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ルノー・エスパス(2代目):フランスが生んだ、走るリビングルーム

ルノーエスパス(2代目)諸元データ】

  • 製造期間: 1991年 - 1997年
  • ボディタイプ: MPV(ミニバン)
  • 駆動方式: FF(前輪駆動)

■ ボディ寸法・重量

  • 全長:4,435 mm
  • 全幅:1,795 mm
  • 全高:1,693 mm
  • ホイールベース:2,580 mm
  • 車両重量:約1,400~1,600 kg(仕様により異なる)
  • 乗車定員:5~7名

■ エンジン・性能(代表的な仕様)

トランスミッション

  • 5速MT / 4速AT

■ サスペンション

■ ブレーキシステム

  • フロント:ベンチレーテッドディスク
  • リア:ディスクまたはドラム(仕様による)

■ 燃料タンク容量

  • 約80 L

■ 特徴・備考

  • 樹脂(FRP)製のボディパネルを採用し、軽量化と防錆性を向上。
  • 多彩なシートアレンジが可能で、3列シート仕様も設定。
  • 大型ガラスを多用した開放的な室内設計が特徴。



ルノーエスパスは、ヨーロッパにおいてMPV(マルチ・パーパス・ビークル)のパイオニアとして名を馳せたモデルです。初代が登場したとき、「乗用車のようなスタイリッシュさと広々とした車内空間を両立するなんてムリに違いない」という通説をあっさりと覆し、家族連れや友人同士での移動が一気に楽しくなる革新的なクルマとして大きな話題を呼びました。そんなエスパスが2代目に進化した際、その風貌はさらに洗練され、快適性や安全性もグッと向上し、「えっ、こんなに中が広いのに、こんなにスムーズに走るなんて?」と思わず二度見してしまうほどの完成度を誇ったのです。背の高い車がコーナーをキビキビ曲がる姿は、当時の人々にとって衝撃的でした。とはいえ、いくら“未来のファミリーカー”として脚光を浴びても、やはりフランス車ならではの独特な個性や、お国柄に由来する面白おかしいトラブルなども存在します。今回はルノーエスパス(2代目)の魅力や話題性、そしてその特別なバリエーションであるエスパス F1に至るまで、エスプリに富んだその軌跡をたっぷりご紹介したいと思います。

2代目エスパスのデザインと機能美

2代目ルノーエスパスは、初代の持つアイコニックなシルエットをしっかりと受け継ぎながらも、さらに近未来感と洗練度を高めたデザインが特徴です。一見すると大きなワンボックスカーですが、実際に乗り込んでみると、フロントガラスがまるで視界を支配するように大きく、運転席からの眺めがとても開放的になっています。広々とした車内空間が売りのMPVでありながら、まるでキャビンが前方にずん、と競り出している感覚は、ドライバーがクルマとの一体感を存分に味わえるよう工夫されている証拠だと感じます。外観デザインだけ見れば“背の高い箱”に思えるかもしれませんが、実際の走行では、ルノーらしい軽快さがしっかり息づいています。

滑らかな乗り心地を実現するため、サスペンションやボディ剛性の最適化が図られ、従来の「背が高いクルマはフラフラする」というイメージを払拭するような仕上がりです。車内のレイアウトも、当時としては冒険的なものが多く、シートアレンジは多彩で、とくに2列目や3列目の座席の取り外しや向き換えが簡単にできるのが斬新でした。遠出はもちろん、ちょっとした引っ越しでも重宝するほど積載能力に優れており、休日のドライブやキャンプにも大活躍だったことでしょう。実は、フロアを完全にフラットにして車中泊を楽しむオーナーも少なくなかったようです。

そんな便利さを備えつつ、機能美の追求もエスパスらしさのひとつです。内装の質感や操作系のレイアウトには、フランス特有の遊び心が随所に見られます。ダッシュボード周りのスイッチ類の配置は少々独特ですが、一度慣れると「この合理性、クセになるぞ」と思えるようになります。ドライバー重視のレイアウトというよりは、家族みんなでクルマを楽しむためにデザインされているため、車内でのコミュニケーションも自然と増えるのです。ここまで書くと「機能美というより、ちょっと風変わりなんじゃないか?」と思われるかもしれませんが、その絶妙なバランスこそが2代目エスパスの真骨頂です。「フランスって、こういうクルマを本気で作るんだ」という驚きと感動が、所有する喜びや楽しさにつながっていたのだと思います。

独特なトラブルとフランス車らしさ

ルノーエスパス(2代目)を所有していた人々からは、ときどき面白いトラブル談が語られます。フランス車に限らず、ヨーロッパのクルマには「小さな不具合や独特な故障がつきもの」というイメージが付きまといがちですが、エスパスの場合はそれを“笑い話”に昇華してしまうようなオーナーが多いのも印象的です。例えば、電装系の突然の気まぐれ。ハザードランプのスイッチを押したわけでもないのに勝手に点滅を始めて、「おお、ついにクルマが意思を持ったか?」と焦ったという話があるかと思えば、翌日にはケロリと直ってしまうなど、何ともユーモアたっぷりです。

また、メカニカルな部分でも、エンジンルームの奥まった位置に妙に手が入りにくく、「そこ、もう少し整備性を考えて設計してくれませんか?」と問いかけたくなるような作りも散見されます。一般的な日本車に慣れたメカニックさんに「なぜここにその部品が付いてるんだ」とため息をつかれながらも、いざ直って快調に走り始めると、そんな苦労も忘れて「やっぱりエスパスは素晴らしい」と思えてしまうのだから不思議です。

さらに、ちょっとした内装のきしみ音や、フロントガラスの結露の出方に謎の個体差があるなど、まるで一台一台が人間のように個性を持っているかのようなエピソードが山ほどあります。初めて乗った方が「すごく快適だけど、ドアロックが気まぐれすぎない?」と驚いているのを見て、ベテランオーナーが「その気まぐれこそがフランス車の醍醐味なんだよ」と笑い飛ばす光景も珍しくなかったと聞きます。クルマというより、ちょっとした“家族の一員”や“ペット”のような愛らしさがあるのでしょう。

これらは確かに故障や不具合というマイナス要素ですが、それを面白おかしく受け入れることができるのも、エスパスの魅力があってこそだと感じます。長年付き合ううちに「この子はこういうところがあるから、ちょっと優しくしてあげよう」という気分になり、その結果、ファミリーカーでありながら妙に愛着が深まってしまうわけです。「こんなところ、普通は許せないはずなのに」と思いながらも、つい目をつぶってしまうほどに魅了してしまうのが、2代目エスパスの不思議な魔力だといえます。

伝説のルノーエスパス F1

ルノーエスパスについて語るうえで絶対に外せないのが、あの衝撃的なエスパス F1の存在です。2代目エスパスをベースに、ルノーのF1エンジンをぶち込み、サーキットを爆走するファミリーカーを作ってしまおうという“狂気の発想”が実現してしまったのですから、世の自動車ファンからは驚嘆の声と笑いが同時に上がったことでしょう。家族みんなを乗せて買い物に行けそうなボディに、当時のウィリアムズ・ルノーが使っていた3.5リッターV10エンジンを積み込むなんて、「それ、誰得なんですか?」と突っ込みたくなりますが、そう言われると「エスパス好きとモータースポーツ好きにとっては夢のプロジェクトだよね」と肯定したくなってしまうのが不思議です。

見た目は確かにエスパスの輪郭を残しつつも、エアロパーツや巨大なリアウイングが付いた姿は、もはや別の生き物です。室内もコクピットさながらの造り込みで、家族みんなでワイワイ乗って楽しむような雰囲気はどこへやら、一人乗りに近いストイックな空間が広がっています。これでサーキットを攻め込むと、想像以上に速いタイムを叩き出すから驚きです。車重があるから直線で遅いかというと、V10エンジンのパワーでグイグイ引っ張り、かと思えば足回りも本格的に手を加えているためコーナリングもシュールなほどクイック。見る者すべての常識を覆す姿こそ、まさに「フランス車ならやりかねない」と言わしめる所以です。

もっとも実用性や市販化などは微塵も考慮されていませんが、エスパスという“家族のためのクルマ”と、F1という“究極のレースマシン”を融合させてしまう発想力と実行力は、後にも先にもなかなか例がありません。こんなとんでもないモデルを作ってしまうあたり、ルノーの遊び心と情熱がいかに底知れないかを証明していると思います。その結果、「やっぱりエスパスってすごいね」と一部のファンたちの心をさらに強烈につかむことになったのですから、ある意味で大成功だったのではないでしょうか。ルノーエスパス F1の映像を見ていると、あの大きなボディにド迫力のエンジン音が響き渡るシーンに、思わず失笑と興奮が入り混じった声が漏れてしまうこと請け合いです。

まとめ

2代目ルノーエスパスは、そのスタイリッシュなデザインと広大な室内空間、そして意外なほどにスポーティーな走りを両立させた、当時としては先進的なMPVでした。フランス車ゆえの愛すべきトラブルも含め、その存在感は単なるファミリーカーの枠には収まらず、オーナーにとってはかけがえのないパートナーとして機能していたと思います。エスパス F1という常識破りなモデルが一瞬でも世に出たことは、エスパスというクルマが単なる移動手段ではなく、夢やロマンを運ぶ特別なマシンであることの証明でもあります。もし皆さんが2代目エスパスを見かける機会があったら、その広々としたキャビンの奥に隠されたフランスのエスプリと、何事も楽しんでしまおうというマインドを思い出していただけたら幸いです。クルマに少しでもユーモアや情熱を求める方ならば、一度はその不思議な魅力に触れてみる価値があるはずです。