生えさせる魔法のような力を持っているのだと感じます。

実用性だけを重視したら、もしかするともう少し収納スペースを大きくしてほしいとか、オープン時の幌の処理をもう少しラクにしてほしいといった要望も出てくるでしょう。けれども、バルケッタはあえてそうした「実用性のカタログスペック」に寄り添いすぎず、所有するよろこびと走らせる楽しさ、その両方を最大限に優先した結果、この独特なデザインに仕上がっているのです。公園の脇を走れば、散歩中の人が思わずこちらを見て微笑むような、そんな“小さな船”であるからこそ、バルケッタはいつまでも色あせない魅力を放ち続けているのではないでしょうか。

軽快なドライブフィールとエンジンの個性

バルケッタの最大の魅力は、その愛らしいデザインだけに留まりません。いざハンドルを握って走り出すと、程よい軽快感とエンジンの小気味よいレスポンスが「おや?これは想像以上に楽しいぞ」と感じさせてくれます。搭載されるエンジンは1.8リッターの直列4気筒DOHCで、最高出力は日本仕様だと130馬力程度と言われています。絶対的なパワーこそモンスターマシンには及びませんが、車体の軽さも相まって、回して走るときの心地良いフィーリングは「なんだかイタリアンスパイスが効いてるじゃないか」と唸らされるほどです。タコメーターの針がグングン上がっていく様子を見ながら、アクセルに足を乗せると「ヴォーン」という軽快なサウンドがキャビンを包みこみます。これはまるで、小舟に乗ってエンジン音が心地いい波しぶきを立てているような感覚に近いかもしれません。

ハンドリングに関しても、見た目の愛嬌あるスタイリングとは裏腹に、意外とスポーティーな面を見せてくれます。フロントは軽快に切り込んでいき、リアも素直に追随してくれるため、市街地や峠道などでのドライビングが楽しくなるように作られています。もちろん、サスペンションはスーパースポーツのように硬派ではありませんから、大きな段差を越えるときなどにはちょっとしたロールを感じることがありますが、それさえもどこか「人懐っこい」挙動に感じられるので不思議です。きっとバルケッタはドライバーに対して「まあまあ、そんなに構えずに気楽にいこうよ」と語りかけているのでしょう。そうした余裕のある乗り味こそが、このクルマの本質的な魅力なのだと思います。

また、MT(マニュアルトランスミッション)の設定が少ない日本仕様では、ATモデルが多く流通しています。しかし「イタリアンなオープンカー=MTで操るもの」というイメージを持つ方にとっては、少し寂しく感じるかもしれません。とはいえ、バルケッタのATも独特な味わいがあり、街中をゆったり流すにはピッタリです。もちろん、高速道路に乗れば意外なほどしっかりとしたクルージング性能を発揮してくれるため、ロングドライブも苦にならないのが嬉しいところです。車内に吹き込む風や、オープンにしたときに差し込む太陽の光を感じながらアクセルを踏むと、「このエンジン、実は気持ちいいバンドで鳴ってくれるんだよね」というバルケッタのささやきが聞こえてくるようです。

総じて、バルケッタのドライブフィールは「本格派スポーツカーというよりは、軽快さと楽しさを重視したイタリアン・オープンカー」と表現するのが的確でしょう。乗り手の技量を試すような過激さはあまりありませんが、女性ドライバーでも気軽に扱え、気持ち良いエンジンサウンドとともに笑顔でドライブを楽しめる懐の深さがあります。小舟でのんびりクルーズを楽しむように、バルケッタと過ごす時間は「走りの刺激」と「ゆとり」の両面を程良いバランスで味わわせてくれます。このあたりに、イタリア車特有の“遊び心と情熱のミックス”が表れているのではないでしょうか。

イタリア車ならではのトラブルと微笑ましいエピソード

フィアットバルケッタに限らず、イタリア車と聞くと、「オシャレで情熱的だけど、しょっちゅうトラブルが起こるんじゃないの?」というイメージを抱く方が少なくないと思います。実際、バルケッタも例外ではなく、さまざまな“気まぐれ”に遭遇してきたオーナーさんの体験談が広く共有されています。特に多いのが、電装系の不調です。突然パワーウインドウが動かなくなってしまったとか、メーター類のバックライトが気が向いたときにしか点灯しないとか、挙げればキリがありません。もちろん真剣に困ってしまうような故障もあるのですが、バルケッタオーナーの多くが面白いのは、時間が経つにつれ「まあ、これもこの子の個性だから」とどこか笑い飛ばしてしまうことなのです。

それほど大事に至らない場合、「車検のたびに新しい笑い話が増えていく」と語る人もいます。例えば、あるオーナーの話では、洗車中に水をかけたら助手席の足元から水が染みてきて、「おっと、海水浴にでも来たつもりかい?」とツッコミを入れたくなったというエピソードがありました。結局はウェザーストリップが老朽化していたのが原因だったようですが、「イタリア車である以上、ある程度は想定内」と腹をくくると案外気にならなくなるというから、これまた凄いメンタルの持ち主です。ある意味、バルケッタに乗るということは、“雨漏りやちょっとした不調すら日常の彩り”と割り切って楽しむ覚悟が必要なのかもしれません。

では、そんなトラブルがあるにもかかわらず、なぜバルケッタは多くの人に愛され続けているのでしょうか。その理由の一つとして、オーナー同士のつながりの強さが挙げられます。トラブルが起きるとSNSやオーナーズクラブなどで情報が共有され、「うちの子も同じ症状だよ。ここをこうしたら直ったよ」なんていうアドバイスや部品交換の事例がすぐに集まるのです。そうやってみんなで知恵を出し合い、時には部品の海外取り寄せに苦労しながらも、「バルケッタに乗り続ける楽しさ」を分かち合っているわけです。そのコミュニティの温かさや結束力こそ、イタリア車オーナーならではの醍醐味といえるのではないでしょうか。

イタリア車の世界ではよく「壊れるかもしれないけれど、乗っているあいだは幸せ」という言葉が交わされます。これは冗談のようでいて、実は本質を突いているのかもしれません。多少の気まぐれやわがままを許容してしまうほど、走らせたときの快感や眺めているだけで満たされるような美しさが、バルケッタをはじめとするイタリア車には詰まっています。まるで天真爛漫な性格を持つ恋人と付き合っているような感覚に近いのかもしれません。泣かされることもあるけれど、笑顔にしてくれる力が圧倒的に勝っているのです。

まとめ

フィアットバルケッタは、小さな船という名のとおり、イタリアらしい遊び心とチャーミングなスタイルが光るオープンカーです。デザインは可愛らしさとエレガントさを兼ね備え、走り出せば軽快で思わず笑みがこぼれるようなドライブフィールをもたらしてくれます。もちろんトラブルも多々ありますが、それすらもオーナー同士の間では笑い話になってしまうほど、このクルマには人々を惹きつける不思議な魅力があるのです。ときにはイタリア車独特の気まぐれに振り回されながらも、バルケッタでオープンエアを楽しむひとときは、まるでどこかのリゾート地をクルージングしているかのような非日常を味わわせてくれます。もしあなたが日常にちょっとした彩りと冒険を求めているなら、フィアットバルケッタを選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。小さな船に乗り込む瞬間から、きっと新しい物語が始まるはずです。