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フォード・フィエスタ(初代):街角に咲いたフォードの革新

 

  • 製造期間
    1976年~1983年(後期型を含めると1983年以降も継続販売され、次世代モデルへ移行)

  • ボディタイプ
    3ドアハッチバック(のちに5ドアや特別仕様車も存在)

  • 駆動方式
    FF(前輪駆動)

  • エンジン
    ・排気量はおもに 957cc / 1.1L / 1.3L / 1.6L(XR2)など
    ガソリンエンジン直列4気筒 OHV)
    ・最高出力はグレードによって異なるが、概ね40馬力台~80馬力前後(XR2は80馬力前後)

  • トランスミッション
    ・4速MT(5速MT設定のモデルも一部あり)
    ・一部市場では3速ATが設定されるケースもあったが、かなり限られた仕様

  • 寸法(代表値)
    ・全長:約3,570mm前後
    ・全幅:約1,570mm前後
    ・全高:約1,360mm前後
    ホイールベース:約2,280mm前後

  • 車両重量
    ・約700~800kg程度(グレードによる差あり)

  • サスペンション
    ・フロント:マクファーソン・ストラット
    ・リア:トレーリングアーム(コイルスプリング)

  • ブレーキ
    ・フロント:ディスクブレーキ
    ・リア:ドラムブレーキ

  • タイヤサイズ
    ・標準的には 12インチまたは13インチが設定され、グレードにより若干の違いあり

  • 燃料タンク容量
    ・約40リットル前後

  • 最高速度(参考値)
    ・グレードによって130~160km/h程度
    ・スポーツモデルのXR2は160km/h以上をマークする仕様も存在

  • 特徴的なグレード
    ・「XR2」:1.6Lエンジンを搭載し、エアロパーツや専用足回りを装備したスポーツモデル

 

フォード・フィエスタの初代モデルは、1976年に世界へ向けてデビューしました。当時の欧州では燃料費高騰や車社会の変化に伴い、小型車を求める人々が急増しており、各メーカーがこぞって軽量で燃費効率に優れたコンパクトカーを生み出していた時代です。そのなかでフォードは、いわゆる「アメリカ車の大きく力強いイメージ」から一歩抜け出し、ヨーロッパ市場のニーズに合わせた小さく扱いやすいモデルを投入することを目指しました。こうして初めて開発された前輪駆動のフォード車が、この初代フィエスタという存在です。開発コードネームは「ボブキャット」と呼ばれ、スペイン工場での生産を視野に入れて計画が進められました。ボディはコンパクトでありながら、当時のフォードらしい個性的なフロントマスクと丸みを帯びたシルエットが融合したデザインで多くの人々を惹きつけます。結果的に「小さいけれど実用的で楽しい」というコンセプトをしっかりと体現しており、市場デビュー当初から欧州全域で好評を博しました。この頃、フォルクスワーゲン・ゴルフやルノー・サンクなどの競合車も人気を集めていましたが、フィエスタはフォード独自のスポーティな乗り味とリーズナブルな価格設定を武器に、都市部でのモビリティをより気軽なものへと変えていきます。とりわけヨーロッパの若年層にとっては、初めてのマイカー候補として選ばれるケースが多かったようです。そんな初代フィエスタがどのようにして誕生し、どんな魅力を通じて人々の生活に溶け込んでいったのか。ここからは、その背景や特徴、そしてさまざまなエピソードを交えながら、より深く探っていきたいと思います。

誕生までの道のりと小型車への挑戦

初代フィエスタが誕生する以前、フォードは大型のFRセダンを中心としたラインナップで知られていました。しかし、1970年代に入るとオイルショックなどの経済的要因に加え、道路事情や消費者の嗜好にも変化が生じます。そうした動向を見逃さず、ヨーロッパのユーザーが求める「軽さ」「取り回しの良さ」「燃費性能」を備えたモデルを作ろうと決断したのが、フォード本社を率いていたヘンリー・フォード2世です。開発の際には、まず前輪駆動の導入が大きな課題となりました。これまでフォードが長く培ってきたFRレイアウトのノウハウとは異なる技術が必要であり、エンジニアたちは試行錯誤しながら新たな設計に挑むことになります。さらに、スペインに新工場を設立する計画も同時進行で進められ、現地での生産に最適化された生産体制を構築しながら車両デザインや生産手法を磨き上げていきました。

当時のプロジェクトは、社内でも「果たしてアメリカの大手メーカーがヨーロッパ式の小型車をうまく作れるのか」という不安が渦巻いていたといわれます。しかし、いざ蓋を開けてみると、初代フィエスタはその不安を吹き飛ばすかのような成功を収めました。可愛らしく親しみやすい外観ながらも、意外なほど軽快なハンドリングと、それまでフォード車にはなかった小回り性能が多くのファンを獲得します。特に都市部での生活を意識して設計されたため、狭い路地や駐車スペースでも苦労せず扱える点が評価され、若者や女性ドライバーにも「フィエスタなら運転できそう」と感じてもらえたのが強みでした。エンジン排気量は小さめでも、街中をキビキビと走る感覚はドライバーの心を踊らせ、週末のちょっとした遠出にも不自由なく使える万能さがユーザーの支持を集めていきます。ヨーロッパの路上で初代フィエスタを見かける機会が増えるにつれ、その愛らしいスタイリングと実用性を兼ね備えた姿は「フォードが生んだ小さな革新」として人々の記憶に深く刻まれていきました。

開発プロセスとテスト走行が生んだ完成度

初代フィエスタの開発にまつわる話には、スペインでの生産立ち上げや、各国の道路事情に合わせたテスト走行など、興味をそそるエピソードが数多く存在します。中でも印象的なのは、発売前にフォードが欧州各地で実施した「ユーザーテスト」の徹底ぶりです。実際に一般ドライバーに近い社員やテスターがさまざまな道路環境を走り回り、燃費から操作性、シートの快適性に至るまで細かく記録をとったといわれています。その結果、街中でのストップ&ゴーが多い都市部でも扱いやすいクラッチや変速比が採用され、シート形状も多様な体格に合うよう改良が施されました。当時としては画期的な方法であり、こうした地道な取り組みがフィエスタの完成度を高めた大きな要因となっています。

また、スペイン工場で生産するメリットとして、当時は人件費や生産コストを抑えられるだけでなく、地中海地域の市場へもスムーズに供給できるという利点がありました。スペインの明るい気候や国民性とフィエスタの愛らしいデザインがうまくマッチし、現地ではすぐに人気モデルとなったともいわれています。そして開発途中のコードネーム「ボブキャット」という呼称は、その俊敏さと可愛らしさのイメージが相まって一部メディアやファンの間でちょっとした話題を呼びました。正式名称が「フィエスタ」に決定すると、パーティーを連想させる響きの明るいネーミングとあいまって、さらに親しみやすさが増したのだと思います。

興味深いのは、初代フィエスタの登場がフォードにとっても大きな転機になったことです。従来のイメージであった大柄なセダンやマッスルカーばかりを作るメーカーから、ヨーロッパの街角に馴染む小型車もきちんと設計できるブランドへと認識が変わっていきました。また、初代フィエスタのオーナーを対象としたアンケートでは、「運転する楽しみや手軽さに加え、ちょっとしたレジャーでも活用しやすい」という声が多く寄せられ、フォードのマーケティング戦略にも大きく貢献したといわれます。こうしたバックグラウンドを知ると、単なるスペックや販売台数の成功だけでなく、開発・生産の過程そのものがエピソードに富んだドラマのような存在だったと感じられます。

オーナーたちの体験談と小さなホットハッチXR2

初代フィエスタに乗っていたオーナーの体験談を掘り下げてみると、この車が持つ不思議な魅力に気づかされます。あるオーナーは、若い頃に初代フィエスタを中古で手に入れ、ヨーロッパ中を旅するようにドライブを楽しんだと語っています。高速道路を延々と走る場面ではパワー不足を感じることもあったそうですが、それ以上に小型車ならではの機動力が功を奏し、道端の小さな村や住宅街に入っていくときでもストレスなく進めたといいます。狭い路地を抜けた先で思わぬ景色に出会うこともあり、「大柄なクルマでは味わえない小回りの良さが冒険心をくすぐってくれた」というエピソードには、フィエスタならではの旅行体験がぎゅっと詰まっているように思えます。

また、別のオーナーは家族の足としてフィエスタを愛用し、日々の買い物や子どもの送り迎えに活躍させていました。後部座席やラゲッジスペースは決して広大ではなかったものの、シートアレンジを工夫してベビーカーや買い出しの荷物を積むことに大きな苦労はなかったという話を聞くと、コンパクトカーのメリットが活かしきられていたのだと感じます。さらに、「子どもが成長した今でも、あのフィエスタの独特のエンジン音や乗り味を忘れられない」という声もあり、家族の思い出がぎっしりと詰まった相棒として機能していたのがわかります。

初代フィエスタのスポーティグレードとしては、後期に追加された「XR2」というモデルも一部で有名です。小さなボディに1.6リッターエンジンを搭載し、エアロパーツや専用ホイールで武装された姿は、一見すると可愛らしいイメージからかけ離れているようでありながら、そのギャップがファンを魅了しました。ヨーロッパの若者たちが「小さなホットハッチ」としてXR2をカスタマイズして楽しむ文化が生まれたのもこの頃で、街中で見かけると「おっ、あれが噂の速いやつだ」といった盛り上がりがあったそうです。こうした多面的な楽しみ方を提示できる点も、初代フィエスタが単なる移動手段にとどまらず、人々のライフスタイルに深く根付いていった理由の一つではないでしょうか。

まとめ

以上のように、初代フィエスタはフォードというメーカーにとっても、そして1970年代後半からの欧州の自動車市場にとっても大きな転換点を象徴する存在でした。これまで大排気量の車が主流だったフォードが、本格的に小型車市場へ乗り込んだことで、ブランドのイメージや技術の幅を一気に広げるきっかけとなったのです。オーナーたちの体験談を追いかけると、少しの不便さも含めて愛嬌として楽しむ姿が見えてきますし、小型車ならではの機動力を活かして旅先で思わぬ発見をするようなエピソードが語られるのもフィエスタならではだと感じます。可愛らしいデザインと合理的な設計を両立した初代モデルは、ヨーロッパの街角に新しい風を吹き込み、その後のフォード車の方向性までも左右するほどのインパクトを残しました。現在でもクラシックカー愛好家や歴史的モデルに関心のあるファンからは、「小さいけれど大きな足跡を残したクルマ」として語り継がれているのが、初代フィエスタの魅力を示す何よりの証といえるのではないでしょうか。