シトロエン DS(1955年-1975年) 諸元データ
- 販売期間:1955年 ~ 1975年
- ボディタイプ:4ドアセダン / ステーションワゴン / 2ドアコンバーチブル(DS Décapotable)
- 駆動方式:FF(フロントエンジン・フロントドライブ)
エンジン(主なバリエーション)
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1.9L 直列4気筒(初期型)
- 排気量:1,911cc
- 最高出力:75PS / 4,500rpm
- 最大トルク:13.5kgf·m
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2.0L 直列4気筒(DS20)
- 排気量:1,985cc
- 最高出力:91PS / 5,500rpm
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2.1L 直列4気筒(DS21)
- 排気量:2,175cc
- 最高出力:109PS / 5,500rpm
- 最大トルク:17.3kgf·m
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2.3L 直列4気筒(DS23)
- 排気量:2,347cc
- 最高出力:115PS(キャブレター) / 130PS(電子燃料噴射)
トランスミッション
- 4速MT(初期モデル)
- 5速MT(後期モデル)
- 4速セミオートマチック(ハイドロニューマチック駆動)
寸法・重量
- 全長 × 全幅 × 全高:4,825mm × 1,790mm × 1,470mm
- ホイールベース:3,125mm
- 車両重量:1,250kg ~ 1,400kg(仕様による)
足回り
- 前サスペンション:独立懸架(ハイドロニューマチック式)
- 後サスペンション:独立懸架(ハイドロニューマチック式)
- ブレーキ(前後):前ディスク / 後ドラム(後期モデルは4輪ディスク)
特徴
- 画期的なハイドロニューマチック・サスペンションにより、極めて滑らかな乗り心地を実現
- エアロダイナミクスを考慮した流線型ボディ(当時としては先進的なデザイン)
- 1955年のパリ・モーターショーで発表され、初日に12,000台の注文が殺到
- 1967年のマイナーチェンジで方向を自動調整するヘッドライト(カーブに合わせて動く)を採用
- フランス大統領シャルル・ド・ゴールの公用車としても有名
シトロエン DSの革新性——自動車史に残るフランスの傑作
自動車の歴史には、時代を超えて愛される革新的なクルマがいくつもあります。その中でも、1955年に登場したシトロエン DSはまさに革命的なモデルでした。流線型の未来的なデザイン、高度なサスペンション技術、抜群の快適性と安全性を備えたこのクルマは、登場と同時に世界中を驚かせました。特に、ハイドロニューマチック・サスペンションは、それまでの乗り心地の概念を覆すほどの衝撃を与えました。
シトロエン DSは、その斬新な技術と実用性の高さから約20年間にわたり生産され、累計で145万台以上が販売されました。フランスを代表する名車として知られ、フランス大統領をはじめ、多くの著名人にも愛用されました。この記事では、シトロエン DSの開発背景、他のクルマと比べた際の優位性、そして後世に与えた影響について紹介していきます。
1. シトロエン DSの開発背景
シトロエン DSの開発は、戦後のフランスが新たな技術革新を求める中で始まりました。シトロエンは、常に先進技術を取り入れたクルマを生み出すことで、ブランドの個性を際立たせてきました。1934年に登場したトラクシオン・アバンは前輪駆動の一般化に大きく貢献しましたが、それに続くさらなる革新を求めていました。
DSのデザインは、フラミニオ・ベルトーニが手がけ、流線型のスタイルと空力特性を重視したフォルムが特徴的です。一方、サスペンション技術はポール・マジェスが担当し、ハイドロニューマチック・サスペンションが開発されました。この技術により、極めて快適な乗り心地を実現し、荒れた路面でもスムーズに走ることができました。
1955年のパリ・モーターショーで初公開されたDSは、初日に1万2千台もの注文が入るという驚異的なスタートを切りました。その後も改良を重ねながら1975年まで生産され、シトロエンの象徴的な存在となりました。
2. 当時のクルマと比べたシトロエン DSの優位性
1950年代は自動車技術が急速に発展していた時代ですが、シトロエン DSは他のどのクルマとも違う特長を持っていました。
最大の革新は、やはりハイドロニューマチック・サスペンションです。油圧とガスを組み合わせたこのシステムは、従来のリーフスプリングやコイルスプリングとは一線を画す乗り心地を実現しました。さらに、車高を自動調整する機能が備わっており、荷物の積載量や路面状況に応じて最適な姿勢を保つことができました。
デザイン面でも、DSは非常に先進的でした。当時のクルマはボクシーなデザインが主流でしたが、DSは流れるようなフォルムを採用し、空気抵抗を大幅に軽減しました。その結果、高速走行時の安定性が向上し、燃費の向上にも貢献しました。
また、安全性の面でもDSは群を抜いていました。衝撃を吸収するボディ設計、大型フロントガラスによる視界の確保、そして後年にはステアリング連動式ヘッドライトを採用するなど、当時の最先端技術が詰め込まれていました。
これらの特徴により、DSは単なる高級車ではなく、技術革新を象徴するクルマとして世界中で高く評価されました。
3. シトロエン DSが後世に与えた影響
シトロエン DSの影響は、自動車業界全体に広がりました。特に、サスペンション技術の進化において、その影響は計り知れません。ハイドロニューマチック・サスペンションは、その後の高級車やスポーツカーに採用され、現在のエアサスペンション技術の基盤となりました。
デザイン面でも、DSは大きな影響を与えました。流線型のボディは、その後のクルマにも取り入れられ、空力性能を重視したデザインが主流となるきっかけとなりました。特に、シトロエンのCXやXM、さらにはDSブランドの最新モデルにもそのデザイン哲学が引き継がれています。
安全技術の面でも、DSは先進的でした。ステアリング連動式ヘッドライトは、後のアクティブヘッドライトシステムの元祖となり、現在では多くの高級車に搭載されています。
さらに、文化的なアイコンとしてのDSも忘れてはいけません。フランス大統領のシャルル・ド・ゴールが公用車として使用していたことで有名で、1962年の暗殺未遂事件では、DSの卓越したハンドリング性能が彼の命を救ったとも言われています。
まとめ
シトロエン DSは、単なるクラシックカーではなく、自動車の技術とデザインにおいて歴史的な転換点となったクルマです。その革新的な技術、快適な乗り心地、独創的なデザインは、当時の自動車業界に衝撃を与え、後の技術革新にも大きな影響を与えました。
その優れた性能と先進的な思想は、今のシトロエンやDSブランドのモデルにも息づいており、自動車の未来を切り開く重要な遺産となっています。シトロエン DSは、今なお多くの愛好家に愛され、語り継がれるべき名車なのです。